3月例会 わくわく未来の経営塾〜テクノロジーをもっと身近に〜にご参加いただきまして、誠にありがとうございます。

当日にご紹介しきれなかった事前アンケートの内容を掲載しております。

【質問1】AIと人の関わり方について、講師の方の考え方をお伺いしたい。

【回答】皆さんは、アーノルド・シュワルツェネッガーが主演の「ターミネーター」という映画を見たことがありますか?近未来の世界を舞台に、人間とアンドロイド(今でいうAIの頭脳を持ったロボット)が戦争をする、という映画でした。実際、これって将来本当に起こる可能性ってあるのでしょうか?実際に様々な機会で私が聞いていった結果では、皆さん綺麗に意見が分かれて「起きる」「起きない」が大体半分に別れます。

さて、実はこの結果がAIと人との関わり方に対してひとつの答えを示しているのではないでしょうか。IT・テクノロジーの分野で技術が進み、いわゆる「ただ命令を聞くのではなく、自らが考え判断して動く」というスタンスの持ち始めたのがAIという技術です。

これまでのIT技術は、どちらかというと「人がコンピューターに命令する」といった、ある意味「支配する・される関係」にありましたが、AIが登場し様々なシーンで使われている今は「人とコンピューターがそれぞれの得意な分野を担当し協業する」といった「パートナーの関係」になる事が求められるのかもしれませんね。

【質問テクノロジーは一部の分野が先行して発展して、時間の経過とともに一般生活の中に浸透してくるものだと思いますが、現在の最先端テクノロジーを活用すると一般生活はどのように今後変化していきますか?

【回答】話題となっている現在の最先端テクノロジーのひとつに、「量子コンピューター」と呼ばれる次世代のコンピューターがあります。

これを使えば、例えば「基礎研究⇒非臨床試験⇒臨床試験で10年かかると言われる新薬の開発期間を、量子コンピューターで分析をさせる事で半分以下まで縮める事が出来る」といった事が可能になり、今まで出来なかったサービスも簡単に出来るようになると言われています。

もしかするとsociety5.0で実現しようとしている「ドローンによる配送」「自動運転」「遠隔診療・機械のみによる手術」等は「量子コンピューター」が鍵になるかもしれません。

【質問テクノロジーが進んでも、テクノロジーでは補えない、本質的なものはありますか(何を一番大切に考えますか)?

【回答】IT(技術)をはじめとする「テクノロジー」と呼ばれるものは、あくまで「道具」です。「目的」ではありません。基調講演でも話を出しましたが、ビジネスにおいて「IT(技術)」は「目的」ではなく「手段」であり、「使い勝手の良い道具」なのです。言い換えると、ITを活用してビジネス上(業務上)の課題を解決する事」が本質的な目的であり、「ITを導入する事」はその手段に過ぎないのです。

少しわかりやすい例を出してみます。夏の暑い日、皆さんは喉が乾いていて、何か冷たい物が飲みたいと感じています。(課題)目の前に自動販売機があったので、お金を入れて冷たい飲み物を手に入れて、喉を潤わせることが出来ました。(解決)この時点で課題は解決出来ているんです。

皆さんが求めていた事は「自動販売機にお金を入れて、商品ボタンを押して、正しい商品が出て来る」事であり、例えその求めていた事(作業)が、機械がやっていようが、(ありえませんが)自動販売機の中に人がいて、右手でお金を受け取り、左手で正しい商品を取り出し口に置いたとしても、そこは皆さんは「問題にしていない」のです。だから、「IT(技術)=テクノロジー」はあくまで「手段」なのです。

そうなると、本質的なものは「課題を解決したいという、人の欲求」であり、この部分だけは「人が利便性を求め、要求を満たそう」とする限り、ずっと続くものであると思います。もちらんそれは「テクノロジー」では補えません。

【質問データサイエンスの利活用について

【回答】まず、データサイエンスの定義から確認をしてみましょう。滋賀大学のデータサイエンス学部のホームページでは「データサイエンスとは、社会に溢れているデータから《価値》を引き出す学問です。ICT(情報通信技術)の進化した現代では、あらゆるビジネスや医療、教育、行政等においても、高度なデータ処理能力、データ分析力が必要となっています。データから有益なく《価値》を引き出すためには、これらの能力に加え、様々な分析経験を積むことが求められています。」と説明されています。

データサイエンスとは、web環境下にて莫大にあふれ返る玉石混交の情報(データ)から、本当に必要な情報(データ)のみを掘り出して取り込むといった、まるで鉱山から鉱石を探し出したり、川から砂金のみを取り出すような取り組みなのです。また、これらを効率的に取り込むために、「統計学」を駆使するところも特徴のひとつです。

皆さんがよく見るケースで、実際のデータサイエンスの使われ方をひとつ紹介します。皆さんはAmazonなどで商品を購入した際に「この商品を買った人は、他のこのような商品を購入しています」といったような、関連商品が自動的に表示されるのを見たことがあると思います。これこそがデータサイエンスが利活用されているシーンです。これらは、「ビックデータ」と呼ばれる国や企業が持つ日々膨大に生成・記録された様々な種類の巨大データの中から、ひとつの関連性を見出して「価値のある情報」を引っ張り出すことができた結果なのです。

これらの仕組みを作る人達(作る事ができる人達)を「データサイエンティスト」といいます。データサイエンティストは単なる技術者ではなく、統計学や行動経済学、時には心理学なども使い、必要な「価値」を探し出す「研究者」としての側面も持っています。故にIT業界の中でも評価の高い人材でもありますが、今後は様々な場所で活用され普及していくためには、これらが非属人化・システム化・低価格での利用可能化となることで、中小企業での利用も含めより一層の利活用が進んでいくのだと思います。

【質問日本は主要なデジタルプラットフォームを開発すべきか、それとも利用者として利用するべきか。

【回答】この問題に対する答えは、残念ながら既にある程度の答えが出てしまっています。

現状の日本では「利用者として利用するべき」の選択肢しか選べないという「現実」があります。

皆さんの中には、日本のジャストシステムという会社が作った文書作成ソフトの「一太郎」という名前を知っていたり、場合によっては使っていた人もいるのではないでしょうか。1980~90年代、「一太郎」は文書作成ソフトとして日本では独占的なシェアを持っていましたが、windows95が登場した1995年頃から同じマイクロソフトの文書作成ソフト「Word」にあっという間にシェアを取られてしまいました。

考えてみると、現在使われているSNSプラットフォーム(Facebook・Twitter・Instagam、tiktok等)も全て外国製品です。これらはスピード感を持って開発され、最初からグローバル展開を意識しているために、この分野が不得意な日本企業から生まれるのはなかなか難しいでしょう。

しかし、これらの「デジタルプラットフォーム」を上手に使いこなす・他の国・地域では考えもつかなかった利用方法を発見する、といった部分は日本の得意な部分であり、例えばスポーツやドラマを同じタイミングで見ながらSNSの中でみんなで同じアクションを起こし、その一体感で盛り上がる、といった使い方などは世界中で一番「日本」が盛り上がるそうです。

【質問人と機械はどちらが優秀ですか?

【回答】この問題は難しいですね。視点を変えれば判断基準も変わります。判断基準が変われば、それによりどちらが優秀なのか?も変わるので、人と機械どちらが優秀か?というのは一概にはいえないと思います。

ただ一般的に言える事は、「単純作業なら機械(IT)が優秀・しかし、総合力で考えるとまだまだ人が優秀」といったところでしょうか。

しかし、AIが発達する現在ではこの考えも少しずつ変わって来ているのかな、と思います。AIの登場で機械(IT)の思考プロセスも「単純

判断」から「総合判断」に変わりました。そうなると「考える」という視点に関しては、機械(IT)が更に優秀になるかと思います。

そうなると、「人」と「機械」という比較自体にあまり意味はなくなるのかもしれませんね。

AIの時代は「人」も「機械(IT)」も協働するパートナーになるので、それぞれ活躍できる分野でその能力を発揮する、という流れになると思います。これからは人と機械(IT・テクノロジー)は対等の関係性になります。

もしかすると、会社が擬人化して「法人」と呼ばれるように、AIを内蔵した機械(IT)が「機械人」と呼ばれる、人とAIは、お互いを良きパートナーとして認めて協働することになるので、テクノロジーが「人権」を持つような時代になるのかもしれませんね。

【質問その分野の得意不得意、ある程度知識や対応力がないと活かしきれないような感覚がありますので、商売で小さな会社や初心者でも取り入れている簡単事例やおすすめ技術などあれば聞いてみたいです。

【回答】小さな会社の場合やテクノロジーの導入に関して初心者である場合は、恐らく「いったい何から始めなければいけないのか、全くわからない。想像がつかない。」といった気持ちになるでしょう。ただそれは当たり前であり、「正しい反応」であると思います。

実はその場合、どのような業種・業界であっても共通で使える「いい対応策」があります。それは、「コミュニケーションをやりやすくする、又はコミュニケーションをより豊かにする事で業務の効率化が図れるようなテクノロジー(IT技術・ITツール)を探す。」事です。どんな仕事でも必ず「コミュニケーション」は発生します。それを考えると、この部分はテクノロジーを使い、より便利に・より豊かにする事は出来るでしょう。

例えばビジネスチャットの「slack(スラック)」などを上手に活用するのも手でしょう。タスク(お客様・案件)ごとに、または人ごとに、発言を管理出来る作りは思った以上に便利だと思います。

またビジネス用のチャットは、プライベートで使うものとは「あえて別の種類のものを使う」という事もいい方法です。例えばプライベートでLINEを使っている場合、仕事用はビジネス用の「LINE WORKS」を利用して使い分けていたとしても、感覚的に・無意識に・思い込みで、といった要素で間違って使ってしまい、結果として誤送信や時には個人情報の漏えいに繋がってしまうため、通信方法を物理的に変える事でこれを防げるのはいい方法です。

「googleカレンダー」のようなスケジュール管理ツールを使うのもいい方法だと思います。スケジュール管理ツールは万人が直感的に使える基本レイアウトデザインとなっており、またスマホなどでの操作性も良く、ITリテラシーが高くなくとも使いこなせる事も利点です。

製造業であれば、生産管理システムなどを考えるのもいいかもしれません。生産管理システムといっても大掛かりなものではなく、googleスプレッドシート(google版EXCEL。EXCELとデザインもそっくりでデータ互換性もある、またネット上で編集ができる)を使う事と工場内にwi-fiを通す事で、例えば作業指示書のペーパレス化と、どこからでも更新し最新の状態を保てる事で、進捗確認による情報共有の容易さの両方が実現できます。


【質問労働生産性向上のためにどのような投資が必要なのか。

【回答】ひとくちに「労働生産性」といっても、どのような形で測定するのか・どのような指標を使うのか、といった事で、投資の仕方も変わります。

例えば国の「ものづくり補助金」などで、効果測定の指標として使う「労働生産性指標」では、

労働生産性(指標)=(営業利益+総人件費+減価償却費)/労働者数

といった、人にフォーカスした、「一人当たりの生産量(人による労働生産性)」を示します。

この場合で考えていくと、「いかに人の生産性を上げる投資を行うか?」といった考えに基づいて行動すると思います。


逆に、経営者や投資家(出資者)などが経営の効率化状況や財務分析上の収益性を見る時、効果測定の指標として使う

「ROE(自己資本利益率)・ROA(総資産利益率)」では、

ROE=当期純利益÷(純資産-新株予約権-少数株主持分)×100  ROA=当期純利益÷総資産×100

といった、会社の持つ資産(自己資本や総資産)にフォーカスした「会社の資産を使っでどれだけ利益が上がったか(資産による労働生産性)」を示します。この場合で考えていくと、「いかに企業としてのパフォーマンスを上げる投資を行うか?」といった考えに基づき行動します。

前者は小規模事業者~中小企業向きの考えで、後者は中堅企業~大企業向けの考えといったところでしょうか。

【質問生産年齢の人口が減少している現在、それが顕著な地方の中小企業がデジタル技術を導入していくメリットや、市民・行政の役割を聴いてみたいです。

【回答】まず日本の向き合わねばならない現実としては、「生産年齢人口が減少する中で、今までと同様の生活水準・(行政サービスを含めたすべての)サービスを維持する、または今よりも向上させようとしたら、絶対にその原動力(労働力)は足りない。」という事実です。

地方であればなおさらです。もしこれを実現させるのならば、やはりテクノロジー・IT技術を活用する事は外せない事実だと思います。特に、人的リソース、もっと言うとIT人材が少ない中小企業や首都圏・100万都市圏以外の地方自治体では、テクノロジー・IT技術のフル活用をしなければ、維持どころかサービスが破綻する可能性もあります。

地域全体でこのような問題に対処する場合、司令塔としての行政の役割は非常に大きいです。裁量権を持った優秀なCIOの下で業務改善部門とテクノロジー(IT技術)導入部門がタッグを組んだ統括組織を作り、一歩づつ、しかし確実に階段を昇るような、テクノロジーを活用した地域デザイン戦略を描く事が必要で、これこそが自治体が取り組むべきDX(デジタルトランスフォーメーション)の形であり、Society5.0を地域で実現させるための方法なのかもしれません。

また、どうしても高齢者を中心に一定層の「ITリテラシーの高くない方々」が発生します。これらの対策としては彼らを見捨てずにサポートする「公/民・有償/無償などの形や種類を問わない共助・公助の支援組織体」が必要であり、これが市民としての役割になるのかもしれません。

【質問10テクノロジーが人間の能力を変えていく時、何が起きるのでしょうか?テクノロジーを使う側から、テクノロジーに使われる側になってしまうのか?人間としての存在意義…とは?

【回答】皆さんは、「オスカー・ピストリウス」という南アフリカの義足のランナーを覚えていまか?アテネ・北京・ロンドンの3つのパラリンピックで、計6個の金メダルを獲得し、ロンドンオリンピックにも出場した陸上選手です。彼がオリンピックの準決勝まで進んだ事は、テクノロジーが人間の能力を変えてしまったとも思わせる出来事のひとつでしょう。

競技の平等性はさておき、この競技ではあと数十年でパラリンピックの記録の方が早くなってしまうと予想されています。でも、これは果たして「人が求める形・望む形」なのでしょうか?

AIが登場した事で、人間とテクノロジー(IT技術)の関係は、「支配関係」から「平等の協働関係」に変化し始めました。そしてそれは、一歩間違えてしまうと、2者の関係は対立する関係・もしくはテクノロジーに支配される(使われる)関係になってしまうかもしれません。

でも決してこれは「人が求める形・望む形」ではないですね。我々人間がテクノロジーと望む形は「平等の協働関係」なのです。その関係を保てるようにする事が、これからの「人間としての存在意義」なのかもしれません。言い換えると人間がやるべき事は、「技術への過信・技術万能主義」にならないようにすることなのですかね。

皆さんの中には「銀河鉄道999」というアニメを見た人もいるかもしれません。主人公の星野鉄郎が、ヒロインのメーテルと共に超特急銀河鉄道999に乗り「機械の身体」を求めるために終着駅惑星アンドロメダを目指しましたが、最後は「生身の人間」として存在する事を選んだというストーリーでした。もしかするとこれがこの問題に対する「答え」なのかもしれません。