コーヒー栽培の気候ストレスとして選定し定義づけた6つの指標を重みづけし,適地性を評価した地図を作成した。コーヒー栽培にとっての気温,湿度,降水,日照,風等々,気候的条件については多くの研究がある。しかしながら,それらのどれが特に重要であるか相対的な重みづけを定量的に行った研究は見当たらなかった。もっとも,適地性を判断したい地理的範囲における各気候条件の水準とバラつきによることが予想され,汎用的な重みづけは困難とも言える。そこで,沖縄でコーヒー栽培に直接携わっている専門家3名に重みづけをしてもらった(※) 。結果は,表2-1の通りである。6指標それぞれの重みの合計が100%となるように重みづけし,3名の平均を適地性評価に用いた。
※重みづけの手順は AHP重みづけ.pdf を参照
表2-1 気候ストレスの評価指標の重みづけ
3者とも台風の重みが高い。次いで冬の季節風の重要性が強調されていた。夏の高温については評価が分かれた。相対湿度,全天日射量,冬の低温についてはその重要性評価は低かった。
図2-6,図2-10,図2-15,図2-19,図2-23,並びに図2-27の6ストレス指標のスコアを,表2-1の重みづけで統合した気候ストレスの地理的分布を示した(図2-28)。
気候のみで判断すると,沖縄本島北部,西表島,石垣島の山間部の適地性が高い。
コーヒー作に適した土壌統群として,乾性赤色土,適潤性赤色土,乾性黄色土,適潤性黄色土,乾性暗赤色土(非塩基系),適潤性暗赤色土(非塩基系),混合土壌,細粒赤色土,中粗赤色土,細粒黄色土,中粗黄色土,細粒暗赤色土を選定し,土壌適地性スコア10を付した。またそれに準ずるものとして,乾性暗赤色土(塩基系)にスコア6を付した。用いたデータは沖縄県土地基本分類図である。
コーヒーノキは,水はけがよく肥持ちのよい弱酸性(pH5.3-6.0)の土壌が望ましい (Wintgens, 2012)。特にアラビカ種は,長期間の乾燥には耐えうるものの,洪水に見舞われたり,水はけが悪かったりする土壌を嫌う。コーヒーノキの根は,主根の下に軸根,主根の横に側根が伸びる。このうち,主根は60cm以上垂直に伸びるべきで,これが障害物等で曲がると,コーヒーノキの成長を阻害する(三本木氏談)。側根は,地表から30cmあるいは50cm以内に伸び,土壌の栄養素の6割は側根から吸収する。軸根は耐乾性に対応するもので,2~3mに達する場合がある。ところが,地下水位が1.5m未満と高い場合,主根も軸根も伸びず,コーヒーノキの成長が抑制される。孔隙率(土壌中の空気と水が占める割合)が50~60%と排水能力,浸透性,植物の発根の容易さが高い土壌が最適である。
これらから,沖縄の土壌を評価して上記土壌を選択した。図2-29の深緑は,スコア10を付した地点,薄緑はスコア6を付した地点,深い赤色の地点はその他の土壌で,その他は土壌データが与えられていない地点である。「国頭マージ」と称される土壌が広がる沖縄本島中~北部,久米島,石垣島,西表島,与那国島に適した土壌が多い。ただし,地下水位,心土,礫などの確認は当然必要である。
図2-28と図2-29の適地性評価を1:1の割合でウエイト付けして統合した気候条件と土壌条件による適地性の地理的分布を示した(図2-30)。沖縄本島北部および西表島は,気候条件から見ても土壌条件から見ても適地性が高い。ただし,沖縄本島北部でも,特に土壌条件から部分的にスコアの低いところが局所的に見られる。一方で,気候条件のスコアが低い地域で,土壌条件のスコアが高いためにやや適地性評価が上がった地点がある(例えば,久米島,宮古島,石垣島)。こうした地点は,気候ストレスがそれで緩和されるわけではないので,評価の解釈には注意が必要である。
土地の傾斜度は,本来であれば直接適地性評価には含まれない。しかし,急傾斜地では物理的にコーヒー栽培は難しい。また,平坦地も他用地や他の作物との競合が大きく,コーヒー栽培が行われる可能性は低い。
用いたデータは沖縄県土地基本分類図である。ただし,このデータにおける傾斜度は,同じ沖縄県内においても,地域によって傾斜区分が異なっており,県内共通で利用できる区分は3度未満,3度以上8度未満,8度以上15度未満,15度以上30度未満,30度以上の5区分のみである。そこで,以下のように
3度未満:1点
3度以上8度未満:8点
8度以上15度未満:10点
15度以上30度未満:3点
30度以上:1点
傾斜度スコアの地理的分布は図2-31である。
次に図2-30の気候・土壌適合性スコアと図2-31の傾斜度スコアを1:1で統合した(図2-32)。
15度以上30度未満の点数を3点と極端に小さくしたのは,気候・土壌評価で,「やんばる」と呼ばれる沖縄本島の森林や西表島の山間のスコアが高く,こうした地点の評価を調整したい意図がある。これらの土地は深い森が広がっており,実質的にコーヒー園とするには難しい地域である。むしろ,こうした地点を確認するために,土壌区分を利用している。
例えば,西表島のテドウ山の頂上(441.2m)付近の気候・土壌スコアは20点満点中19.4点と高い適地性を示している。しかし,実際にはこの付近でのコーヒー栽培は難しいであろう。この付近の傾斜度は15度以上30度未満で,傾斜度区分スコアは3点である。これによって,傾斜度区分も加味した気候・土壌・傾斜度スコアは,気候・土壌スコアを10点満点評価し,3点を加えた12.7点(20点満点)となる。これは中央点よりやや高い値に留まり,この地点でのコーヒー栽培が容易ではないことが確認できる。
一方で,与那国島の南海岸からやや内陸に入って地点の気候スコアが4.2と低いにも関わらず,土壌が乾性黄色土であり,さらに傾斜区分が8度以上15度未満であるため,気候・土壌・傾斜度区分は16.6と高いスコアとなっている。しかし,この地点のコーヒー栽培の気候ストレスが大きいことに変わりはない。
したがって,気候スコア(図2-28)と土壌スコア(図2-29)を別に確認して,傾斜区分スコアで傾斜度が高すぎる箇所と低すぎる箇所を除外するというのがこの適地性マップの正しい利用方法である。
また,データは50mメッシュ範囲の平均傾斜度であるから,平坦と急斜面が併存する山際などは傾斜度が高くても栽培が容易な土地が含まれるかもしれない。逆に山頂や尾根部分は,傾斜が緩くても実際にはそこにアクセスするのは難しいかもしれない。
傾斜度区分で,極端に傾斜が小さい地点と大きい地点に低いスコアを付したところ,気候・土壌条件で評価の高かった沖縄本島北部のうち特に西岸から山頂部にかけてのスコアが下がった。また,西表島で気候条件も土壌条件も高く評価されたほとんどの地点のスコアの評価も下がった。ただし,こうした地区でも小規模な面積で適地性評価が高いままの地点も残されており,仮にコーヒー栽培を検討するとすれば,こした地点を中心に実際の土地の状態の確認から開始すれば効率的と思われる。
以上,気候条件および土壌条件で沖縄における広域的適地性の評価を行った。しかしながら,これらは限定された指標による大まかな適地性判定と理解すべきである。例えば,夏の高温を30度以上でストレスが生じると仮定しているが,コーヒーノキの高温への適応の報告もあり,これが絶対であるとは限らない。また,風速については,局所的な地形でその影響が限られる場合もある。防風林や日陰樹で,風速や日射の影響を制御できる場合もある。施設で栽培する場合も,風速や日射をある程度制御できる。