公開シンポジウム

2020年3月14日(土) 慶應義塾大学日吉キャンパスより配信

テーマ「共に生きる」


オンライン公開シンポジウム「共に生きる」 (独立館1階 D101室)

『深海と浅海から見た共生』

丸山 正 (北里大学 海洋生命科学部 客員教授)


『4億年前に地上に現れ人間に最も身近な生物~チーズをつくるダニ・トキと共に絶滅したダニ~』

島野 智之(法政大学 自然科学センター/国際文化学部 教授)


『共生・進化・生物多様性』

深津 武馬(産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 首席研究員)



【オンライン公開シンポジウム 要旨】

深海と浅海から見た共生

丸山 正 (北里大学 海洋生命科学部 客員教授)

近年、生物における共生という見方はメタゲノム解析などにより進んできて、生物をその表面や内部にいる微生物も一緒に共生系とする見方が一般的になってきた。そのような見方からはほとんど全ての生物は共生していることになる。共生の中で、独立栄養生物と従属栄養生物の共生を見てみると、例えば動物と植物という性質の異なる生物が共生することで新しい機能を備えた独立栄養の共生系が生じていることが分かる。このような共生系は海ではサンゴ礁における刺胞動物のサンゴや軟体動物のシャコガイなどと微細藻の渦鞭毛藻との共生が有名である。目を転じて光の無い深海では化学エネルギーを用いた独立栄養微生物と無脊椎動物の共生が、環形動物であるハオリムシや軟体動物のシロウリガイなどと硫黄酸化細菌や化学合成ではないがメタン酸化細菌との間で見られている。刺胞動物は深海にも、また環形動物はサンゴ礁にも生息するがそこではこのような栄養共生はしていない。これに対し、二枚貝を含む軟体動物はサンゴ礁や深海化学合成生態系で光合成共生および化学合成共生をして繁栄している。今回は、その中から主に二枚貝における独立栄養型共生系として共生者および宿主が有する機能や性質について、無機炭素固定、獲得した栄養の受け渡し、紫外線防御、そして、共生者の伝達などの観点から私が関係した研究を深海と浅海の共生を比較しながら紹介する。


4億年前に地上に現れ人間に最も身近な生物

~チーズをつくるダニ・トキと共に絶滅したダニ~

島野 智之(法政大学 自然科学センター/国際文化学部 教授)

「ダニは神様からの贈り物」「良いチーズには,良いダニがいる」とは,フランスのオーベルニュ地方の言葉.おいしいチーズをつくるためにダニを利用する地域がヨーロッパにいくつかある.ちょっときどって,ダニと共に生きる,というと,部屋の中にいるダニを思い出す.あなたの部屋の中にいるヒョウヒダニも,あなた(宿主)の顔の毛穴に住むニキビダニも僕たちにもっとも身近な節足動物だ.もう,今となってはゴキブリさえも暮らせない東京のマンションで,ヒョウヒダニとニキビダニは人間のそばにいつもいる.

人を襲うサメは全体の種のうちたった6%.いつも悪者になるヒトの血を吸うダニは,日本でも世界でもすべてのダニ種のたった1%,全ダニ種の80%以上は,気ままに暮らす自由主義者.生まれたばかりのステージは飛翔昆虫に便乗・寄生して気ままに空に飛び立つ種も多い.森林土壌に踏み込むと片方の足の下に3000匹のササラダニがいて落ち葉を食べて分解している.ササラダニが地上に現れたのは4億年以上前で,ゴキブリの約3億年前,恐竜の約2億3千万年前よりも,ずっと昔,植物が陸上に進出した約4億年前から栄養たっぷりの土壌をせっせと作り続けてきたのだ.あらゆる地上の生き物はダニと共に生き,人もまたダニと共に生きてきた.

日本で絶滅したトキ,唯一絶滅を逃れた中国個体を借りて再び日本の空に戻ってきた.しかし,羽の古い油をせっせと食べて,日本のトキの羽をまもってきたトキウモウダニは中国産には見つからず,永遠に世界中から姿を消してしまった.ひとつの種が絶滅すると他の生物にも影響を与えるという事例である.


共生・進化・生物多様性

深津 武馬 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 首席研究員


自然界において生物は、周囲の物理的な環境はもちろんのこと、他のさまざまな生物と密接に関わりながら生きています。すなわち、個々の生物は生態系の一部を構成すると同時に、体内に存在する多様な生物群集を含めると、個々の生物それ自体が1つの生態系を構築するという見方もできるのです。

昆虫類は人類が記載してきた生物多様性の過半数を占め、陸上生態系の中核をなす生物群で、大部分は恒常的もしくは半恒常的に微生物を体内に保有しています。このような現象を「内部共生」といい、これ以上ない空間的近接性で成立する共生関係であり、高度な相互作用や依存関係がみられます。このような関係から、しばしば新しい生物機能が創出されます。共生微生物と宿主昆虫がほとんど一体化して、1つの生物のような複合体を構築する場合も少なくありません。

共生関係からどのような新しい生物機能や現象があらわれるのか?共生することにより,いかにして異なる生物のゲノムや機能が統合されて1つの生命システムを構築するまでに至るのか?共に生きることの意義と代償はどのようなものなのか?個と個、自己と非自己が融け合うときになにが起こるのか?

本講演では、昆虫類の適応進化における内部共生の関わりについて、その多様性、相互作用の本質、進化的な意義、応用利用への展開の可能性など、基本的な概念から最新の知見までをわかりやすく紹介し、その面白さと重要性についての認識共有をめざします。