Shire とのM&Aに反対する理由

第2版

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このたびホームページを開設し、「武田薬品の将来を考える会」としての見解を発表しました。ご一読いただき、ともに考えていただければ幸いです。2018年5月14日

今回のM&Aは、シャイアー株を一株あたり7,424円(49ポンド)と評価して、現金で3,295円(21.75ポンド)と、新たに発行する4,130円(27.26ポンド)相当の武田株式(0.839株)で支払われます。

現在の発行株数は武田が7.9憶株、シャイアーが9.4憶株(推定)なので約50:50の合併比率となります。

一見すると対等合併のように見えますが、武田側には非常に不公平な仕組みとなっています。

以下、反対する理由5項目を説明します。

1.武田株主側とシャイアー側株主の間の不公平

2.借入金の著しい増加

3.収益力の低下

4.パイプラインの評価

5.リストラ計画

6. 結論およびレポート全文

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Shire plc(シャイアー)とのM&Aに反対する理由

今回のM&Aは、シャイアー株を一株あたり7,424円(49ポンド)と評価して、現金で3,295円(21.75ポンド)と、新たに発行する4,130円(27.26ポンド)相当の武田株式(0.839株)で支払われる。現在の発行株数は武田が7.9憶株、シャイアーが9.4憶株(推定)なので約50:50の合併比率となる。以下、反対する理由として下記の5項目を説明する。

1.武田側株主とシャイアー側株主の間の不公平について

シャイアー株主が取得する一株あたり49ポンドの価格は、M&Aのニュースが流れる直前(3月23日)のシャイアー株価と比べると64%高く決まりました。その後シャイアーの株価は25%上昇していますが武田薬品の株価は19%値下がりしています。この取引による武田側の過剰な負担が株価に影響しており、両社の株主間で著しく公平を欠いた取引であることは明白です (レポート p.3)。

4月20日に発表された合併スキームではシャイアー株主が利益を得る一方で、武田側株主が損失を被ることが明白となりました。その結果、市場ではシャイアー株を買って武田株を空売りする裁定取引が誘引され、株価は5日間で10%も下落しました。4月25日に発表された修正提案によって空売りの誘発は解消されましたが、それまでに武田薬品の株価を下落させた合併スキーム自体の問題を無視して4月23日の株価を価格算定の基準としています。そもそも、シャイアー側株主への対価に異常に大きい現金部分がある限り、武田側株主には不平等な負担が生じます。この問題は新会社の経営リスクに対する負担において一層顕著となります。

シャイアーは3年前(2015年)までは売上高7000億円程度の中堅企業でしたが、過去2年間にバクスターの血液事業子会社バクスアルタや希少病の家族性血管浮腫(HAE)で成功したバイオベンチャーなどを買収して、売上高を1兆7000億円へと2.4倍にしました。その結果、原価率が急上昇して粗利率が低下、さらに急増した無形固定資産の償却費によって営業利益率は大幅に低下しています。合併シナジー(おもにコスト削減)が期待通りに実現せず、利益率の回復に時間がかかっている状況です。そこへロシュ(中外製薬)が開発した二重特異性抗体の血友病治療薬が承認され、主力とする血友病治療薬の売上が大幅に減少する見通しとなりました。シャイアーはこの血液製剤事業を年間3000億円と推定されるEBITDA利益の12年分を支払って買収しています。

買収した事業の収益が12年は続かないと判明した時点で、シャイアーが現在かかえている6兆円にのぼる「のれん代および無形資産」のうち1兆円以上が毀損する恐れがあります。バランスシートの右側では資本剰余金として計上されている2兆8000億円のうちの1兆円です。資本剰余金はM&Aなどの資本取引によって生じ、投資家にとっては会社が解散でもしなければ戻ってこない出資金です。シャイアーの株主は武田薬品がM&Aのために支払う総額3兆円の現金プレミアムによって、減損リスクがあった資本剰余金をすべて現金化して回収できることになります。一方、新生武田薬品の借入金は6兆円を超え、無形資産が毀損すれば破産さえも懸念される状況となります。

2.借入金の著しい増加について

武田薬品の昨年12月末時点の借入金は1.1兆円でしたが統合後は6兆円を上回ります。合併会社の売上高2年分に相当する借入れとなり(*注)、返済不能となるリスクが大きくなりますが返済計画については未だに説明がありません。この点に関して債権格付け機関である、S&P、ムーディズ、R&Iは、いずれも信用度の格下げを表明しています。ウェバー社長は投資適格を維持すると表明していますが、その根拠は不明です。格付け機関では疑いを持って検討中のようです。(*注)2017年12月末時点での既存借入金が3.2兆円(武田薬品1.1兆円およびシャイアー 2.1兆円)、合併による現金支払に当てる借入金(約3.1兆円)= 6.3兆円 (レポート p.19)

3.収益力の低下について

統合により「のれん代および無形資産」が3兆円増加します。これを負担する新たな借入金3.2兆円の利払いは毎年1200億円(金利4%)となり、従来の借入金(2.8兆円、金利3%)の金利上昇分を合計すると金融費用は1500億円増加します。さらに無形資産の償却費が1,000億円(推定)、統合コスト1,000億円程度が発生します。合計すると統合後の新会社には毎年3500億円の追加負担となり、純利益はほぼゼロ(20億円程度)まで落ち込む見通しです。2017年度予想177円(第3四半期発表で201円に上方修正)の一株当たり利益(EPS)は1円まで落ち込むリスクがあります。なお、2017年度の利益は和光純薬の売却益1,000億円でかさ上げされています。今後はヘルスケア以外に大型の売却可能資産は底をついています。

5月10日付け日本経済新聞の記事によりますと、ウェバー社長はEBITDA(税前、利払い前、償却前の利益)が統合後は3倍になると発言していますがトンチンカンも甚だしく、企業会計法規に対する無知を露呈していると考えます。配当の原資はGAAP(会計基準)ベースの純利益であり、これによる一株当たり利益(EPS)です。

ウェバー社長は現在180円(総額1400億円)の配当を維持すると言っていますが、これまで配当金が40円を下回っていたシャイアー側の株主にも180円を配当しなければなりません。年間2,800億円の配当原資が必要となりますが、前述の収益状況では配当水準を維持できないことは明白です。 (レポート p.20)

4.パイプラインの評価について

シャイアーはフェーズ1から申請段階まで40品目の研究開発プロジェクトを公開しています。件数としてはメガファーマに匹敵しますが、そのほとんどは血友病(4品目)、家族性血管浮腫(6品目)、注意欠陥・多動性障害(ADHD、3品目)など、既存製品のライフサイクル・マネジメント(LCM)であり売上増加は期待できません。5年以内に上市の可能性があるフェーズIII以降の開発品で、LCM以外の開発品は10品目しかなく、5年後(2022年)の売上ポテンシャルはベストケースで21億㌦(2300億円)、成功確率を掛け合わせたリスク調整後は10億㌦(1100億円)です。既存製品との合計(153億ドル、1兆7000億円)は年率2.0%の増加にとどまる見通しです。(レポート p.35-36)

ウェバー社長が期待を表明している希少疾患領域は患者数が極端に少なく、治療薬は発売と同時に100%普及し、市場は拡大しません。価格は初めから高額なため、値上げは許されません。また、行政やアカデミアの支援によって競合品が想定以上の速さで出現する、といった問題があります。大手製薬企業が希少疾患を成長分野と位置付けて依存するのは非現実的です。 (レポートp.38-40を参照)

5.リストラ計画について

収益力が低下するとの懸念を先に述べました(第3項)。これに対してウェバー社長は総額1,500億円のコスト削減で補うことを公約しています(*注)。これでは十分ではありませんが、もっと重要な問題は武田側がリストラの中心となることです。シャイアーは3年前までは売上高6000億円程度の中堅企業でしたが2016年にバクスターの血液事業などを買収して売上規模を2.4倍としました。その反動で原価率が上昇し、利益率が大幅に減少しています。合併シナジ―(コスト削減)が実現せず、大幅に悪化した利益率が回復していないとして、年初来の株価は武田との合併が憶測される3月末までに20%下落するという状況でした(p.29)。

今回のM&Aは、シャイアーがウェバー氏を取り込んで武田を食い物にしているようにさえ感じられます。ウェバー社長のもとでここまで悪化した経営状況に日本人従業員の苦渋と我慢は限界に達しています。国内の経営基盤をこれ以上弱体化させることには強く反対します。 (*注)5月9日付け 日経バイオテク

結論

以上の問題点から、株式価値で7兆円、シャイアーからの金融負債の引き受けまで含めると9兆円にもなろうとする買収額が妥当とは思えません。