Research

組織化する高分子の世界に挑戦!

−自然環境と生体物質の歴史に学ぶ−

自然界を見渡すと、目に見えるレベルで綺麗なパターンがたくさんあります。たとえば生体組織は小さな分子から「自己組織化」によって創り上げられています。これは、物質そのものにだけ由来している訳ではなく、外的な環境が強く作用した結果です。変化する環境に適応できるように生命が進化した結果、多様な空間パターンやリズムが生まれています。


一方、人工的に合成された分子から物理環境を制御してパターンを創り出す研究は歴史的に長くなされています。しかし、合成分子のままでは医療や工業的に材料化する上で困難を極め、生体組織との調和や自然との共生には幾つものハードルがあります。これに対して我々は直近の研究で、天然分子の多糖が自らパターンを再構築する現象を発見しました。ここで、「なぜ」「どのように」パターンをつくるのかを解明できれば、生体適合性と環境適応性を合わせ持つマテリアルを手に入れることができます。


1.DRY でWET な多糖の自己組織化


天然から抽出された多糖は、どのようにcmスケールの幾何学パターンを生み出すのか、特に、乾燥環境下で多糖が見せる「空間認識」の法則性を検証しています。DRYでWETな非平衡環境下、ミクロにもマクロにも高分子が組織化して析出してきます。実際の生体組織が常に乾燥環境におかれながらもWETなからだを維持していることを振り返ってみれば、水中から陸上進出した生体高分子の進化を紐解く鍵があるはずです。

Biomacromolecules 2016, Sci Rep 2017, J Colloid Interf Sci 2019, Polymer J 2020 Focus Review, Adv Mater Inter 2023, etc

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2.ソフトマテリアルのパターン制御


生体高分子、合成高分子に関わらず多くのソフトマテリアルは、界面の応力制御によって形態制御できます。ほんの小さな環境の違いや僅かな力学的エネルギーの負荷によって、多様な構造や形態を見せます(自己集積、自己相似、フラクタルなど)。これを利用してDRYでWETな環境に適応した医療用材料の設計法を見出したいと考えています。これら「自然美の追求」を基に現象の法則性を導くことが究極目標です。そして、生物がなぜパターンを創るようになったのか?自然科学の大命題に挑戦しています。


Sci Rep 2015, Sci Rep 2017, Adv Funct Mater 2018, Small 2020,  ACS APM 2022, etc

3.人工光合成ゲルシステムの設計


太陽光エネルギーをうまく使う方法はないのか? これは、環境問題やエネルギー問題を抱える現代において地球規模の最重要テーマです。解決のヒントとして、植物の光合成が注目されていす。すでに使われている太陽電池はその一例で、最近では「人工光合成」という概念の研究が進んでいます。我々は、実際の光合成に倣った光エネルギー変換システムを構築し、「人工葉緑体」を作りたいと考えています。


これまでに、分子論的観点、およびシステム論的観点から、さまざまな人工光合成システムが考案されています。しかし、実際の葉緑体が持つ水分子との連動組織が未だ達成されていません。一方我々は、高分子の網目構造を工夫することで、可視光エネルギーによる「酸素発生ゲル」と「水素発生ゲル」をこれまでに構築しています。さらに、高分子の相転移を利用したシステムを設計しています。高分子が伸びたり縮んだりする動きを利用して、新しいコンセプトの人工光合成システムに挑戦しています。


Soft Matter 2009, Adv Funct Mater 2010, Small 2011, Angew Chem Int Ed 2019, Chem Commun 2024, etc

日本語解説  2019