株主総会に向けて

存在しない「UKルール」を理由に情報開示を拒否してきた武田薬品

11月21日

6月末に行われた定時株主総会おいて、M&Aが収益に与える影響を懸念する一般株主の質問に対して、武田薬品の経営陣は『UKルールによってOfferからClosingまでの間は新会社に関する収益見通しを開示することはできない』と回答しました(>参考)。「UKルール」とは、英国のTakeover Panelが管理・公表しているTakeover Code(買収等に関するルール)を指しています。「考える会」は英国当局(Takeover Panel)に対して、武田薬品の経営陣が、

臨時株主総会直前になって収益見通しを下方修正する情報開示をしたことはルール違反ではないか?

との問い合わせをしました。当局からの回答は、

「追加情報の開示はいつの時点でも違反ではない。」

「問題はTakeover Codeに開示を制限するルールは存在しないのに、これを理由に開示していなかったことにある」

というものでした。武田薬品が情報開示を拒む理由に用いてきた「UKルール」は存在しないことが確認されました。

背景

2018年5月8日にシャイアー社の買収を発表した武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)は、12月5日(水)に臨時株主総会を開催します。シャイアー社を買収する対価の一部となる新株を発行することについて是非を問い、株主の3分の2以上が賛成すれば、シャイアー社との合併が承認されたことになります。この合併に伴う新株発行により、武田薬品の発行株数はほぼ2倍の16億株となります。新会社の利益が倍以上にならないと、武田薬品の株主にとっての価値が希薄化(Dilution)することになります。

一方、シャイアーの株主が受け取るのは武田薬品株0.84株(4100円)に加えて現金3300円、合計7400円(£49)となります。株価が£30だったシャイアーの株主は合計£49を受け取るので64%の利益となります。その総額7兆円のうち株式部分は4兆円で、現金が3兆円にも上ります(>参考)。武田薬品はそのために3兆円もの借入金が必要になります。

シャイアーの株主は買収されることで享受する利益が期待される一方で、武田薬品の株主には希薄化による株式価値の減少と減損リスクが懸念材料として発生しました。発行株数が増える分、利益も増加すればこの懸念も晴れますが、下記にご説明する通り、合併による売上の成長、一株あたり利益(EPS)の増加は見込めないと「武田薬品の将来を考える会」(以下、「考える会」)は考えています。

投資家の動向

シャイアーの株価はロンドン市場で現在(11月16日)£45、M&Aの観測が出てから50%上昇しています。ここまで上昇すれば売却して利益を確定する投資家も多いはずですが、M&Aを成立させ、さらにもう10%上昇の利益を期待する超短期の裁定取引業者やイベントドリブン・ファンド(ヘッジファンドの一種)によるテクニカルな買いで支えられています。

一方、武田薬品の株価は現在(11/16)4300円まで低下しています。シャイアーとのM&Aが憶測される直前の3月20日 5500円から22%減少し(>参考)、その間にほぼ横ばいだった市場(日経平均+3%、東証指数-7%)を大きく下回りました。ヘッジファンドの空売りに負けた長期投資家が損切りをして退出したためと見られます。武田薬品の将来を左右する臨時株主総会の投票において、短期的な利益を追及するテクニカル投資家の比率が大きいことは特筆しておかなければなりません。

説明の回避、臨時株主総会の前倒し開催

武田薬品の株価低迷は、シャイアーとのM&Aによって株主が被る損害と将来のリスクを案ずる市場の反応を反映しています。これに対して武田薬品の経営陣は「リスクのないM&Aはない。リスクを取らないことこそがリスクである」、さらにシャイアーとの合併はEBITDAが3倍となり、一株利益(EPS)は合併初年度から増加し、収益力が強化されると説明してきました。

ここで説明に用いられているEBITDA(税引前利益に特別損益、支払利息、および減価償却費を加算した値)は、企業会計ルールに基づく経営指標ではありません。「考える会」は、武田薬品がEBITDAを用いた説明をすることにより、M&Aによって被る本来の経営的なマイナスの影響について言及していないことを指摘しました(>参考)。

加えて「考える会」は公開質問状(10月1日付)において、企業会計の原則に基づき配当金に直結する本来の指標である一株利益(EPS)で説明することを求めました(>参考)。しかし、武田薬品経営陣からの十分な回答は得られず、代わりに経営陣は当初2019年1月に開催予定であった臨時株主総会を12月5日に前倒して開催することを11月12日に発表しました。

武田薬品による収益見通しの下方修正

武田薬品経営陣は「公開質問」への回答を避ける一方で、臨時株主総会の招集通知においては「考える会」の質問事項を反映した修正を行っています(>参考)。これまで、一株利益(EPS)の見通しは「買収完了後最初の通期事業年度の実質的な1株当たり利益は大きく増加」と説明していました。その説明が「買収完了後、1株当たりの利益が実質ベースでは買収完了後1年以内に増加、財務ベースのEPSは3年度以内に増加」と変更されました。武田薬品によって初めて開示された企業会計ルールに基づくEPSの見通しです。

今回初めて開示された追加情報はこれまでの説明に反して、合併初年度と2年目(2019年、2020年)のEPSが減少することを示唆しています。

「考える会」の活動

「考える会」は、証券アナリスト、弁護士、コンサルタントの力を借りて、本買収について分析、将来的に過大であると思われるリスクを懸念して、ホームページなどを通して一般公開してきました。更に、疑問点、問題点について、会社側へ2回に亘り質問状を提出して説明を求めてきましたが、回答はセロに等しいものでした。この質問状を報道メディアへ公開し、積極的に取材を受けるなかで「考える会」として本事案に反対する意思を表明しています。また、ニューヨークとロンドンにおいて投資家とのミーティングを開催するなど、反対票の確保に努めてきました。

一方、一部の創業家の方も「考える会」に参加し、応援していただいています。創業家の中心人物である、元武田薬品社長、会長を務められた武田國男氏は側近の方たちを通して本事案に反対する意向を示され、先日のフィナンシャルタイムズ紙にも掲載されています。また、個人投資家については、内外での地道な活動の展開により、15%近い反対票が確保できると思われます。創業家と武田OB、さらに一般株主の皆様の支持をいただいて、現時点での 反対票は25%前後に達するのではないかと推測しています。しかし、M&Aを阻止するために必要な3分の1(34%)の反対票を達成するのは困難な状況です。

会社側は支持固めのために、国内大手機関投資家やヘッジファンド主体の海外機関投資家とのミーティングに奔走しており、臨時株主総会では3分の2以上の賛成票が確実に得られるとの見通しを表明しています

利害関係者による投票について

「考える会」はこれに対して、「公開質問状の再提出および追加質問(11月6日付)」において、今回のM&Aでアドバイザーを務める一部の金融機関は武田薬品の株主でもあり、シャイアー案件で賛成票を投じることにより「利益相反」が生じる問題を指摘しました。今回の取引によって全体で1000億円を超える収入を得ているM&Aアドバイザー(証券会社、広告代理店、法律事務所など)、さらに新株発行手数料や3兆円の借入金による利息など巨額の収入を見込む金融機関は、賛成票を投じることによって利益の確定を意図することになります。一方で そうした金融機関の顧客である武田薬品の株主はすでに時価総額で1兆円もの損害を受けており、この損害をも確定させることになります。「考える会」はこのような利害関係のある金融機関は臨時株主総会で投票をするべきではないと考えています。 なお、スチュワードシップコードでは、

「我が国においては〜利益相反の懸念〜個別の議決権行使結果を公表することが重要である」、

と運用機関としての指針を示しています。

のれん代および無形資産のリスク

M&Aが成立すると新生武田薬品(新会社)の「のれん代および無形固定資産」は11兆円にのぼり、 総資産の75%を占めます。シャイアーにとって最大製品である血友病治療薬が落ち込むスピードによっては「考える会」が最大のリスクと指摘してきた減損処理が3年以内に現実のものとなる可能性があります。その時には利害関係において賛成票を投じた金融機関、ビジネス関係企業の責任が問われることになります。

シャイアーが4000億円を売り上げる血友病治療薬(アドベイドおおびファイバ)は総売上高の25%、および粗利益の大半をしめています。10月4日にFDAの全面承認を取得した二重特異性抗体の画期的な新薬ヘムライブラ(ロシュ/中外製薬)は4週間に1回の自己注射でも治療可能な皮下注射剤です。1日おきの静脈注射が必要なシャイアー製品の市場シェアは大きく落ち込むことが予想されています。またアドベイドとファイバは2016年にシャイアーがM&Aをしたバクスアルタの製品です。

この取引によって2016年に発生した「のれん代および無形固定資産」の金額4兆円の大半に影響すると推測されます。競合品ヘムライブラの売上動向によっては2兆円を超える減損処理が必要となる可能性があります。

武田薬品の未来を一緒に考えませんか?

「考える会」は「武田薬品の未来を一緒に考えませんか」をテーマにイラスト版のホームページ(>参考)を開設しています。武田薬品は今回のように緊急で性急なM&Aを必要とする状況ではありません。むしろ、潰瘍性大腸炎治療薬エンティビオや血液がんの一種である多発性骨髄腫の治療薬ニンラーロの好調に支えられて、グローバル市場で強い成長力を示しています。M&Aをしなくても、中期的には国内の大手製薬企業のなかで最も安定した成長が期待できる企業の一つです。タケダ経営陣が危機感を煽おってきた開発パイプラインの問題は武田薬品に限ったことではありません。むしろシャイアー買収にともなうパイプラインの枯渇が心配されます。7兆円もの資金が流出した後は資金余力がなくなり、有望新薬の導入や有力企業との事業提携に支障をきたすからです。

まとめ

シャイアーとのM&Aが実現すると海外株主が7割以上を占めます。新しい株主は武田薬品の一番の強みである日本での200年を超える歴史と伝統を理解してくれるでしょうか?M&A費用7兆円のうち3兆円は海外に流出する現金です。これだけの金額を国内の研究基盤に投資できれば、どれだけ大きな効果が得られるか考えてください。日本での研究開発を大切にして、国内のアカデミアやバイオベンチャーからの信頼を回復することを最優先にするべきです。母国での尊敬を失った企業がどうやって海外で生き残って行けるでしょうか?

個人投資家の皆様へ

最後に、株価は不当なM&A価格が引き起こしている減配・減損の懸念から下落し、低迷したままです。個人投資家はビジネス関係も、特別待遇もなく、損害を被るだけの立場です。武田薬品のOB株主にとどまらず、広く行動を起こしていただきたく、お願い申し上げます。個人投資家は全体の25%をしめています。否決できる3分の1に届かなくても、利害関係者の投票自粛が実現すれば20%台でも否決できる可能性があります。12月5日まで2週間しかありません。応援いただけますよう、改めてご検討ください。


まとめ 20181122.pdf