日本大学文理学部 情報科学科 北原研究室
奥田真輝
概要
本研究では、サッカーの状況理解を促すことを目的とした、サッカーの試合における選手の位置関係や動きの情報を可聴化するシステムを試作する。選手の位置関係を把握することは、サッカーの戦況分析に重要なことである。本稿では、初心者にも直感的にサッカーの理解を促すことを目標とし、ボール保持者に対するパスコースの数と向きを音として表現するシステムを試作した。本システムを用いることで、可視化のみの場合よりも対戦状況を効果的に理解できるようになることが期待される。
サッカーの対戦状況を可視化する研究はすでに存在した.一方,サッカー以外の活動の可聴化の研究もすでに数多く存在する.しかし,サッカーの対戦状況を音や音楽で表現する試みは,これまで存在しなかった.アートの世界では,音を可視化したりダンスなどの身体動作を可聴化する試みは広く行われているが,スポーツにおける状況分析を目的としたものではない.
本論文では,ボールを起点として,複数の深さに注目し,パスを受けた選手から広がるパスコースにも着目する.加えて,単なるパスコースだけではなく,選手の瞬間的なスピードや動きに着目して可聴化を行う.実験として,同じシーンの動画を可視化のみの場合と可視化に可聴化を加えた場合で,サッカーに関する質問の正答率にどれほどの差が生まれるのかを比較した.
チーム全体の動きを可聴化したものでは,パスコースの形成のされ方が,フィールドに広く広がっているものと,近い距離に密集しているもので可聴化による理解の度合いに差が生まれた.正しい意図で可聴化結果が伝わった場面では,可聴化により質問の正答率が数10%上がったが,一方で10%以上下がった場面もあった.スピードの速い選手一人の動きのみを可聴化した質問では,可聴化を加えたことによる正答率はすべての問題で上昇した.本論文では選手の位置座標のみを用いており,選手の体の向きやボールの接地状況などは加味されていないため,可聴化を行う上での着目点を増やすことでより詳細にチームや選手の状況を音に変えることが次なる目標である.