第28回
日本精神医学史学会
大会
2025年11月8日(土)・9日(日)
立教大学池袋キャンパス
立教大学池袋キャンパス
この度、2025年(令和7年)11月8日(土)・9日(日)の2日間にわたって、立教大学池袋キャンパスを会場として、第28回日本精神医学史学会学術総会を開催いたします。本大会のテーマは「近代精神医学は人とどのように向きあってきたのか-歴史学的探究のその先へ」です。
17・18世紀のヨーロッパでは、啓蒙思想と呼ばれる思想潮流がうまれ、人間が自らの理性、特に科学と合理主義に従って生きることの重要性を感得するようになっていきました。この思想は、人間の理性のありかを、神でも聖書でもなく人間にあるものとし、理想の生き方を定めてゆきます。経験に基づいて論理的に思考し、規則正しい生活をおくり、労働に勤しむこと。日々の生活は規則正しく、過剰な飲酒や性愛行動は慎み、根拠に乏しい感情には振りまわされず、努めて冷静な言動と行動を心がけること。女性・子ども・動物など保護すべき弱き者たちには慈愛を施すこと。怒ってはいけないし、手をあげてもいけない。まして、動物同士を戦わせて見世物にし、ときに怒気を帯びた歓声を発するなど、人間のすべきことではない。このように、です。
精神医学は、この思想のもとで理性の番人という重要な役割を担う存在として、近代に生れ落ちました。こころの失調状態を悪魔や霊のしわざといった宗教や迷信によって理解するのではなく、自然科学によって理解し、合理的な治療法を供する学問として、です。この学問の発展によって、こころを病んだ人たちに対して、次第に人間的な処遇がなされ、適切な治癒や回復、あるいは社会復帰が促されるようになったことは、疑いようもありません。一方で、理性の保持という人間たる条件を満たさないことから、様々な権利や名誉のはく奪状態も生じました。
しかし、そこには、肯定にも否定にも単純には終わることのできない、様々な矛盾が認められます。精神の正常と異常は明確に分けられるものなのか。明らかに病的な行動と道徳的に問題のある行動の境界線はどこにあるのか。悪魔や霊の存在を信じる者が理性的ではないとすると、神への信仰もまたそうなのか。そもそも自分に理性があるかどうかはどのように確認できるのか。こうした問いは、人間と向き合うことにほかならず、近代精神医学はまさにこの任にあたってきたと言えるでしょう。ここに、本大会のテーマが認められます。
本大会では、精神科医香山リカ先生を特別講演の演者として迎えるほか、①「精神科医が読む過去のカルテ-歴史的な臨床から何を学ぶのか」、②「再訪・フランクルと精神医学」の二つのシンポジウムを軸として、開催いたします。大会運営は、前回大会に倣い、WEBによる事前登録を行わず、すべて現地登録・現金支払いの省エネ型運営を行うこととします。持続的な大会運営のあり方を探るうえでの一つの試みとして受け止めていただきたいと思います。
末筆ながら皆様の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。
2025年4月吉日
大会長 高林陽展 立教大学文学部史学科・教授
副大会長 梅原秀元 東海大学文学部歴史学科・特任教授