〇オーガナイザ:平嶋 宗(広島大学),松本 慎平(広島工業大学),堀口 知也(神戸大学),福井 昌則(徳島大学)
〇共催:教育システム情報学会中国支部
発表原稿は教育システム情報学会中国支部で取りまとめて支部Webページ上で公開する予定です.
〇主旨
生成系AIの登場は,教育・学習を「解くこと」から「解ること」への転換する好機となる.学習支援研究の立場からこの好機を活かす方法を探るのが本プレコンファレンスである.「「解くこと」よりも「解ること」が学習・教育においてより本質的である」ことは古くから多くの研究者・実践者によって指摘されてきた.ところが,この「解ること」の重要性は広く共有されていたにもかかわらず,学習・教育においては「解くこと」が中心的取り扱われてきたといえる.これは,(1)解くことの方が取り扱いが容易である,ことに加えて,(2)解くことの実用的価値が高い,ことが理由である.情報の蓄積とアクセス方法の遍在化は,記憶することの実用的価値は大幅に減じたものの,解くことに関してはやはり人が行うものとして残っていたといえる.解くことまでを情報ツールに行わせるためには,プログラミングという大きな壁が残っていたからである.生成系AIは,この状況を大きく変える可能性を持っている,というよりも,すでに大きく変えているといっていいであろう.生成系AIが学習・教育目的で人に解かせるように作られた様々な問題を解けることは,すでに数多くの事例が報告されており,解くだけであれば生成系AIに任せればよいという状況が生じつつある.つまり,「解くこと」の実用的価値が大幅に減じることが予想されるのである.では「解ること」に関してはどうであろうか.生成系AIに問題を解かせたとする事例報告の多くは,解けるようにするための工夫,を同時に報告している.このことは,工夫をしていない入力に対して出力された回答を吟味し,適当でないと判断したうえで,問題の表現を変えていることを意味する.これは,生成系AIがお膳立てされた問題は解けること,および,お膳立て自体はできないこと,が共通認識として存在していることを示唆する.これを図式的に考えると,生成系AIは「解くこと」を担い,人が解くことの前処理と後処理としての「解ること」を担っていることになる.少なくとも現時点での開示されている生成系AIの仕組みを考えると,「解くこと」に関して今の延長線上でのさらなる能力向上が予想されるが,「解ること」に関しては未だ模索段階であると言っていいであろう.したがって,「解ること」はいまだ人に残されているといえる.さらに,「解くこと」の能力が高まれば高まるほど,その能力を使いこなすうえでの「解ること」の実用的価値が高まってくる.「解くこと」の実用的価値が減じ,さらに「解ること」の実用的価値が高まっていることは,学習・教育における「解くこと」から「解ること」への変換を妨げていた(2)の理由が失われつつあることを意味する.とすれば残る課題は(1)であり,「解くこと」に比べて「解ること」を学習・教育において実践的に取り扱うことが容易ではない,という課題を解決することが必要となる.これは教育システム情報学の核心的な研究課題の一つであるといってよく,教育システム情報学が学習・教育の実践において真に求められる契機であるとも考えることができる.本プレコンファレンスでは,それぞれの研究者が支援対象としている学習課題を生成系AIにいかにして解かせることができたか,そしてその解かせるための工夫が,「解ること」にどう関係しているのか,そして,それが「解ること」に関する学習活動になりえるかどうか,といったことを報告・共有する.なお,本プレコンファレンスでは一般発表のセッションを設け,上記の趣旨に沿った報告だけでなく,生成系AIを用いた教育・学習の実践やアイデアなどの報告も募集する.