概要
本研究は,ストリートダンスにおけるアクセントの取り方の違いを分析し,その特徴や差異を解明することを目的としている.ストリートダンスのレッスンでは,アクセントの取り方を形容詞対や日常生活の具体的な動きを用いて指導することが多い.これらの表現は直感的な指標であり,アクセントの取り方による踊り分けをどのような言語表現ならダンサー同士で伝わるかは十分には検討されていない.また,どのような身体的特徴から成る表現であるかも十分に検討されて いない. この問題を解決するために,予備実験としてダンス経験者が同じ振りを異なるアクセントで踊った動画を準備し,その特徴を分析する.予備実験では,踊る側 のアクセントを表す形容表現が見る側にどの程度理解できるかを検証し,さらに オープンソースのフレームワークであるMediaPipeを用いて,アクセントの取り方の違いを可視化し分析する可能性を検討する.その結果,アクセントを表す形 容表現は部分的に共有されている可能性が示唆された.また,アクセントの取り 方の違いは加速度や振りを踊るタイミングの違いによって引き起こされることが 示唆された.しかしながら,予備実験では,データセットの元となったダンスモー ション動画に,見切れる部分がある等の不備が存在した.また,分析手法に主観 的な要素が含まれており,信頼性の高い分析手法とは言えなかった.さらに,分 析手法が限定的であり,アクセントの違いを包括的に評価できていない点が課題として明らかとなった.
そののち,これらの課題を解決するために精査実験を行った.まず,アクセン 2 トの取り方の違いを定量的に分析が可能なデータセットの再構築を行った.精査実験に適したデータセットの再構築を行うため,ダンス経験者を対象としたアン ケートによる適切なアクセント言語の決定や,骨格情報を正確に記録するための撮影場所や方法の検討を行った.次に,さまざまな分析手法の観点から,アクセ ントの取り方を客観的かつ定量的に評価する方法を提案した.その結果,アクセ ント言語を比較するアクセント言語の特徴は,時刻ズレや加速度の合計値によって明確な特徴や差異が生じる可能性が示唆された.ダンスモーションのタイミン グに注目した分析では,比較したアクセント言語のペアに類似性が見られるものが存在した.また,アクセントの特徴は骨格ランドマークの位置に依存せず,全体的に一貫した表現として現れる可能性が示唆された.
本研究の成果は,ダンスにおけるアクセント表現の理解を深めるとともに,客観的かつ汎用的な評価方法の構築の提案を行うものである.