自閉症スペクトラム児は社会的順位関係をより強く認識する

ヒトや動物は集団で生活を営みますが、その集団内の個体には社会的順位が派生します。そのため、集団内で利益的に行動し、限られた資源を得るには、他者の社会的順位を正確に認識する必要があります。この研究では、社会的コミュニケーションの障害が示唆されている自閉症スペクトラムを持つ児童定型発達児で、社会的順位がどのような認識の仕方をされているのかを調べました。


社会的順位の認識の仕方には大きく分けて二通りあります。1つは下の図aにあるような社会的文脈(ジェスチャや態度など)によるもの、もう1つは図bにあるように物理的要因(体の大小関係など)によるものになります。図cでは、社会的文脈と物理的要因による認識がそれぞれ相反するため、社会的順位関係の認識は弱まるはずだと考えられます。

実際、定型発達児では、社会的文脈と物理的要因それぞれによる社会的順位認識を行い、これらが相反する場合には、認識が弱まりました。一方、自閉症スペクトラム児では、社会的文脈と物理的要因それぞれの社会的順位認識は定型発達児と同様ですが、これらが相反する場合、定型発達児のような認識の弱まりは見られませんでした。また、定型発達児では、社会的文脈と物理的要因による認識の間には相関関係が見られませんでしたが、自閉症スペクトラム児では、これらの認識に相関関係が見られました。


これらの結果が示唆することとして、社会的文脈(主に、内側前頭前皮質による社会的情報処理)と物理的要因(主に、頭頂間溝による、数の大小などの認識に関わる数理的処理)とがそれぞれ社会的順位認識に関わっているが、自閉症スペクトラムでは、おそらく内側前頭前皮質による社会的情報処理に障害があることから、物理的要因による社会的順位認識メカニズムが社会的文脈の処理を代償的に行っていることが考えられます。