11月18日(日)加藤幸子ピアノリサイタル「ドビュッシーとラヴェル:命」Debussy and Ravel: “Life and Rebirth”
15時開演 開場14時30分
加藤幸子は非常に特別な思いでこのコンサートに臨む。
加藤幸子は10代で渡米。ジュリアード音楽院でピアノを学び、現在マンハッタンの北のはずれの丘陵地帯ワシントン・ハイツ、クロイスターズ(回廊という意)という中世ヨーロッパの修道院の建築様式を模した美術館の近くに居を構える。このあたりはマンハッタンの中でも知的で芸術家肌の人々が多く住む閑静な街。自室にスタインウェイのヴィンテージピアノを置き、演奏活動、教育活動に長年勤しんで来た。
「ワンコイン市民コンサート」ではこれまで2回、今回を含めると3回演奏することになる。初回はブラームス最晩年の作品とバッハの「ゴールドベルグ変奏曲」。次はオール・ショパン・プログラム。それも非常にリッチな。そして今回のプログラムも非常に重厚なもの。彼女のプログラム・ビルディングから読み取れるのは、加藤幸子とは幸か不幸か、豪速球それも直球しか投げることが出来ない、妥協のない、ごまかしのない世界を常に抱えたピアニストであるということである。彼女の直球を受け止めるには聴く側にもかなり分厚いミトンが必要である。加藤幸子の演奏を聴くということは、彼女が全身全霊で絞り出す凄まじいまでの生きる力、生き様を感じることであり、自分の内面を見つめ続ける加藤幸子と対峙することなのである。
2017年2月19日にワンコイン市民コンサートで演奏し帰米した加藤幸子は、癌の診断を受ける。そして長い長い苦痛に満ちた時間の後に癌を克服して私たちのもとに戻って来た。ようやく。死の淵を覗いた彼女を最後まで支えたのはなんであろうか?いやそのような問いを発する前に、私たちはまず自分に問うてみよう。苦痛に満ちた時間に置かれた自分を支えてくれる存在とはどのようなものであろうか?およそ人間は死病に襲われた時に、どのようにして明日を迎える勇気を持てるのだろうか。
加藤幸子を最後まで支えたのはピアノだった。無理を押して小規模なコンサートを計画したり、Youtubeにコンサート風景をアップロードしたりした。一方で「ピアノ演奏法」の執筆を続けた。しかし加藤幸子を支えたのはピアノだけではない。音楽を通じて知り合った人たち、音楽院の友人たち、愛犬の散歩をきっかけに知り合った人たち、アパートの住民、、、。そういった人たちに強く愛されている自分に初めて加藤幸子は気づく。うんと若い時に、将来ありうる困難な時に自分を救ってくれるのはピアノなんだということに気がついた彼女。ピアノを通じて自分と向かい合う姿勢を培って来た。そういった内省的な生き方をして来た加藤幸子にとって、他者の愛に気がつくとは、自分を見つめ続けている眼差しを、ふと人に向け、その刹那に愛の意味がごく自然に体に染み込んでいったことに他ならない。
加藤幸子が私たちのもとに戻って来てこの日の演奏会を迎える。なんと喜ばしいことだろう。ともに祝福しようではないか!
(ワンコイン市民コンサート実行委員会・荻原 哲)
加藤幸子
美しい音色、幅広いレパートリーと豊かな想像力を持ったピアニストとして知られる加藤幸子は、大阪出身、5歳からピアノを始める。14歳で渡米して以来、数々の賞を獲得。ジュリアード音楽院卒業後、カーネギー小ホールでのニューヨーク・デビューを皮切りに、米国各地で、リサイタルや室内楽コンサートに出演。また日本の現代音楽を世界に紹介するためのコンサート・シリーズWeaving Japanese Soundsをたちあげ、芸術監督として活動。日本・カナダ修好80周年記念の一環として、国際交流基金の協賛の下、カナダ国立美術館を始めカナダ各地でリサイタル、日伯交流年を記念しブラジル各都市でコンサート・ツアーを行うなど精力的な活動を行う。また歴代のジュリアード音楽院卒業生の中から、傑出した100人のうちの一人として、100周年記念誌でその音楽活動を称えられ、その演奏はニューヨークの公共ラジオ局WNYC並びにWQXR、KMZT(ロスアンジェルス)などで放送されている。
2011年にはCentaur Recordsレベルからバッハのゴールドベルク変奏曲をリリース。批評家から、「加藤幸子の演奏は本当に特別なものであり・・・バッハのゴールドベルク変奏曲を愛好する人に是非聴いてもらいたい」「ビロードのように柔らかくシルクのように繊細な音・・・素晴らしく想像力のある演奏・・・らくらくと弾いているようだ」と賞賛される。また日本経済新聞の「ピアニスト」と銘打ったコラムにて、評論家の故杉本秀太郎氏の賞賛を受ける。
2016年には、ニューヨークのクラシカル音楽ラジオ局WQXRのコンサート・ストリーミング企画「ショパン・マラソン」へ招聘され、その生演奏は世界中にストリーミング発信された。
現在ニューヨーク市マンハッタン北部に在住。今年の抱負としては、ユニークなピアノメソッド本の執筆を計画している。
クロード・ドビュシー (1862-1918)
<前奏曲集より>
亜麻色の髪の乙女
アナカプリの丘
枯葉
ヴィノの門
西風の見たもの
<12の練習曲集より>
五本の指のための練習曲、チェルニー氏に倣って
四度のための練習曲
半音階のための練習曲
組み合わされたアルペッジョのための練習曲
和音のための練習曲
<喜びの島>
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モーリス・ラヴェル (1875-1937)
<クープランの墓>
前奏曲
フーガ
フォルラーヌ
リゴードン
メヌエット
トッカータ
<ラ・ヴァルス>