金属3Dプリンター

評価方法 Vo.1

複雑構造の寸法測定

 一般的な機械加工部品の寸法精度確認方法は、ノギスやマイクロメーター等を使用する手計測です。

 公差(± 1/100mm)などの厳しい要求箇所の手計測では、力のかけ具合で計測値にバラツキが発生するため計測者によって結果が変わります。しかし、長年検査を担当している方となれば、均等の力加減で計測されるためズレは無いと思っても良いでしょう。

 旋盤、マシニング加工で加工される部品の外形・内径・長さなどは、手計測でも問題ありませんが、同軸度・平行度などが要求される仕様品に関してはそうはいきません。また、単純形状でも数物であれば検査員の負担が大きくなります。

 こういった製品を加工する企業には、3次元測定機が導入されている事が多いのではないでしょうか。

 単品物では計測したい箇所にピックを当てていき(X、Y、Z)座標を取得して長さを計測します。数物の場合はプログラムを組んで

テーブルに何個も部品を載せて一気に計測できます。

 また、丸や四角の組み合わせの機械加工部品であれば計測は問題ありませんが、3Dプリンター造形品や鋳造品となると話は変わります。R部が多い複雑形状の部品では何十点もピックを当てて計測することになりますし、隙間が狭い箇所となるとピックが入らない箇所も多々あり計測困難な場合があります。

 このような形状部品の寸法計測には非接触3Dスキャンが有効で、近年ではスキャン能力が目覚ましく進化しており、1/100mm精度の計測も可能となっています。当社が準備した非接触3Dスキャンについて以下に解説していきます。

Ein Scan Pro HD

当社で用意した非接触3DスキャンはShining 3D社(中国)製の"Ein Scan Pro HD"となります。


価格が手ごろで測定精度も申し分ないことから導入を決めました。本体固定での精度は0.05mm、ハンディーでの精度は0.1mmとなります。一般公差レベルの製品であれば十分に対応できる仕様となっています。


因みに精度0.01mmとなると価格は数千万円に跳ね上がります。

2年前ですとEin Scan Pro HDと同等仕様のものが数千万したとのことで、スキャン技術も著しく進化しているようです。

2,3年後には精度0.01mmの機種価格が数百万に下がること可能性も十分あると思います。

スキャン方法

 まず、ターンテーブルの上に測定物を載せます。

光を反射する光沢物や、光を吸収する黒いものはスキャンできませんので、このような製品には専用スプレーを吹き付けて表面を白くすると計測可能となります。次に、テーブルを360度回転させ任意の角度毎にスキャンを実行していきます。


今回は、自作インペラーを計測してみます。翼が10枚ありますので、36度毎に回転させ10カット計測することにしました。

スキャン結果は右側の写真となります。

 翼の根本が空洞になっていますね。翼の影となる部分は反射しませんので、次に角度を変えて計測してみます。

 2回目の測定を重ね合わせてみると右のようになります。

1回目よりも多少羽根の根本がスキャンできているのが分かります。


それでは、このデータを設計モデルに重ね合わせ、どれだけの

ずれが発生しているのか検証していきましょう。

モデルデータとの比較検証

今回測定したインペラーの設計モデルについて簡単に説明いたします。

・つば部外径 Φ75mm

・高さ 45mm

・翼 10枚 厚み 0.5mm


左の写真は設計モデルに対して造形物がどれだけ誤差があるかを色で識別しています。

赤が設計モデルに対してプラス1mm、青が設計モデルに対してマイナス1mmという見方になります。

例えば、左側の翼の付け根は手前に1mm以上ずれており、右側の翼の付け根(裏側)は奥に1mmずれているということになります。また、翼の外周の上部が円周状に黄色になっていますが、これは造形物がそりあがっているということになります。

上の検証結果は、自動で設計モデルと測定データを照合させています。造形物は下から造形していきますので、翼上部よりも根本のず

れが大きいということは考え難く、この結果は適当ではないと予想されます。

そこで、翼の根本で設計モデルと計測データを一致させて再度を照合させてみると、以下のようになります。

先端が1~3mm程度倒れていることが分かりましたので、サポートを適所につけるなどの対策を施し、造形3回目で設計モデルに

近い造形物が完成しました。


最後に

 金属3Dプリンターの造形物の寸法精度を保証するためには、3Dスキャナーは必須です。

 操作に慣れれば1時間程度で測定、検証が可能ですので、3次元測定器よりも簡単だと思います。しかし、死角になる部分の寸法精度

 が要求される場合は、X線CTなどを使用するなど個別に測定方法の検討が必要になるでしょう。


 造形依頼時に、造形の可否に加え寸法精度保証方法についても同時に検討しなければなりません。

 ちなみに、現在、金属3Dプリンターの造形品(または金属粉末材料)において既存の金属材料のようなJIS規格は

存在しません。一方海外の動向としては、2019年末にドイツで、DIN SPEC 17071という3Dプリンティング(アディティブ

マニュファクチャリング)の品質保証における初の規格が誕生しています。

しかし、「材料や材質ごとの保証がどのように行われていくことになるのか」についてはまだ見えてこない状況であるため、

当社も業界の最新動向に常にアンテナを張っていきたいと考えています。


 今後、3Dスキャン技術を習得した後には、リバースエンジニアリングにも挑戦していこうと計画しています。

 各種ご相談も随時受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。

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