自閉症スペクトラム児の認知機能障害の一部はストレスのため

自閉症スペクトラムでは社会的コミュニケーションの障害にくわえて、いくつかの認知機能に障害があることが報告されていますが、その結果は一致していません(障害があるとするものも、ないとするものも多数あります)。その理由の一因を探るために、自閉症スペクトラム児におけるストレスと認知機能の関係を調べました。


毛髪にはストレスホルモンが蓄積されることから、毛髪中にあるストレスホルモンの量を計測することで過去、日常的(慢性的)に経験したストレスの強さがわかります(1ヶ月で1cm程度のびるので、例えば3cmの毛髪に蓄積したストレスホルモン量を計測すると、過去3ヶ月間のストレスレベルがわかります)。このようなストレスホルモンの計測を行ったところ、自閉症スペクトラム児では定型発達児にくらべて、日常的に高いストレスを経験していることがわかりました。


その一方で、自閉症スペクトラム児にワーキングメモリ(短期的な記憶の保持をする機能)、行動の柔軟性、ならびに、他者の眼差しから感情を読み取る、という3つの認知機能課題を行ってもらったところ、空間性のワーキングメモリ(物体等の位置情報を短期的に覚えておく機能)と他者の眼差しから感情を読み取る能力が、定型発達児よりも低いことがわかりました。


しかし、これらの認知機能とストレスレベルとの相関関係を解析したところ、他者の眼差しから感情を読み取る能力とストレスとの相関関係は見られない一方、空間性ワーキングメモリとストレスレベルとの間には相関関係が見られることから、自閉症スペクトラム児の空間性ワーキングメモリの能力が低いのは、自閉症スペクトラムのメカニズムによって引き起こされるものではなく、実際には慢性的な高いストレスを経験することによる二次的なものが原因になっていることが示唆されました。