物性論を基礎とする力学現象の理解
Physical properties of strength of material
Physical properties of strength of material
なぜ固体は形を保っているのでしょうか?どうして材料は大きな荷重に耐え,構造物を支えるのでしょうか?またどうして降伏応力は,熱処理や加工によって大きく変化するのでしょうか?機械工学において機械の強度設計は大変重要な分野ですが,材料の強度を決める体積弾性率や降伏応力といった力学物性値は,測定値を材料パラメーターとして与えるものに過ぎませんでした.
これらの性質のうち,材料の加工や熱処理等の履歴によってあまり変化しない体積弾性率のような構造鈍感な性質は,自由電子論によって簡単に説明できてきました.一方,材料の加工や熱処理等の履歴によって大きく変化する降伏応力のような構造敏感な性質は,物性論的な説明があまりなさせてきませんでした.
降伏応力等に代表される材料の構造敏感な性質は,転位等の結晶欠陥の振る舞いが生むことが知られています.転位等の結晶欠陥は,その量が塑性変形等の加工によって増加し,またこれをピン止めする機構も,熱処理等によって変化することから,その力学物性は履歴によって大きく変化します.
一方,第一原理計算に代表される電子論の計算は,完全結晶,もしくは短い短距離周期性を持つ欠陥しか取り扱うことはできず,大きな範囲に複雑に絡み合った欠陥の存在する材料の力学物性をこれらの理論によって説明することはできませんでした.ここに新たなアイディアを載せて,理論的解明を進めることが,研究目標の一つですが,解決には時間が掛かりそうであり,長期戦を覚悟しています.
他方,構造材で最も多用される鉄鋼材料は,広い弾性領域と明確な降伏点や多彩な相変態の存在から,他とは異なる特異な力学物性を示す材料です.この特異な性質の起源の多くは,強磁性的な性質に由来することが知られています.
磁性は電子のスピンや軌道角運動量に由来する量子力学的な現象であることから,降伏現象を生む転位との相互作用も量子力学的な理解が必要となり,こうした観点から力学物性を解明していく必要があります.
計算や理論による解明が難しいことから,本研究室では,鉄鋼を中心とした材料の力学的現象の特質を明らかにする実験を数多く行っています.これにより,特に転位と磁壁の相互作用を解明する端緒を与えられればと考えています.
力学物性に関わらず,機械工学に関する現象には,物理的に解明されてこなかった分野が多数存在します.それらは例えば,摩擦・摩耗を中心とするトライボロジーであり,固体間の接触熱伝達,破壊の不安定現象です.こうした分野に関しても積極的に研究を進めています.
以下では,物性論を基礎とする力学現象の研究の例として,非履歴残留磁化法による付加塑性変形の評価,擬弾性現象に見られる転位の弱いピン止めの評価,減衰振動に影響する相変態の緩和過程,鋼線のへたり現象の解明,気相合成における高圧相の薄膜生成,破壊の不安定現象の解明を,その他に機械工学に関する現象の物理的理解に関する研究の例として,摩擦におけるスティック―スリップ現象,固体間の接触熱伝達における真実接触点の評価,金属の水素化の研究について説明します.
付加塑性変形の非破壊検査
塑性変形過程の評価
パーライト鋼線とオーステナイト鋼線の違い
磁化による影響
相変態の緩和過程
減衰のメカニズム
パーライト鋼線のへたり現象の解明
オーステナイト鋼線のへたり現象の解明
cBN薄膜
DLC薄膜
一方向破壊における破壊の不安定現象
フェーズフィールド法
真実接触点の評価法
スティック―スリップ現象における多体振動間のエネルギー移動
光位相差法
水素吸蔵化装置
金属の水素吸蔵の評価