主題「井草準一の数学:井草曲線、テータ関数、ジーゲルモジュラー形式、そして、保型形式環」
副題「井草準一の数学と私の数学とのかかわり」
日 時:令和8年2月7日(土)9:40~2月9日(月)17:00
代 表: 山内 卓也(東北大学) takuya.yamauchi.c3 (at) tohoku.ac.jp
2月7日(土)
9:40-9:45
開会の挨拶
主偏極Abel曲面のKummer曲面の塩田・猪瀬パートナーは楕円曲面の構造を持ちます。そのWeierstrass 標準形は周期写像を通じて井草不変量でパラメトライズされた簡明な表示を持ちます。この塩田・猪瀬パートナーがなす曲面族は、ShephardTodd の分類でNo.31 の複素鏡映群に付随すると見ることができます。講演者は鏡映群の視点からこの現象の拡張を試み、階数の大きな鏡映群に付随するK3曲面の系列を見つけて調べています(2年前にその一部を紹介する機会を頂戴しました)。例外型複素鏡映群で最大階数を持つNo.34 の群に付随したK3 曲面の周期写像を精密に扱ううえで、対称領域の算術商のLooijenga コンパクト化というものが必要になりました。この事を用いて周期写像の逆対応から保型形式を構成すると、対称領域の超平面配置で極を持つ保型形式が得られます。今回はこの事例について報告申し上げます。
本講演では,Calabi-Yau(CY)多様体の幾何学の観点から, 保型形式を理解する1つの試みを紹介する. 楕円曲線のある種の被覆の数の母関数は準保型形式や概正則保型形式と関係していることが知られている. この描像は3次元CY多様体に対しても成立すると予想されており,その数学的構造は,物理学におけるBCOV(BershadskyCecotti-Ooguri-Vafa) 理論としてミラー対称性の枠組みで理解される. 本講演では, K3曲面に関して同様の議論を行うことで得られるBCOVカスプ形式を紹介する. 本講演は細野忍氏(学習院大学)との共同研究に基づく.
J. Igusa ”A Desingularization Problem in the Theory of Siege ModularFunctions” (Math. Ann., 1967) の内容(の一部) を解説する.次数が2 または3 のSiegel モジュラー多様体のSatake コンパクト化に対し,その境界に沿ってblow up することで特異点解消ができることが主定理の一つである.その後に発展したY. Namikawa やD. Mumfordらによるトロイダルコンパクト化の理論との関係を視野に入れながら解説したい.
井草準一による種数2、偶数重さのモジュラー形式環(1962)、小関道夫による種数2、4の倍数の重さのモジュラー形式環(1976)、それらと組合せ論の関係を述べたいと思います。
2月8日(日)
井草準一氏の「On the ring of modular forms of degree two over Z」のサーベイ講演を行う。井草準一氏は2 次Siegel モジュラー形式の次数付き環がZ 上15個のモジュラー形式で生成されていることを具体的に示した。特にこの生成元の集合はminimal set である。この講演では、次数付き環を生成する15 個のモジュラー形式からなるminimal set について説明し、Proj(AZ(Γ2)) の構成についての結果について述べる。
次のSiegelmodular 形式のなすgraded ring の構造を決定したIgusaの次の論文の紹介を行う.
1. On Siegel modular forms of genus two, Amer. J. Math. 84(1962), 175-200.
2. On Siegel modular forms of genus two (II), Amer. J. Math. 86(1964), 392-412.
論文1では,先立つ論文“Arithmetic variety of moduli for genus two”で得られた不変式論の結果(binary sextics の projective invariants のなす graded ring についての研究)をもとに,2次のSiegelmodular 形式のなすgraded ring の構造を even weight の場合に決定した.結果は,graded ring が weight が,それぞれ 4,6,10,12 の Eisenstein級数で生成されるというものである.論文2では,level2のSiegel modular 形式のなすgraded ring の構造を調べることにより,odd weight の場合をこめて構造決定を行った.この場合weight 35 の形式が加わる.
直行型志村多様体の双有理幾何からの考察として、馬昭平氏により次元が107 より大きい場合は一般型になることが証明された。その次の双有理幾何的な考察として、最高次とは限らない正則微分形式の存在の判定が考えられる。本講演では非最高次正則微分形式が存在する条件をアーサー重複度公式から考察する。とくに、次元 n が奇数かつ任意の有限素点でsplit するとき、特定の次数の正則微分形式が存在する条件を述べる。本研究は馬昭平氏(東京科学大)との共同研究である。
井草はテータ関数ないしはテータ定数の正確な変換公式を(符号のずれを除いて具体的に)再証明ないし再計算している。この変換公式に出てくる定数の一般的な公式の求め方は、意外にも、よく認識されていないと思う。ここでは、この公式を復習するとともに保形因子の複素べきの正確な定義、genus 1 の場合の、符号を込めた変換定数の計算法とSL2(Z) の一般の元に関する具体的な公式を求める具体的な方法、その他の応用、などについて、時間が許す範囲で技術的な計算を避けずに述べてみたい。
2月9日(月)
4 次のテータ関数により,楕円曲線は3 次元射影空間に(2,2) 完全交叉として埋め込めます。主偏極Abel 曲面に対し同じことを考えると,15 次元射影空間への埋め込みとなってしまいますが,Jocobian Kummer 曲面の非特異モデルは5 次元射影空間の(2,2,2) 完全交叉として実現されます。これをテータ関数で具体的に書くと,楕円曲線の場合とよく似た状況になるということをお話ししたいと思います。
種数3以下のgeneric なアーベル多様体上のある種の高次チャウサイクルからベクトル値ジーゲルモジュラー形式が得られること、そしてこの構成がアーベル多様体のランク1の退化に関して関手的であること(すなわちK 理論エレベーターがジーゲル作用素と対応すること)をお話ししたいと思います。モジュラー形式の理論と代数サイクルの理論は楕円積分論という共通の起源を持っています。この200 年の間の発展の代償として二つの分野は徐々に分化してきましたが、21 世紀の今でもまだつながりがあることを伝えられたらと思います。
井草は一連の研究で、標数0でのレベルNのモジュラー関数のモデルであるQ上定義された非特異射影代数曲線を考察し、そのレベルを割り切らない標数pへの還元が標数pでのレベルNのモジュラー関数の非特異モデルと一致することを示した。本論文は、残された困難な場合であるレベルNを標数pが割り切る場合の構成を扱っており、現代の言葉で言うと井草StackIg(p^n)^ordを表現する井草曲線とその普遍族について(p^n > 2の場合に)考察しているものである。この井草曲線とその普遍族は、標数pにおける楕円曲面の研究、特にp切断の研究やその応用に大きく貢献し、いわゆる野生的な現象の究明に進展した。講演では、論文から得られる井草曲線に関する知見と、その後の正標数代数曲面論、特に正標数楕円曲面の数論と幾何への応用について、最新の研究成果も交えて解説する予定である。
We provide an explicit description of two torsion points on the classical Bianchi elliptic quintic curve in terms of Ramanujan’s functions. As a byproduct, we describe generators and defining equations of several modular function fields of level 10 using those functions.
本研究集会は、以下の科研費による支援を受けております:
基盤研究(S):p 進的手法による数論幾何学の新展開(領域番号24H00015) 代表者:都築暢夫
若手研究:退化ホイッタッカー関数と保型L 関数への応用(領域番号23K12965) 代表者:堀永周司
update:2025.10.31