短歌の部
審査 中川佐和子先生
審査 中川佐和子先生
中学203首、高校314首の力作の応募がありました。
作品はすべてそのまま審査員の先生に送られ、ひと夏をかけて厳正に審査していただきました。
中学生の部
【最優秀賞】
テスト明け百二十年の風が吹く陽に照らされた私だけの夏 3年 藤田真智子
(講 評)
テストが終わって解放感に浸りつつ、今年創立百二十年という鎌倉女学院に流れた歳月を思い巡らしています。そう思うと、いま日差しを浴びている「私」には記念の年であって、特別な「私だけの夏」なのです。
【優秀賞】
新学期緊張かかえ歩き出すみんなで一緒にいざ教室へ 1年 園田百花
難題にみんなで挑み立ち止まり大きな声が励みになった 1年 本多美桜
体育祭三位になって悔しいな負けたからこそ挑み続ける 1年 御前優香
クラス替え新しき友増えたけどいままでの友減ることもなく 2年 松﨑智香
三年目悲願の達成その証し教室輝く優勝杯(カップ) 3年 草柳朱花
【佳作】
空見れば命をかけるつばめ達そうだ私も頑張らないと 1年 小林咲輝
野球見る父の機嫌をうかがって怯えて見せるテストの結果 1年 大橋琴美
極暑の日冷たい水で前回の記録更新超えたい気持ち 1年 豊田樹里
青空に夕暮れ迫る鎌倉のプラットホームで語り合う夢 1年 各務汐梨
「また会おう」友と交わした約束日いつ来るかなと胸躍る夏 1年 西脇愛和
夏の日の窓から見える球すじのキラリと光る ホームランかな 2年 長壁蓮夏
授業中たまに聴いてる外の音近くで聞こえる先生の声 3年 笹野芽衣
張り詰めた空気一変拍手浴びああもうこれで最後なんだな 3年 長井彩夏
スタートのチャイム鳴る時一斉に問題用紙ひるがえす音 3年 玉澤永理
空の下新緑の風通り抜け想い詰まったスカーフなびく 3年 山脇璃子
高校生の部
【最優秀賞】
スピーチも定期試験もどんと来いツインテールが私の武器だ 3年 下永乃愛
(講 評)
スピーチも定期試験も、作者は成し遂げようと、ツインテールにしてきりっと気持ちを高めて頑張る覚悟ができています。「どんと来い」と強く言う口調が頼もしく、未来を切り開いてゆくことを予感させます。
【優秀賞】
汗流しやっと成功できた技喜びあえる仲間との夏 1年 髙井夏帆
張りつめた空気の後に始まった最初の最後新歓演奏 2年 金子 桜
炎天下流れる汗もそのままに希望を込めて放つ籠球 2年 井上陽葵
鎌女結びなんか上手くいったそんな日はなんか良いことありそうそんな日 2年 佐藤瑞希
ローファーの音がカツンと聞こえたら新たな気持ちで今日が始まる 3年 礒田優佳
【佳作】
先輩の音をめざしてかけ抜けた中学の想い音色にこめて 1年 安曽玲花
全校にこだまし響くメロディーは始まりの合図放課後の部活 1年 田中成美
春夕焼けそっと窺う想い人(びと)電車の揺れと私の鼓動 1年 寺尾凛佳
「来月にメールするよ」の一言で世界が少しスローモーション 2年 佐藤美侑
問題集何度解いても分からない友の涙の受け止め方は 2年 柴田 智
背伸びしてのばした前髪なびかせて今日も私は先輩になる 3年 工藤彩乃
カチカチと鳴り響いてるペンの音チャイムの合図でピタリと消える 3年 若原妃奈乃
セーラー着て航路決めゆく六年間由比ヶ浜からいざ出航だ 3年 山﨑萌以
吹き抜けの校舎で声が響き合う鎌女生集うコンサートホール 3年 荒井里咲
鮮やかな付箋のフリル身にまといお守り代わり英単語帳 3年 原田 結
総評
鎌倉女学院創立百二十周年を迎えられたこと心よりお祝い申し上げます。その歳月がつくり上げて来た伝統の重みを感じております。
この文芸コンクールの短歌に、多くの生徒たちが投稿してくれて、新鮮な感性に出合って嬉しく思っております。中学生203首と高校生314首を読むと、授業や部活などに取り組む姿勢がいきいきと描写されています。学校生活で体験したことのひとつひとつの場面をうまくいかして、臨場感も生まれています。
たとえば、中学生の短歌では、緊張感を持ちながら始まった新学期に皆で一緒に教室に入ったとか、体育祭で三位になって負けたから挑み続けていく意志にも心が動かされます。学校生活で、友の存在が大きく、難題に挑んで仲間たちからの大きな声が励みになるとも詠んでいます。クラス替えをすれば、友が減るのかと思えば、いままでの友が減ることはないのです。テストを詠んで、繊細な捉え方も印象的です。
高校生の短歌では、言葉の工夫をさらにしています。「籠球」というのは、バスケットボールのことで、面白みが出ています。「新歓演奏」の高揚感、そして「今日も私は先輩になる」という上級生の自覚もすがすがしいです。また、六年間で航路を決めて「いざ出航だ」という意気込みも溌剌としています。
短歌を作ることを続けていくと自然と言葉を意識するようになり、気が付かなかった自らのことを知る機会と言えます。また考えが深まるのは、これからの日々に大切です。短歌にこれからもどうぞ関心を向けて、ひとりひとりの個性をいかして詠んでいってください。