夏の高温によるストレスの指標として2023年の30℃以上となった時間数を採用した。Wintgens (2012) によると,最適年平均気温は、夜間18℃、昼間22℃,許容される夜間の気温は 15℃、日中25 ~ 30℃としている。23℃以上で果実の発育と成長が加速し,品質低下する。25℃以上の高温で光合成低下,30℃以上の長時間の高温で成長抑制,葉の萎黄病、「スターフラワー」,花のしおれ、および結実不良が生じる。高温は,葉さび病 (Hemileia Vastatrix) や果実枯れ病 (Cercospora) の発生を促進する。沖縄では,夏季において,しばしば30℃を超える気温を記録する。この30℃以上時間数をコーヒー栽培ストレスの指標の一つとした。
図2-2は名護市山間部(中山コーヒー園付近[北緯26.633, 東経127.956])の年間の気温の変化である。
この地点では,7月に入ると30℃を上回る時間が出はじめ,7月30日の13時の32.4℃の最高気温となる。8月も頻繁に30℃を超える時間があり,10月以降になって最適な気温帯に近づいている。
図2-3は,図2-2のうち8月23~26日の4日間の時間平均気温を示している。例えば,8月23日は,12時に30℃を超え,15時に30℃を下回った。夏の高温の評価指標では,これをもって「30℃以上が3時間」としてカウントしている。ちなみに,この地点で30℃を超えたのは,2023年1年間で計227時間であった。
沖縄全土でこのように30℃以上となった時間数をカウントして,その分布をヒストグラムに表すと図2-4の通りである。最小地点は0.4時間,最大地点は913.4時間であった。
この時間数を夏の高温ストレスの指標として採用し点数化した。この時間数が最小値をとる地点のスコアを10,最大値をとる地点のスコアを1となるように,すべての地点の時間数を1~10の実数に換算した。つまり,夏の高温ストレスは,スコアが10に近い地点ほど低く,1に近い地点ほど高いことを示す。(図2-4中の「Function」が時間数からスコアへの変換を示している。縦軸の「Suitability Value」がスコアに該当する。)そのスコアの分布をヒストグラムに示したのが図2-5である。
さらに,このスコアを地図上に示したのが図2-6である。
赤に近い地点ほど夏の高温のストレスが大きく,緑に近い地点ほど夏の高温のストレスが小さいことを示している。
沖縄本島北部,西表島や石垣島,慶良間諸島の標高の高い地点のスコアが高く(夏の高温ストレスが小さい),多良間島や石垣島・西表島の平地のスコアが低い(夏の高温のストレスが大きい)ことを示している。
冬の低温によるストレスの指標として2023年の1年間で15℃以下となった時間数を採用した。Wintgens (2012) によると,許容される夜間の気温が15℃とされ,低温はコーヒーベリー病を促進するほか,葉の変色をもたらすと指摘されている。4℃以下で病変が派生し,果実の変形・矮小化・落下が生じ,マイナス2℃未満・6時間以上で損傷が生じ,マイナス3~4℃で枯れるとされる。ただし,名護市の2023年で最も気温が低下した日でも7.7℃が最低だった。沖縄県全土で,コーヒーにとって致命的な4℃を下回る気温は考えにくいため,夜間許容温度の下限を採用した。
図2-2に示したように名護市山間部の気温は,12月に入ると15℃を下回る時間が出はじめ,1月の後半をピークとして,3月の初めまで続く。図2-7は図2-2のうちの1月22日~31日までを示している。1月の23日まで最適な気温帯に近いところを推移していた気温は,24日から下がり始め,1月25日1時に7℃を最低として,その後日中を含めほぼ15℃を下回り続けた。ちなみに,この地点で15℃を下回ったのは2023年の1年間で計650時間であった。
同様にして沖縄県全土で2023年1年間に気温が15℃を下回った総時間数をカウントして,その分布を図2-8のヒストグラムに示した。この時間数が最も少なかった地点が0.2時間,最も多かった地点が1,392.7時間であった。
この時間数を冬の低温ストレスの指標として採用し点数化した。この時間数が最小値をとる地点のスコアを10,最大値をとる地点のスコアを1となるように,すべての地点の時間数を1~10の実数に換算した。つまり,冬の低温ストレスは,スコアが10に近い地点ほど低く,1に近い地点ほど高いことを示す。(図2-8中の「Function」が時間数からスコアへの変換を示している。縦軸の「Suitability Value」がスコアに該当する。)図2-9にこのスコアの分布をヒストグラムとして示した。
図2-10は,冬の低温ストレスのスコアを地図上にプロットしたものである。赤に近い地点ほど冬の低温のストレスが大きく,緑に近い地点ほど冬の低温ストレスが小さいことを示している。冬の本島北部,特に国頭村と大宜味村の山間部のスコアが低い(冬の低温ストレスが高い)。
相対湿度のストレス指標として2023年の1年間で時間平均の相対湿度が85%以上となった時間数を採用した。Wintgens (2012) によると,アラビカコーヒーの最適相対湿度の上限60%であり,さらに85%を超えると,製品の品質の低下を招く可能性があるとしている。
図2-11に名護市山中コーヒー園付近[北緯26.633, 東経127.956]の時間平均相対湿度である。この例では,ほぼ年間を通じて85℃を超える時間帯がある。特に7~9月の3か月の相対湿度の高さは著しい。
図2-12は,図2-11のうち,8月23~26日の4日間の時間平均相対湿度を示している。傾向として夜間の相対湿度が高まり,昼間に下がっている。夜間の相対湿度はほぼ100%に近い。中間でも雨が降る等で相対湿度が85%を超えて高まっている。この地点で相対湿度が85%以上となる時間数は,2023年1年間で4,349時間であり,1年間の総時間数8760時間のほぼ半分が相対湿度のストレスを受けていることになる。
同様にして沖縄全土について2023年1年間に相対湿度が85%を上回った総時間をカウントして,その分布を図2-13のヒストグラムに示した。最も少ない地点の総時間数が3.6時間,最も多い地点の値が6832.6時間だった。
この時間数を相対湿度のストレス指標として採用し点数化した。この時間数が最小値をとる地点のスコアを10,最大値をとる地点のスコアを1となるように,すべての地点の時間数を1~10の実数に換算した。つまり,相対湿度のストレスは,スコアが10に近い地点ほど低く,1に近い地点ほど高いことを示す。(図2-13中の「Function」が時間数からスコアへの変換を示している。縦軸の「Suitability Value」がスコアに該当する。)図2-14にこのスコアの分布をヒストグラムとして示した。
図2-15は,相対湿度ストレスのスコアを地図上にプロットしたものである。赤に近い地点ほど相対湿度ストレスが大きく,緑に近い地点ほど相対湿度ストレスが小さいことを示している。西表島,石垣島の山間部,与那国島,沖縄本島北部のスコアが低く,大東島,与那国島,多良間島,石垣島,宮古島の各沿岸部のスコアが高い。
台風のストレスとして,2019-2023年の5年間のの7~10月期における日平均風速の最大値を採用した。台風は,落葉や枝折れ,あるいは倒伏など,コーヒーノキに甚大な被害を与える可能性がある。沖縄はしばしば強力な台風が長時間滞留することがあり,コーヒー栽培のみならず,多くの作物で懸念されている。台風は,どこかを一方向に進むというものではないので,この指標で台風ストレスが小さいと評価されたからといって,実際の台風被害が小さいことを保証できるものではない。しかしながら,位置や地形,植生によって,風速が強まりやすい地点,そうでもない地点などがあるはずで,過去5年間の経歴からその傾向が把握できると考えた。
図2-16は,名護市山中コーヒー園付近[北緯26.633, 東経127.956]の7-10月期における日平均風速である。日平均風速なので,瞬間風速よりもかなり低い風速として記録されている。それでも,この地点は過去5年間に最大16.3m/sの日平均風速を記録した(2020年9月1日)。すなわち,この地点は少なくとも16.3m/sの風が吹く可能性あることになる。
同様にして,沖縄全土について2019-2023年の5年間の7-10月日平均最大風速を調べ,その分布を図2-17のヒストグラムに示した。最小値地点の値が4.6m/sであった。この5年間で,沖縄には幾度となく台風が訪れたが,こうした軽度の風で済んでいる点がある。一方,最大値地点の値が23.4m/sであった。24m/s近い強い風がほぼ一日吹いた可能性もあるし,時間的には短かったが,この数倍もの風が短時間に吹いた可能性もある。いずれにしてもコーヒーノキに甚大に被害を与える可能性がある。
この最大風速を台風のストレス指標として採用し点数化した。この最大風速が最小値をとる地点のスコアを10,最大値をとる地点のスコアを1となるように,すべての地点の最大風速を1~10の実数に換算した。つまり,台風のストレスは,スコアが10に近い地点ほど低く,1に近い地点ほど高いことを示す。(図2-17中の「Function」が最大風速からスコアへの変換を示している。縦軸の「Suitability Value」がスコアに該当する。)図2-18にこのスコアの分布をヒストグラムとして示した。
図2-19は,台風ストレスのスコアを地図上にプロットしたものである。赤に近い地点ほど台風ストレスが大きく,緑に近い地点ほど台風ストレスが小さいことを示している。沖縄本島南部の沿岸部,粟国島,渡名喜島,慶良間諸島,久米島沿岸部の台風ストレスが大きい。一方,西表島,名護市,大宜味村,国頭村の山間部の台風ストレスが小さい。
冬の季節風のストレスとして,2019-2023年の5年間の12-2月の日平均風速を採用した。適度な風は,園内のガス交換を促し,一定以上の風速が続くと,コーヒーノキに機械的損傷を与える。特に若い苗木への影響が大きい (DaMatta, 2004)。沖縄の場合,冬期に気温が適温帯を下回ることもあり,生産者らは大陸から吹き続ける季節風を問題視している。
図2-20は,名護市山中コーヒー園付近[北緯26.633, 東経127.956]の12-2月期における日平均風速である。ほぼ毎日2~6m/sの季節風が吹いていることがわかる。この期間5年間の日平均風速の総平均をとると3.7m/s である。
同様にして,沖縄全土について2019-2023年の5年間の日平均風速の総平均を計算し,その分布を図2-21のヒストグラムに示した。最小値地点の値が1.6m/s,最大値地点の値が8.6m/sであった。
この平均風速を冬の季節風ストレスの指標として採用し点数化した。この平均風速が最小値をとる地点のスコアを10,最大値をとる地点のスコアを1となるように,すべての地点の平均風速を1~10の実数に換算した。つまり,冬の季節風のストレスは,スコアが10に近い地点ほど低く,1に近い地点ほど高いことを示す。(図2-21中の「Function」が平均風速からスコアへの変換を示している。縦軸の「Suitability Value」がスコアに該当する。)図2-22にこのスコアの分布をヒストグラムとして示した。
図2-23は,冬の季節風ストレスのスコアを地図上にプロットしたものである。与那国島,伊良部島,沖縄本島南部の沿岸,北大東島のストレスが大きく,沖縄本島北部,西表島のストレスが小さい。
日射のストレスとして,2023年の1年間で,1日の全天日射量が25MJ/m2を超えた日数を採用した。コーヒーノキは,植生の下層で育ち,日陰を好むと言われるが,実際には日陰への耐性があると理解した方が適切という見解がある (DaMatta, 2004)。実際,ブラジル等では,日陰樹を用いない栽培が一般化している。ブラジルが日なたに強い品種選抜を行ったこともあるが,コーヒーノキ自体が,高照度への順応を示すことが知られており,1200 μmol photons/m2/s まで光合成に低下は見られないという報告がある (Tio´, 1962; Kumar and Tieszen, 1980; Ramalho et al., 2000a)。ただし,施肥不足,摘果不足,水分不足,低温等で,コーヒーノキが衰弱している時の高照度は,植物の防御機構が余剰の励起エネルギーを適切に消散できず、光損傷が発生する場合がある (Nunes et al., 1993; Lima et al., 2002)。そこで確認できた問題がなかったという光子束密度の最大値 1200 を超える1300 μmol photons/m2/s 以上の強い日射の時間をストレス指標とすべきだと考えた。しかしながら,得られるデータが1日の全天日射量(MJ/m2/day)のみであったため,一定の仮定の下でこれを25MJ/m2/day以上に換算した(※) 。
※光子束密度から全天日射量の換算は 全天日射量変換.pdf を参照。
図2-24は,名護市山中コーヒー園付近[北緯26.633, 東経127.956]の2023年1年間の全天日射量である。4月半ばから8月下旬まで25MJ/m2/dayを超過する日が確認できる。この地点で全天日射量が25MJ/m2/day以上となった日が23日確認された。
同様にして,沖縄全土について2023年1年間に全天日射量が25MJ/m2/日以上となった日をカウントしたところ,その分布は図2-25のヒストグラムとなった。最小が0日,最大が69日であった。
この日数を日射ストレスの指標として採用し点数化した。この日数が最小値をとる地点のスコアを10,最大値をとる地点のスコアを1となるように,すべての地点の日数を1~10の実数に換算した。つまり,全天日射量のストレスは,スコアが10に近い地点ほど低く,1に近い地点ほど高いことを示す。(図2-25中の「Function」が日数からスコアへの変換を示している。縦軸の「Suitability Value」がスコアに該当する。)図2-26にこのスコアの分布をヒストグラムとして示した。
図2-27は,日射ストレスの分布を地図上にプロットしたものである。各地とも沿岸部のストレスが高い。沖縄本島の北部山間部と西表島の山間部のストレスが低い。