卒業生ファイル

KANAGAWA GAKUEN

 

 第8回「卒業生ファイル」は、2016年3月卒業の福岡真菜さんです。神奈川学園での2回の海外研修をきっかけに生まれた世界への興味関心を進路選択、職業選択にも反映して現在に至ります。ユニリーバ・ジャパンでは「より良い未来を創るため」という企業理念に賛同し、ヘアケア商品を通して環境負荷削減や格差是正を実現しようと努力を重ねました。そして現在はエミレーツ航空で「世界の多様性」を日々感じながらドバイに居を移して仕事に取り組んでいる方です。

 福岡さん自身が日頃大切にしている考え方は「パーパスを持って生きること」。自分の人生や日常を通して成し遂げたいことは何か日々考えつつ、他者の「パーパス」も柔軟に受け入れながら自らを磨き続けています。世界への眼差し、多様な価値観の受容、学び続けることの楽しさが培われたのが神奈川学園での様々な出会いだと語る福岡さん。その生き方は、在校生のみなさんへのあたたかなエールとなって心に響きます。第8回卒業生ファイルを是非お読みください。 

第8回 福岡 真菜さん (2016年卒業)

<自己紹介・職業紹介>


 私は2016年に神奈川学園を卒業し、大学時代にか国での海外インターン・留学を経験、イギリス系の消費財メーカーでマーケティングの仕事を経た後、現在中東のドバイに住みながら世界150都市へ飛ぶ外資系航空会社の客室乗務員をしております。社会人歴は年目ですが、外資系消費財メーカー、外資系航空会社の客室乗務員という全く異なる種の業種を経験しているところです


 1社目はユニリーバ・ジャパンという外資系の消費財メーカーで、皆様もTVCMやドラッグストアなどでご存知かもしれませんが、LUX(ラックスDove(ダヴといったヘアケア・ボディケアなどの日用品ブランドを持つ会社でした。ここ10年以上叫ばれているサステナビリティを暮らしの当たり前にする、ブランドや製品を通してただお金を稼ぐのではなくより良い未来を創る、という企業理念を掲げています。神奈川学園、そして大学での勉強、JICAでのインターンから、世界中の貧困格差や持続的にそれらを解決していくことに興味を持っていたため、営利企業にも関わらず環境負荷削減や格差の是正に取り組んでいるという会社の考え方に心を打たれ、入社を決めました。また、大学時代のミスコンの経験とその後の留学経験から日本人女性の美に対する固定概念に疑問を持ち、もっとあらゆる人が自由に美しさを選択できる社会をつくりたい、そのために人々の生活の身近なところから何か影響を与えたい、メッセージを発信していきたいと思い、“マーケティング”という仕事を選びました。

具体的には“LUX(ラック)”というブランドでヘアケア製品を担当し、日本の消費者の分析、それを基にしてブランドや商品の方向性・戦略を考え、コンセプト、広告メッセージ、パッケージや広告デザインを作成、TVCM制作、SNS運用から売上の管理まで多岐にわたる内容でした。「なぜ人はヘアケアをするのか」「人はどんな髪悩みを抱え、どんな製品を欲しているのか」「他社の製品とどう差別化するのか」「ブランドとして、どんなかたちで人に寄り添うべきか」などを日常的に考えていました。簡単にお伝えすると、社会を、人をよりよくするためにモノが売れるしくみをつくるお仕事です。グローバルな会社だっただけに、これまでに会得した英語をツールに様々な国籍の人と働いていました。自分が手がけた製品が店頭に並び、少しでも多くの人々にポジティブな影響を与えられるにはどうしたらいいのか試行錯誤の日々でした。また、日本支社の社員だからこそ日本人ならではのヘアケア習慣やそこに根差す固定概念についても逐次考えさせられました。日本にいるとなかなか気付きませんが、スキンケアやヘアケアに何製品も何行程も重ねるのは日本や韓国ならでは。周囲の目を気にして髪を整える、ケアする、直す、当たり前のようでこれも世界では当たり前ではなかったりします(笑)。もちろんこの日本人の”同じである文化”、“規範に忠実な文化”も素晴らしいのですが、マーケティングを通してこうした固定概念に疑問を投げかけ、製品と共に新しい習慣を提案していく、ジェンダーにとらわれずに髪という自己表現の手段について新たな角度から発信していくといった部分が前職の魅力でした。こうして入社からずっと日本の女性がLUXの製品を使うことで誰かの目を気にしてヘアケアをするのではなく、今日より明日少しいい髪になることで自分により自信を持ってほしいというメッセージをあらゆる媒体で年以上伝え続けていました。

年半ユニリーバ・ジャパンに勤めた後、売上をつくり、製品や広告を通してという間接的な形ではなく、自分自身が直接消費者いわゆる製品やサービスを使ってくださる皆様のことですに相対して人にポジティブな影響を与えたい、そして日本人だけでなくもっと多国籍な消費者に対して、より良い体験、ひいてはより良い明日を届けたいと思い転職を決意しました。(3か国へ面接を受けに行き、中の研修と大学で留学をしていたオーストラリアで内定をようやく頂くことができました!)20代のうちに留学とはまた別に仕事をしながら海外に住みたい、また自分と違う考えや文化のもっともっと多国籍な環境で働きたいという思いもあり、ドバイ在住が必須条件のエミレーツ航空を選びました。現在は、チュニジア、キルギスタン、トルクメニスタン、カザフスタン、チェコ、イギリス、オランダ、オーストリア、ジョージア、ポルトガル、南アフリカ…等留学や前職時代以上に多国籍な仲間と働いています。

イスラム教の国UAEの企業ならではのエッセンスもありながら、就航地は全大陸に渡り、働く人もお客様も150国籍以上と世界で最も多国籍な航空会社で有名なエミレーツ航空。全く異なるバックグラウンドの人々が一つのブランドを体現しなければならないからこそ、国により異なる意味を成すボディランゲージ、世界中のあらゆる宗教的習慣の違い、就航地により異なるサービス内容機内でお祈りをされる方がいらっしゃったり、宗教上の理由から異性同士のお客様が隣に座れない/ご提供するお食事・食器全てに客室乗務員が直接触れてはいけないといった異文化を尊重するルール、お酒を提供できない国がある等など新しく学ぶことばかりですが、こんなにも多様なバックグラウンドを持つ人々が集まって一つの素晴らしいフライトを作っていることに日々感動を覚えています。知らないことの多さに驚きつつも”学校”の時のように、勉強の毎日です。エミレーツからは“ Educate yourself ”という言葉を入社当初に頂きました。たった数時間、たった日でも自分のフライト国が変わればお客様の国籍も宗教も人種も変わります。スタンダードが一瞬にして変わるからこそ、多角的に自ら学ぶことを意識しています。そしてこれは神奈川学園から頂いたマインドセットです!こうした異文化の中での生活を送る今、人生で最も柔軟性を求められている気がします。これから様々な国の人々に出会い、文化に触れ、一人でも多くの方の心の琴線に触れる時間を届けられるように、KGで学んできた事前学習&事後の振り返りの習慣を活かして精進していきたいと思っています。

<人生の節目・きっかけ >

 KG以外での人生の節目は、大学時代のオーストラリア交換留学です。当たり前が当たり前でない環境に身を置くと、自分の国のアイデンティティや感性を自覚する瞬間が訪れるかと思います。まさにこれを経験したのがオーストラリアでした。

 オーストラリア人だけでなく、同じくヨーロッパやアジアから交換留学に来ている友達との交流の中で、多くの人が「社会の目」を気にするのではなく、自分の指針、意見を持ち、それを発信しながら“ありのままの自分”で生きているということに気づきました。授業や職場でもそれが日常のようでした。そして多国籍な友達と旅行に行けば、みんなでまとまって集団行動することよりそれぞれが見たいものを個々人が自由に満喫している様子を見て、日本人の『自分より他者、個人より集団を尊重する文化』や『規範から外れることへの“恥”の文化』が万国共通ではないということをひしひしと痛感しました。こうした経験から大学にとどまらずオーストラリアに来る世界各国からの観光客に向けたバリリンガルツアーガイドの仕事をしましたが、ここでも国籍や人種によってこんなにもサービスに求めていることや雰囲気が違うのかと驚きの連続でした。これらの多くのポジティブなカルチャーショック(気づき)から、自分自身を含めてより多くの人が“固定概念”にとらわれずより自分らしく生きられる社会をつくり、より多くの人の今日より明日をいい日にする、ということが先にもお話ししたように私の人生のパーパスになりました。

<在校中の思い出、神奈川学園の魅力など  >

中3AUS研修

 私の人生に今でも影響を与えている在校中の思い出は、AUSホームステイ研修、トルコ海外研修、探究の授業です。中3で一人一家庭のホームステイを経験した際は、学校で学んだ英語が実際にツールとなって、生まれた環境も言語もバックグラウンドも全く違う人とコミュニケーションできることに心から感動しました。この時に何よりも楽しくて刺激的な瞬間を味わったことで、もっともっと色々な国の人や文化を、英語を通して知りたいと思うようになりました。翌年の高1海外研修ではこの経験も相まって『今まで全く自分にとって身近でない、未知な国を選びたい』と考え、トルコを選択しました。初めてイスラム教の国へ行き、事前学習や現地での研修、現地家庭でのホームステイを通して、それまでの『知らないからこそ何となく怖い』と考えていた固定概念が180度変わりました。そしてこの時「自分がもしトルコの人にとって初めて会う日本人だったら、日本人の代表としてどんなイメージを持ってもらいたいだろうか」ということを考えました。この考え方、そしてイスラムの文化の知識は、現在住んでいる同じくイスラムの国、中東UAEでの生活にかなり役立っています(今まさにこのファイルを執筆している横にはトルコ人の同僚がいます)(笑)。そしてエミレーツ航空という中東の航空会社での仕事には欠かせない教養、経験となっています。

高1トルコ研修

 神奈川学園はほぼどの研修においても事前学習に非常に力を入れていたため、こうして転職して中東に来るにあたっても、事前に中東のあらゆる文化、宗教、言語のことを知ろうと勉強していました。中高での習慣が私に染みついているからこそ、中東に限らず海外へ行くときに日本人として恥ずかしくないように自分の国の知識も持ち合わせる+その国のことを知り敬意をもって旅をするということが私の中で最低限のマナーになっています。
 他にも社会の授業の課題だった新聞のスクラップブックや沖縄FW。社会で起きていることに対して自分の考えを逐次持つ癖ができ、沖縄戦という世界に出る日本人として知っておくべき今もなお残る戦争の痕跡についても学ぶことができました。海外のことを知るということは、同時に同じだけ日本のことも知らなければ聞かれた時に応えられません。だからこそ神奈川学園で身につけた習慣、知識、問題意識は、海外で日本人以外の人とコミュニケーションをとる上で非常に役立っているだけでなく、私自身の視野をどんどんと広げてくれています。自我が芽生え始め、多感な中高生の時に、こうして日常生活の中で貴重な経験をさせて頂いていたことに本当に感謝です。 

在校生へのメッセージ  >

6年間の部活動

 神奈川学園は、“自分を見つけ、人生を豊かにしてくれるところ”です。

 この学校の魅力は、6年間を通してたくさんの“考える”機会に出会い、自分と社会のことを深く知れるということだと思います。当たり前のようにKGで学んでいることが、実は自分の人生選択や日常の選択、自分の価値観をつくっていたりします。もちろん6年あれば当然自分を形成する上で大きな影響があると思うのですが、特に中高問わず定期的に外部の方を招いての講演会があったり、国内外でのフィールドワーク、充実した事前学習と事後の感想執筆、これらはKGを出てからは能動的に行わない限り巡り合えない環境、機会です。今の私も、6年間運動部での活動、中3のAUS研修、高1でのトルコ海外研修、高2での探究等これら全てがつながりあって存在しています。実は、私の場合、授業の一環で大学教授が講演をして下さった際に、大学で学びたいことと将来就きたい仕事の分野が明確になりました。今まで知らなかったことを知り、自分の知的好奇心が刺激される瞬間をKGで何度も経験しました。そして新しいことをインプットするだけでなく、自分がどう感じて何を得たのか言語化してアウトプットする、この習慣は大人になって必ず役立つ習慣です。先にお話しした通り、高1のトルコ研修で学んだイスラム教に関する知識、そこでの経験やトルコ語は、中東での今の仕事でも大変役立っています。

2021年中1を対象に講演会

 もちろんすべてが興味のある内容だったわけではないですし、たまに眠くなってもいました(笑)。ただ、こうして『学校』という限定的な環境にいながらも、『社会』に触れる機会を学生のうちに頂けたことは、私にとっても皆さんにとても大きな財産になるのではないかと思います。多くの日本人が大学受験を前に「急に何を勉強したいか、進路をどうするかなんて言われてもわからないよ…」ととても大事な人生選択にも関わらず、自分の意思が分からずにいます。KGでは自分の興味の種がどこにあるのか、人生を通して何をしていきたいのか、どんな人になりたいのか、物事の見方や自分の価値観を築くことができます。

 最初に働いたユニリーバには“パーパス(直訳:存在意義、目的)”という文化がありました。パーパスとは、自分の人生や日常を通してどんなことを成し遂げたいのか、どうありたいのかといった目的意識のことです。人はもちろんパーパスを持つことが会社、ブランドを、そして社会をも成長させるという考え方でした。自分に見えている世界だけが全てではなく、価値観や人生選択は数多あり人それぞれのパーパスがきっとあります。何を良いと思うか、何を美しいと思うか、何を面白いと思うかは千差万別。生き方や考え方に正解不正解がないからこそ、固定概念にとらわれず、みなさんお一人お一人ならではのパーパスをぜひ探してみてください! 

 KGでの学びを通して、何か一つでも自分の好奇心が刺激されるものがないか、楽しかったなと思えるものがあったか、逆に違和感やなんとなく共感できないことはなかったか、ほんのささいな気付きに目を向けて、自分自身が何に興味があるのかぜひふんわりと考えてみてください。もちろん学校の授業や勉強以外に興味があることでもいいです。スポーツや音楽、習い事でも。

そして改めて、この学校でのたくさんの行事や講演会を含む学生生活の中で、新しい挑戦を楽しんで、当たり前のことにも疑問を持ち続けて、視野を広く持ち、自分の未来を自らの手で切り開いていってください。たとえ失敗しても、前を向けないことがあっても、それを通して自分ができたこと、できなかったことがわかり、新たな成長に繋がるはずです。一度しかない人生、不安があれば同じだけ楽しいことがたくさんあります!楽しみつつ、自分の興味や関心はどこにあるのか、自分のパーパスは何だろう?をぜひ考えてみてください!一人で考えたり、友達や家族と考えてみるのもありです。

 これからの皆さんの6年間が希望にあふれて、充実したものとなるように願っています! 

< 年表プロフィール  >

 福岡 真菜

2010年4月 神奈川学園中学入学
2012年11月 中学3年沖縄フィールドワーク参加
2013年3月 中学3年オーストラリア研修参加
2014年3月 高校1年トルコ研修参加
2014年            高校2年「探究」の講演会に学ぶ
2016年3月 神奈川学園高等学校卒業
2016年4月 学習院大学 法学部 政治学科入学
2019年9月 インドネシアJICAインターン
2017年2月 アメリカ短期語学留学
2017年4月 大学3年次卒業 Fast Trackコース入学
2017年6月 ミス学習院コンテスト出場
2018年2月 上海 日系企業にてインターン
2019年1~12月 オーストラリア大学間交流留学
2021年4月 ユニリーバ・ジャパン入社
2023年7月 ユニリーバ・ジャパン退社
2023年7月 UAE/ドバイへ移住 エミレーツ航空入社

2023年10