オーケストラや吹奏楽といった多人数による合奏は,重厚な和音など多くの魅力があるが,演奏者や楽器,演奏場所の確保など課題が多く,必ずしも気軽に楽しめるものではない.一方,ピアノソロは,ピアノが1台あれば独りで演奏が可能であるが,演奏の厚みに限界があり,合奏の楽しみを味わうことはできない.これらの中間的な位置づけの演奏形態に「ピアノ連弾」がある.連弾は,2人の演奏者と1台のピアノがあれば演奏が可能であり,合奏の楽しみを味わいつつも比較的手軽に演奏が可能である.
本研究では,多人数編成の楽譜(以下,「総譜」という)をピアノ用連弾譜に自動的に編曲するシステムを実現する.ピアノ連弾譜を生成するうえで,「楽曲の骨格となる部分(主旋律やベース)が残されている(骨格声部維持)」「各演奏者の役割(主旋律や伴奏など)を楽曲の途中で入れ替えることができる(役割交代)」「中級程度の演奏者2人がピアノ1台で無理なく演奏できる(演奏可能性)」ことを重要と考え,これらを満たすように編曲システムを設計する.具体的には,総譜が与えられると,各声部の役割同定,声部のグループ化,声部の選択,ヴォイシングの調整,オクターブの調整を行う.
評価実験では,システムを評価するためのアンケートを行った.人手で編曲した連弾譜と本システムが編曲した連弾譜をランダムに14曲聴き,本研究がピアノ連弾譜を生成するうえで重要と考えている項目それぞれに対しての達成度と,全体的な出来をそれぞれ5点満点で評価してもらった.更に,その回答に対する理由を自由回答してもらった.
骨格声部維持,役割交代は役割同定の際に旋律が残っている楽曲は評価者2名とも4点以上と評価したが,役割同定の際に旋律が消失している楽曲は2名とも1と評価することがあった.演奏可能性は,3和音で7連符がある楽曲を1名が2と評価したが,それ以外は2名とも3以上と評価した.これらの要件を一定程度満たすものを出力することができたといえる.
とはいえ,曲によって出来にばらつきがあったり,部分的に演奏困難な箇所が発生するなど,課題は残る.学習する曲数を増やすなどして役割同定の精度を上げるほか,時間軸に対する音密度に対して音高の密度を下げるなどの工夫が必要である.
準備中...