日本地球惑星科学連合ダイバーシティ推進委員会緊急アンケート報告書
Summary report of Emergency Survey by the Committee for Diversity Management and Talent Pool, Japan Geoscience Union (JpGU)
2020年9月30日
担当: 堀 利栄 (愛媛大学)・阿部 なつ江 (海洋研究開発機構)・小口 千明 (埼玉大学)
By: Rie S. Hori (Ehime Univ.)・Natsue Abe (JAMSTEC)・Chiaki T. Oguchi (Saitama Univ.)
はじめに
2019 年末からはじまった新型コロナウイルス (COVID-19) の感染拡大により、社会生活はもちろん学術・教育活動も多大な影響を受け、その変革も急激なものであった。地球惑星科学分野も例外ではない。そこで、JpGU 会員が受けた学術・教育活動の影響をダイバーシティの視点で定量化することを目的として、緊急アンケートを実施した。日本語版アンケートの作成と集計は堀 (愛媛大学) が、英語版アンケートの作成と集計は阿部 (JAMSTEC) が担当し、全体の総括は小口 (埼玉大学) が行い、ダイバーシティ推進委員会の委員にも助言を受けて実施した。
実施形態
アンケート実施の方針を JpGU 理事会に確認後、質問事項の素案をダイバーシティ推進委員会に諮り確認・改定後、会員にメール配布する形で行なった。 アンケートの実施期間は、2020 年 6 月 28 日から 7 月 9 日までの 12 日間である。 短期間で実施したアンケートではあったが、日本語アンケートには 351 件の回答が、英語版アンケートには 65 件、合計 416 件の回答がよせられた。 本アンケートの概略については、2020 年 7 月に実施されたオンライン JpGU 会議ユ ニオンセッション 23 において紹介した。
結果
日本語版アンケート回答の 72.6%が男性、26.5%が女性、その他が 0.9%であった。JpGU の会員構成割合(男性約 80%, 女性約 20%) から判断して、本問題に対して、女性の方が男性よりも若干強い関心があり、積極的に回答してもらったことが伺える。英語版のアンケートの回答者の男女比は、56.9% (男性) 対 38.5% (女性) であり、日本語版回答者よりも女性比率が高かった。
回答者の身分内訳は、「教授相当」が 21.4%、「研究員相当」が 25.4%(企 業所属研究員を加えると 30%を超える)であり、他職階会員より明らかに多 く、管理者である上位職および PD や研究所等で勤務する研究職が半分を占め た。英語版回答者においては、「院生を含む学生(Student including graduate student)」が 43.1%を占めており、2 番目に多い「研究員相当 (Researcher)」の 20%、「教授相当 (Professor or equivalent)」と「准教授相当 (Associate professor or equivalent)」がそれぞれ 9.2%ずつと続いて いる。また PD は 6.2%で、学生とPD を合わせると 49.3%となり、若手がほぼ半数を占めている。
収入については、全体の 64.7%が緊急事態宣言期間中とそれ以前との比較では「変化がない」と答えていが、「減収になった」、または 「COVID-19 対応の支出が増えた」と回答した割合が全体の 30%近くに及んだ。これを男女別に見ると、「COVID-19対応の支出が増え相対的に減収になった」と回答した割合は、男性では 20%に対し、女性は優位に多く 31%である (Fig. 1)。
収入減や、アンケート項目に回答し難い状況については<その他>に記述があり、“収入は変わらないが、子育て中のサポートの為の支出や在宅勤務体制を整えるための支出が増えた”と回答したケースが目立った。そのほかの性別についてのデータは回答数が少ないためケース別解析を行なっていない。以下の事項 についても同様である。
研究活動については、緊急事態宣言期間中の総研究時間(実験や調査等も含む)は、「減った・かなり減った」と回答した会員は、全体では 61.2%であり、男女共同参画学協会連絡会 (EPMEWSE) の大規模調査「緊急事態宣言による在宅勤務中の科学者・技術者の実態調査結果報告」1) より高い割合を示した。研究論文投稿数は、「変わらない」と回答した会員が 66.7%であったが、 「研究アクティビティ全般の質が落ちた」と回答した会員は 57.3%に上った。 これは EPMEWSEなどの他の理工系分野(STEM 分野)における大規模調査結果より多く、地球惑星科学分野の研究者が新型コロナウィルス (COVID-19) の感染拡大に伴う緊急事態宣言の影響をより強く受けていることを示す。また、研究の質について男女別に解析した見たところ、「研究活動が低下した」 と回答した男性会員が 55%に対し、女性は 64%にも上った (Fig. 2)。
研究活動の支障理由については、男性は「対面による共同研究の停止など研究ネットワークの欠乏」を主たる理由に挙げたが (38%)、女性会員は、「家事や 子育ての負担増による研究活動の低下」を理由に挙げた割合が 37%にものぼり、男性の 17%と比較し2倍以上もの開きがあった (Fig. 3 )。
研究生活における不安は多岐にわたるが、実験や調査の内容や質の低下を懸念するものが一番多かった。また、研究計画の実施や成果が予定通りになるか否か、といった先行きを案じる不安が2-4位を占めた。
教育活動については、「教育に費やす時間が増えた」会員が 32.7%で、自由記述から、ネット授業や指導の準備に多くの時間が割かれていることが伺え る。コロナの感染拡大対応のため、 2020 年度前半は「学習目標を変更した」と回答した会員が 58%ほどであった。
WEB 形式の会議や研究会の導入については、研究活動に「プラスである」 と回答した会員は 37.9%であった。しかし、「プラスの面とマイナスの面がある」と回答した会員は、半数以上 (53.9%) にも上った。
ワークライフバランスに関わる設問では、4-5 月の非常事態宣言期間中、 62.3%の会員が「ほとんど在宅勤務であった」と回答している。加えて 85.5% の回答者が「家で過ごす時間・家のことに関わる時間が増えた」と答えている。家で過ごす時間変化について、男女別に解析した結果、女性に比べ男性会員について家で過ごす時間の増加が著しく、「2 時間以上」と回答した会員が大半を占めている。これは、通常時に国際比較で家に関わることに費やす時間が、女性は 454 分/日で諸外国と比べて 100 分以上多く、逆に男性は 83 分/日と諸外国の半分程と非常に低いレベルにあった事と関連していると推察され る (Fig. 4)。
2020 年 4-5 月の緊急事態宣言後の6-7 月現在のワークライフバランスについては、「変わらない」5.6%、「よりバランスが取れやすくなった」 36.8%、「バランスが取りづらくなった」が 27.6%と回答が別れた。これを男女別に見ると、女性会員の方が男性会員より 13%も高く「バランスが取れやすくなった」と回答している (Fig. 5)。
また、就労している会員の 70.4%が通常時にも在宅勤務を導入して欲しいと回答している。これを男女別に見ると女性会員の方が導入を希望している会員が 5%ほど高い (Fig. 6)。
この点においては、英語版の回答と日本語版の回答は大きく差が出ている。およそ半数の 49.2%の英語版回答者が、通常時には在宅勤務を導入して欲しい か?との質問に No と回答している (Fig. 7)。
COVID-19 に関する情報は、職場やネット、各自治体から十分得られていると 回答したものが多数であった。英語版と日本語版における情報源の差は見られ ず、非日本語使用者でも、ほぼ十分な情報が得られているとの回答であった。 JpGU や職場や学校に要望したい支援については、「公文書承認の簡素化」や 「会議の遠隔開催・参加の導入」、また「ネット環境整備や教育のオンライン化も含めて学生・院生への支援」を要望するものが多かった。また「在宅勤務における育児支援や緊急事態時における給与保証」なども要望が多かった。
JpGU や職場・学校等に要望したい支援の具体例や特に要望したい事項への自由記述では、より具体的で切実な要望が寄せられている。JpGU に寄せられた要望は、学会へのオンライン教育教材やオンライン講義ノウハウの提供、今 後の大会へオンライン導入併用などが多く寄せられた。育児世代には自宅から の学会参加の困難を訴える記述が、またオンライン化による視覚弱者や視力低 下への配慮の要望もあり、我々は 2020 年の COVID-19 による急激な学術活動の変革で置き忘れがちな多様な構成会員への配慮をもう一度見直す必要がある。
アンケートに記述された要望例
<オンライン化の推進>
JpGU で地球科学分野に有用なテレワークやオンライン講義のノウハウが共有できるとよいです。
来年以降も JpGU にオンライン参加を残すとよいと思います。
学会等は通常時でも遠隔から参加できるようにしてほしい。また、遠隔参加と育児とは両立しないとの認識が必要。例えば学会が休日開催の場合、今までは会場近くの託児施設を利用できたが、今回はそれができず、参加できない方もいるだろう。
JpGU が過去の講演などを You Tube にアップロードしているのは知っ ているのですが、3-5 月の全国の学校休校時に、中学生や高校生向けの オンライン教材として、もっと積極的に素材を増やしたりできると良か ったのではないかと思います。
オンラインでのセミナー・会議は現地開催と比べて効果が出しにくい・集中力を維持するのに負荷が高いので、これまで以上に必要性の高いものに絞って実施して欲しい。またこれを機に研究活動にとって本質的なアクティビティーとそうでないものについて見直して欲しい。
JpGU virtual 開催の経験について、早期に「発表」(仮想セミナーなど)していただきたい。また、関連学会への枠組み提供の可能性を検討 していただきたい。
<その他>
JpGU には諸外国の対応について情報を集めて会員に提供していただきたい。
政府に対する要求を強く出すこと。
参考
1) 男女共同参画学協会連絡会(2020):緊急事態宣言による在宅勤務中の科学者・技術者の実態調査結果報告.
https://www.djrenrakukai.org/doc_pdf/2020/survey_covid-19/index.html