シャイアー社買収案件に関する:臨時株主総会へ向けての公開質問状

2018年10月1日

武田薬品工業株式会社

代表取締役社長・CEO

クリストフ・ウェバー殿

武田薬品の将来を考える会・別紙株主有志

同代理人弁護士:村林 俊行

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虎ノ門東宝ビル9階

ロア・ユナイテッド法律事務所

TEL 03-3592-1791(代)

シャイアー社買収案件に関する:臨時株主総会へ向けての公開質問状

拝啓 秋涼の候、貴社におかれましてはますますご隆昌のことと拝察いたしております。私ども「武田薬品の将来を考える会」(以下幣会)は、武田薬品工業株式会社の株式長期保有を前提とした会社の永続的繁栄を願う株主及びOB有志の集まりであり、その標榜するところは、会社経営陣との対話による持続的な成長への寄与にあります。

さて、貴殿と幣会はこれまで複数回の面談を重ね、私どもの考え方や提言内容については、充分にご理解頂けているものと考えておりました。しかしながら 本年3月、突然貴社がアイルランドのシャイアー社を約7兆円もの金額で買収するとの報道があり、その後5月8日には貴社経営陣より本件買収の意向が正式に発表されました。その判断に対して市場は明確に反応し、株価の急激な下落が1兆円もの株式時価総額の減少を招くなど、会社経営そのものが危惧されるような事案へと発展しております。弊会は本件買収には断固反対の立場を表明し、その理由と根拠についても繰り返しご説明して参りましたが、貴社からは充分な回答もないまま今日に至っております。

貴社がグローバリゼーションの名の下に積極的なM&A戦略を展開して久しいものがありますが、象徴的な事例であるナイコメッド社の買収は、事業収益率の低下を招き、中長期的な観点を含めても大きな問題を抱えていることは明白です。また弊会はこれまで一貫して、武田薬品のグローバリゼーションとは、事業構造や文化を無視した単なる業容拡大ではなく、自社の歴史と伝統に裏打ちされた企業理念を社員全員が共有し、先ずは自社での新製品開発、次に中小規模の企業買収等による後継品担保により、グローバルに必要とされる企業になることだと提言して参りました。しかし残念ながら貴社は、ナイコメッド社買収の経験を生かすことも、弊会の提言を受け入れることもなく、それどころか今回さらに、会社そのものを脅かすような巨額買収案件の遂行に向けて遮二無二突き進んでおられます。弊会が愛する武田薬品工業の将来に大きな不安を感じずにはいられません。

本買収案件の是非は、次回の臨時株主総会において決議されることになりますが、それに先立ち、弊会が把握している本件に関する問題点や疑問を再度、質問状の形でまとめました。なお、本件は日本経済史上最高額の買収事案であり、その過程は株主に留まらず広く国民の目に見える形で残すべきとの考えから、報道・メディア・ネットでも同時に開示する公開質問状の形を取らせて頂きます。事情ご勘案の上、今一度本買収案件が武田薬品工業の持続的な発展に不可欠なものかを真摯にご検討頂き、計画の見直し、或いは中止の判断を下されることを衷心よりお願いするものであります。

なお、本質問状に対する貴社ご回答は10月末日までに頂戴致したくどうぞよろしくお願い申し上げます。

敬具

2018年10月1日

シャイアー社買収案件に関する公開質問状

【質問事項1】 本件買収に伴う借入金の返済計画はどうなっているか。

また買収後の1株当たりの利益(EPS)をどう予想するか。

買収には必ず正の面と負の面があり、その双方に関する情報なしに適切な判断を下すことはできません。特に本買収は7兆円に上る超大型案件であり、現在の武田薬品の財務余力を考慮すれば、失敗が即、会社の根幹を揺るがす事態に繋がる規模といえます。当然ながら株主としては議決権行使に当たってより慎重な判断が必要となるわけですが、現在残念ながらその材料となる客観的な情報が著しく不足している状況です。

例えば買収に当たって必要となる借入金の返済計画や、買収後の1株当たりの利益(EPS)の予想は、普通の感覚をもった株主であれば、買収に当たってまず確認したい情報です。しかし貴社はこれまで英国における買収関連法規制であるTakeover Codeを理由にこれら情報の開示を拒否し続けてきました。今回それでも再度質問申し上げるのは、このままではとても買収可否の適切な判断を下せないことに加え、借入金返済計画やEPS予想の開示を制限するTakeover Code等の根拠規定についても開示して頂けていないためです。貴社がこれまで開示を拒んできた根拠についても、併せて詳細をお聞かせ願えればと存じます。

一方、現時点で貴殿が開示した情報といえば、僅かに買収・統合後にEBITDAが3倍になるというもののみです。しかしEBITDAは買収によるマイナス要因を取り込めないという欠点を抱える指標であり、そもそも一般的な会計基準に基づいたものですらないことはご承知の通りです。合計で6兆円にも上る借入を予定していながらその返済計画を示さず、買収計画公表後に1兆円も株式時価総額を下げていながら、買収後の株式の希薄化(約2倍)を前提に配当原資となるEPSの予想もせず、買収可否を判断する材料として開示するのはプラス面だけを拾ったEBITDAのみです。これでは株主に目隠しした状態で議決権行使を要請するようなもので、我が国経済史上最大の買収案件の実体がこれかと思うと情けなさすら覚えるほどです。弊会は、本件一つを取ってみても、シャイアー買収の危うさが逆説的に示されていると考えております。

もし貴社が本買収案件の危険性は充分に小さいと考えるのであれば、買収の可否を判断する材料として適切な情報を開示して頂くことを前提として、買収後の借入金返済計画や一般的な会計原則に基づく1株当たりの利益予想などを早急に明らかにして頂きたく、お願い致します。


【質問事項2】収益の基幹である血液製剤の分野で今後苦戦が確実視されるシャイアー社の企業価値に65%もの高額なプレミアムを設定した根拠は何か。

弊会が本買収案件に対して抱いている危惧は大きく二点です。一点目は武田薬品の財務余力に比して買収金額そのものが大きすぎること。二点目はシャイアー社に7兆円という金額に見合う価値があるとは思えないことです。一点目については質問事項の1で触れましたが、質問事項の2は二点目に絡んでお伺いするものです。

シャイアー社は、自ら「希少疾患と特殊疾患のリーディングカンパニー」と謳っている通り、同分野の売上高約82億ドル(約9,000億円)はグローバル製薬企業のなかでも最大です。しかし、希少病治療分野のほとんどの製品は過去2年間に行ったM&Aによって取得したもので、今後の成長力と次世代製品を開発するR&D体制についての問題は広く指摘されているところです。その顕著な例として2017年売上高世界第1位の規模を誇るメガ・ファーマ、ロシュ社グループの血液学分野での動きが挙げられます。ロシュ社グループのメンバーであるジェネンテック社は、米国食品医薬品局(FDA)に対して血友病治療薬・ヘムライブラの承認申請を行い、本年4月に画期的治療薬、6月には優先審査品目に指定されていました。ヘムライブラは有効性や投与頻度の点で従来品を上回ることから、売上が50億ドル(約5,500億円)となると予想する証券アナリストもいるほどで(BioSpace・2018年9月18日付レポート)、FDAは早速これを優先審査品目と定め、早ければ10月にも承認される見通しとなっています。

ご存じの通りシャイアー社は血液関連治療薬を収益の基幹とし、同分野を世界で引っ張る立場にありましたが、もしヘムライブラの販売が米国市場で開始されれば、主役交代と共に多大な損失を被ることは確実です。つまり特定分野に照準を定めて寡占化を図るシャイアー社のビジネスモデルが、ロシュ等のメガ・ファーマを含めた他企業も開発に本腰を入れ始めたことで、今後は通用しなくなるおそれが高いことが、この事例からは読み解けます。それはすなわち、これまで強みだったはずの特定分野に集中するシャイアーの事業構造は、一つの失敗がただちに全体へ影響を及ぼす弱みへと様変わりする可能性を意味します。事実、同社の血液関連治療薬の売上は総額の4分の1です。シャイアー社は確かに見るべきところのある企業ですが、今わざわざリスクを冒してまで買収する価値があると本当にいえるでしょうか。

一方で貴社が本買収案件に当たって設定されたシャイアー社のプレミアムは約65%。報道によれば日系企業による買収プレミアムは平均30%程度とのことですので、平均の倍以上のプレミアムが設定されたことになります。ヘムライブラの市場参入が及ぼす影響について、遺伝子組み換え第8因子製剤の市場シェア減少を50%とする予測もある(メリルリンチ証券・7月5日付レポート:p.25)ところ、貴社ではその影響をごく軽微に見積もっておられるようですが、肝心の根拠についてはここでもTakeover Codeを盾に口を閉ざされています。繰り返しになりますが、買収価格の根拠もなしに、買収可否を判断することは困難です。本買収に於いては、シャイアー社に平均の倍以上のプレミアムを設定するという、特殊に過ぎる価格設定です。貴社が本買収案件を前に進めたい、そして本買収案件に自信をお持ちなのであれば、現在の設定価格を妥当だと判断された根拠を明らかにして頂きたく、お願い致します。

【質問事項3】本買収案件に関する取締役会議事録と取締役各位の発言内容を開示して頂けるか。

本買収計画が正式発表されるまでには、貴社経営陣にあってもメリット・デメリット両面からの慎重な検討や健全な議論があったものと思料されます。しかし貴殿を始めとした取締役の方々は、定時株主総会や記者会見等においても一方的に本案件の正当性を主張するばかりで、どのような経緯を経て 貴社の取締役会が本買収案件に最終的に承認するに至ったかが全く見えて きません。このままでは弊会としても、本シャイアー社買収案件は、企業存続の危機と株主の利益毀損を無視し、合理的な理由なく推進された無謀な経営判断と結論せざるを得ません。

貴社説明によれば、本買収案件を含め、貴社における経営判断は、社外取締役を過半数とする取締役会や各種委員会での審議を得た上でなされているとのことです。もしそうであれば本買収案件に関する取締役会議事録と取締役各位の発言内容を開示することは、本案件の経緯を知りたい弊会にとっても、また企業ガバナンスの健全性を広く示すことで本案件に対する信頼性を高められる御社にとってもプラスに働くものと考えております。そこで、貴社におかれましては、法的手続を経ずに任意にて本買収案件に関する取締役会議事録と取締役各位の発言内容を開示して頂けるか明らかにして頂きたく、お願い致します。

【質問事項4】武田薬品工業の持続的成長にとって、シャイアー社買収が唯一の手段でしょうか。

シャイアー社買収は目的ではなく手段であり、目的はあくまで武田薬品の持続的成長にあることは、貴社にも同意して頂けるものと存じます。弊会が一貫して問い続けているのは何故その手段がシャイアー社買収なのか、です。果たして武田薬品にとって、それだけが手段なのでしょうか。

現在の武田薬品工業に、画期的な新製品の創出が強く待たれるのは明らかです。また世界的にも新薬開発の難易度が年々高くなり、自社だけでの開発には限界があることも広く認知されているところです。かかる状況下、企業買収が一つの有効な手段であることも間違いないでしょう。

しかしながら、現時点で時価総額3兆円台の企業が総額7兆円に上る買収を断行し、新規借入3兆円を含めて借入金を6兆円にまで膨らませることが、武田薬品の持続的な成長に向けての唯一の手段とはどうしても思えません。

武田薬品の将来とは何でしょうか。常にそれを考えてきた弊会にとっては、現在貴社が行おうとしているのは事業構造や企業文化の違いを無視した単 なる業容拡大でしかなく、とてもそこに武田薬品の将来を描くことは出来 ません。貴社がグローバリゼーションを標榜して久しいですが、武田薬品のグローバリゼーションとは、武田薬品がタケダらしさを発揮し、世界でグローバルに必要とされる企業となることに他なりません。大型買収に血道を 上げることは、むしろこれまで培ってきた歴史や企業文化といったタケダ らしさを破壊することにはならないでしょうか。

弊会としてはシャイアー社買収に頼らなくても、例えばオープン・イノベーションへの取組強化、ライフサイエンス分野の産業クラスター創出、小中規模のバイオベンチャーの買収、さらには日本国内の製薬業界再編といった、武田薬品にしか出来ない、そしてシャイアー社買収よりも武田薬品の持続的成長に寄与する手段が他にいくらでもあると考えています。

弊会の目には今、何かに取り憑かれたようにシャイアー社買収に固執し、何を聞かれても買収の正当性についてのみの強弁を続け、マイナス面やそれ以外の手段については頬かむりする貴社の姿が映ります。最近、日本企業の海外買収で成功したと考えている企業の割合は1~2割という報道(2018年 8月30日付日経新聞)がありました。様々な理由はありましょうが、買収というある種一過性のお祭りのような状況の中で、いつのまにか買収それ自体が目的となってしまい、いざ統合が済んでみると、仕事の進め方も理念も異なる者同士が机を並べたところでうまくいくはずがないという、おそらく途中から薄々は感じていたはずの事実だけが厳然と残った、という経過もあったのではないでしょうか。これがまさに今、貴社が辿ろうとしている道です。立ち止まってよく考えて頂きたい。まだこの道を引き返すことが出来ます。果たして武田薬品にとって、シャイアー社買収だけが唯一の手段なのでしょうか。もう一度、弊会や武田薬品を心から愛する人々と、武田薬品の将来について共に考えて頂き、武田薬品工業の持続的成長にとって、シャイアー社買収が唯一の手段か回答して頂けないでしょうか。よろしくお願い致します。

以 上

臨時株主総会へ向けての公開質問状_20181001.pdf