広域的なコーヒー栽培の適地性評価とともに,大宜味村を対象に筆調査を行い,実際に沖縄の農業がどれだけの規模のコーヒー作を導入できる潜在力を有しているかを推測した。
対象とした大宜味村は,沖縄本島北部に位置し,村の大半が「やんばる」と呼ばれる森林である。面積63.55km2,人口3,160人,65歳以上人口割合32.5%である。就業人口の25.7%が農業に従事している(平成27年,出所:大宜味村村勢要覧)。
大宜味村と周辺市町村のコーヒー栽培の広域的適地性を,前章の結果から図3-1に示した。大宜味村の土壌の大半が赤色土または黄色土でコーヒー作の適性は高い。沖縄県の中では,冬の低温と湿度のストレスはやや高いものの,夏の高温ストレスが低く,台風や冬の季節風,日射のストレスは低い方である。ただし,傾斜度が高く,圃場基盤としてはやや難がある。このため,比較的平坦な場所のみの適地性が高く評価されており,いくらか点在している形となっている。
コーヒーの適地性では,隣村の東村に適地性の高い地点が多いが,東村は現在パイナップルが興作物として位置づけられており,パイナップルとの土地利用競合がある(図3-2)。
大宜味村でも,平成21年時点では,南部を中心にパイナップル畑があったが,出荷先の問題があり,現在は放棄地となっている箇所が目立つ。サトウキビも同様の理由で,転作または牧地化,あるいは放棄地化が目立つ。
筆調査は,沖縄県土地利用状況図にある農地2506筆,面積3,576,641m2(3.58km2)を対象として,2024年10~12月にかけて土地利用の現況を調べた。全筆調査は株式会社あおなみコンサルタントに委託した。その結果は別添の同社報告書にある。全筆調査に先立ち,同年9月に予備調査に入り,同社と打ち合わせを行い調査項目とデータベース設計を確定した。
圃場へのアクセスが私有地であったり,通行できないなどして調査できなかった圃場が314筆,面積で352,000m2あった。これは上記総面積の約10%にあたる。特に,2024年11月の大宜味村の水害で通行止め箇所があり,大宜味村北部に未調査圃場が残った。したがって,調査筆数2192筆,調査面積3,224,641 m2である(図3-3)。
このうち,放棄地については,ビニールハウスの施設が残されている場合は「ハウス」,露地の場合は,その程度を「軽度」と「重度」に分けて,コーヒ栽培を考えた場合の園地条件を調べた。園地条件は,水はけ,日当たり,傾斜の程度と向き,防風,アクセス道,全体的適地性の印象,並びにコーヒーノキを植えた場合のおおよその本数である。放棄地は199筆,面積は383,428 m2,調査面積の11.9%であった。https://drive.google.com/file/d/1F_icHAjvsC0lFy_JuWrqfeeW8pVZw-Pg/view?usp=sharing
※筆調査結果の全データは,別添 大宜味村農地筆調査結果報告書(2024.12.12).pdf を参照。
次に,今回の筆調査で発見した耕作放棄地の事例を大宜味村の南部,中部,北部に分けて紹介する。
大宜味村南部(津波,白浜,大保地区周辺)は,シークワサーだけでなく,パイナップルやサトウキビの栽培も多かった。通行道路から農道に入ったシークワサー畑がまとまって放棄されている圃場があった。
筆調査は,表3-1に示した項目をデータとして残した。まとまった圃場には複数筆を一括して同じ番号を付し評価した。ここの放棄地の筆数は9筆で,アクセス道のある西向きの緩勾配の斜面が軽度の放棄地となっており,圃場は,斜面が片面の防風壁となり,他の三面は防風林で囲われていた。日当たりは中程度で,水はけは良好と見られた。圃場面積は,沖縄県土地利用現況図のポリゴンから計算し,圃場の形状も併せて,おおよその2m間隔でコーヒーノキを栽培した場合の栽培可能本数を記した。また,各調査項目のみによらず,適地性としての全体的な印象も加えた。こうした樹園地跡は,すでに防風対策ができている場合が多く,放棄の程度が軽度であれば,コーヒー作への転換が容易であるように思えた。
表3-1 図3-3中①の筆調査データ
大宜味村南部は,かつてはサトウキビ畑も多かった。サトウキビ畑跡は,緩斜面または平地に広い面積である場合が多く,水はけはよいが,日当たりが強すぎて,日陰樹を新たに設置する必要がある。また,周りも平地で,防風林もない場合が多く,ここも全くの開放状態であった。こうしたところは牧草地に転換されている場合も多かったが,ここは放棄地となっていた。
表3-2 図3-3中②の筆調査データ
隣接する東村はパイナップルの栽培が盛んで,大宜味村南部でもかつてはパイナップル畑が多くあった。しかし,出荷先の問題で,大宜味村のパイナップル作は後退したと聞いた。今回の筆調査では,大宜味村南部に放棄地となったパイナップル畑を散見した。
パイナップル畑跡の放棄地は,水はけのよい斜面が多いが,柑橘園のように防風林には囲まれていない日当たりの強い圃場が多いようである。
表3-3 図3-3中③の筆調査データ
今回の筆調査において,ビニールハウス等の骨組みを残す放棄地も散見された。これらの施設は,寒冷紗や防風ネットに再利用することができる。
この施設栽培放棄地は,大宜味村と名護市の境付近の高台にあって,周辺には牧草地やマンゴーなどの施設果樹を栽培する株式会社経営がある。かつて菊を栽培していたと思われる平張りのビニールハウスの骨組みが残っており,そのままコーヒー栽培に利用することができる。地形的な防風はなく日当たりも強いが,各施設の四面が防風林に囲まれており,施設の骨組みを利用した遮光や防風を行うことができる。
表3-4 図3-3中④の筆調査データ
施設マンゴーを栽培していた比較的棟の高いビニールハウスの放棄もあった。西向き斜面の下の平坦な圃場に連棟のハウスが設定されている。高棟は,沖縄SVが名護市で試行しているように,放棄され高木のマンゴーで射光を制御する方法など,工夫できる余地がある。ただし,すでにハウスを突き抜けている高木がそれに利用できるか,再利用の妨げとなるかは不明である。また,片面は急斜面だが,その対面は開放している。斜面の上には道路が通っておりそれほど高くない。ハウスの骨組みが設置されているとはいえ,防風にやや難があるかもしれない。道路側には防風壁,対面には防風林が必要と思われる。
大宜味村中部(押川,田港,屋古,塩屋,上原,押川,根路銘地区周辺)は,柑橘類の栽培が盛んで,放棄地と判断される圃場は,その縁辺地に一部見られるに過ぎなかった。特に押川地区は,北部にはシークワサー園が広がり,放棄地とみられる圃場は2筆程度であった。一方,押川地区南部の大保ダム西岸には柑橘園(タンカン,カーブチー等か)が多く,縁辺地に限られていたがいくらかの放棄地がみられた。こうした園地は放棄地としては重度の場合が多く,再利用には相応の時間と費用が必要な場所であった。ただし,この地区には,大宜味村としては珍しく東向きの斜面もあることから,コーヒー栽培地としての潜在力が高いかもしれず,注目したい。
大宜味村は,喜如嘉地区や田嘉里地区に平坦な基盤整備された農地が広がり,普通畑やサトウキビ畑として利用されていた。ただし,基盤整備された範囲を超えるとすぐに急傾斜の山間地となる。こうした山端の圃場が軽度~重度の放棄地となっていた。山端の園地が荒れると隣接する圃場への獣害の被害が増すので,好ましいことではない。ここの圃場は,防風林はないが,地形的に包囲され,水はけも良好と判断されるため,コーヒー作の導入は望ましい。
表3-7 図3-5中①の筆調査データ
喜如嘉地区のシークワサー畑が点在する地帯の一角に施設果樹の放棄地があった。連棟のビニールハウスのマンゴーはすでに巨木化しつつあったが,そのうちの1棟に3年目ほどのコーヒーノキが植えられていた。北向きの斜面にある平坦地で日当たりは中程度だと思われる。片面が地形による防風ができているが,防風林はなかった。水はけは良好である。
表3-8 図3-5中①の筆調査データ