ShireのR&Dパイプライン

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はじめに

これから夏に向かいます。

今年は新種のアサガオの種を買うことにしました。自宅のフェンス際に種をまいて水やりを続けるつもりです。暑い盛りには、これまで見たこともない群青色の涼しげな花を咲かせるはずです。

夢がふくらみます。

そのタネはとある園芸店で売っています。

通常、種の値段は一袋500円ですが、まったく新しい発明品種ということで10,000円で売っています。その代わり、袋の中には普通の倍、40粒のタネが入っているそうです。

さて、いよいよ支払うところですが、一万円札を握りしめて立ち尽くしています。タネをまいて、1か月世話をして、ようやく咲いた花が普通の水色やピンクだったらがっかりです。そうなったら、販売した園芸店で1万円を返してもらえるでしょうか?

その園芸店は最近できたばかりです。あの1万円のタネがこれまでに群青色のアサガオを咲かせたかどうか、誰も知りません。

有名チェーンの新規出店ならいいのですが、「シャイアー」という名前は業界の人さえ良く知らないのです。

いくら夢があっても1万円を払うのは無謀かも知れません。今回は初めてなので、1、2粒でもいいですから500円で買いたいところです。

シャイアーは過去3年間の決算報告書(10-Kレポート)で40件前後の開発品目を開示し続けています。それが本当に素晴らしいものなら、どうして株価はPER10倍、PBR1.0倍と最低水準に放置されてきたのでしょうか?

「考える会」の見解「時間をかける」のが研究開発

株式市場は非常に効率的です。なぜなら良いニュース、悪いニュースは瞬時に株価を動かすからです。

とくに効率的な米国市場でPER10倍、PBR1.0倍と極端に低い株価倍率は、企業の成長性に明白な問題があるというシグナルです。このシグナルにはふたつの見方があります。

  • 既存製品の売上が安定しているならば、「開発パイプラインには見るべきものがない」という見解。もしくは反対に、
  • 「パイプラインには価値がある」ものの、既存製品の落ち込みで相殺されることが想定されている。

シャイアーの既存製品については、血液事業で1兆円を超える減損処理が必要となる見通しです。これはロシュ・中外グループの二重特異抗体ヘムライブラが10月に非インヒビター型の血友病患者にも広く使用できるようになることが影響するためです。

開発パイプラインには、その1兆円を穴埋めするポテンシャルがあるでしょうか?前頁の表ではフェーズ3段階以上のプロジェクトの今後5年間の収益予想をして、1000億円に留まりました。仮に、そのなかに大化けして年間売上が2000億円に達するものが一つでもあれば、現在価値を1兆円と考えることは可能でしょう。

もし武田薬品に「目利き」の方がいて、市場では気づいていない隠れたブロックバスターを見つけているとなると、話が変わってきます。そのような可能性のある品目があれば、議論をしてパイプライン全体の評価を見直す必要があります。

株式投資では、「市場は間違っている」と主張する証券アナリストの推奨銘柄を買ってみるのも面白いかもしれません。しかし、それはポートフォリオ50銘柄のうち一つか二つにとどめるべきであり、資金の全てを投資するような対象ではありません。ましてや借金までして一点張りの投資をする対象にはなりえません。

最後に、M&Aでは必ず聞かれる「時間を買う」ことの意味についてです。「時間を買う」ことが可能で、意味があるのは、例えば発売間近の新薬をもって海外展開をするときに、販路となる現地企業を買収するようなときでしょうか?研究開発に関してはまったく逆だと思います。

研究者は時間をかけて積み重ねてきた失敗が強固な土台となって、ようやく成功に手が届くのではないでしょうか?シャイアーは希少病薬を開発していたベンチャー企業を多数買収して、「のれん代」を2兆円もかかえこんでいます。それは身売りしたベンチャー企業の創始者に支払われた創業利得、シャイアーからは流出した資金の額です。これを手にした創業者たちはまだシャイアーにいるでしょうか?

シャイアーの研究開発に関するウェバー氏の発言からはこの点で疑問が生じます、

6月13日付けBloombergのインタビュー記事は衝撃的でした。

おわりに

6月13日付けBloombergが報じたウェバー氏の発言です。

「買収を繰り返して拡大してきたシャイアーは研究開発に力を入れて来なかったことから統合にあたっては摩擦を伴う重複の解消は必要ない」(Bloomberg6/16)

ウェバー氏はこの前まで、シャイアーは希少病、遺伝子治療、などなど「研究開発型」の先進企業だと言っていたのではないでしょうか?

また、アサガオのタネの話です

これを袋につめて売ろうとしている園芸店自身が、種の一つ一つの由来を知らないかもしれません。

タネなので、信じて仕入れるしかないわけですが、これを持ってきた人たちはもういないのです。

タネを売るのに困って、店ごと売りに出すことを思いついたら、、、

シャイアーと同じになるのではないでしょうか?

R&Dパイプラインの評価に.pdf