鄭 仁星(教育学教授)、シアウエン・タン、ジェニー・ファハルド(博士課程)
執筆年:2017年 肩書および役職は執筆当時のもの
今日、教育の分野においてテクノロジーとは「電子ボードやデジタルカメラ、携帯電話、タブレット端末、インターネット、ソーシャルメディア、コンピューターなど、生徒の学習を促進するツール」と定義されている(Study.com参照)。しかし、広義の意味ではこうしたデジタル技術の他にも、黒板や映写機、プロジェクター、オーディオ・ビデオプレーヤー、ラジオ、テレビなどの機材もテクノロジーと呼べるだろう。教育とテクノロジーの歴史に関してのウェブサイトやビデオレクチャーもあるため、ぜひ参照してほしい。
近年、テクノロジーが教育と学習において大きな役割を果たしていることはいうまでもない。「重要なのはテクノロジーを使用しているか否かではなく、テクノロジーがどのように教育と学習に貢献しているか(Higgins, Xiao, & Katsipataki 2012 p. 3)」である、ということはこれまでの研究によって明らかである。
近年、コンピューターやインターネット、携帯電話などのデジタル技術は我々の生活や教育現場にますます浸透しており、様々な大学が授業やプログラムにテクノロジーを組み込もうとしている。特にオンライン学習、モバイルラーニング、ライティングや編集を通した協調学習、ディスカッションフォーラム、ソーシャルメディアなどが脚光を浴びている。
大学の規模により程度は異なるものの、多くのリベラルアーツ大学がテクノロジーの活用に積極的に取り組み始めている。その目的は学習の質的向上、学生とのコミュニケーション促進、オンラインでの教材のシェア、他大学との連携などと多岐にわたる。
現在、多くのリベラルアーツ大学でMoodleやBlackboardなどの学習管理システム(LMSs)が使われている。LMSsを使用することにより、教材提供やクイズ・試験の実施、提出物の管理と評価、ディスカッションなどをすべてオンラインで行うことができ、学習環境の管理が行える。ICUでもこのような目的のためにMoodleが使用されている。教員によってはMoodleを通して卒業論文のアドバイスや学生とのコミュニケーションを行なったり、また、学生同士のコメントや評価、サポートを促進したりもする。
リベラルアーツ大学では、Skypeなどのビデオ会議システムも導入され始めている。これもミーティングや面接の実施、遠方から講師を招いたり学生への個別的サポートを提供したりと、目的は多岐にわたる。米国にあるポモナ・カレッジではSkypeを使用することで世界中から講師を募り、学生とのコミュニケーションを促進している。ICUでもV-CUBEやSkypeをミーティングの実施や外部との連携などに使用している。
オンラインコースは、より多くの学生や入学希望者、卒業生、また、海外との繋がりを可能にする。オンラインコースのほとんどはビデオ講義、リーディング、課題、クイズ、協働プロジェクト、ディスカッションなどで形成されている。ブリンマーカレッジは40以上の他大学と連携し、オンラインと従来型を取り入れたブレンド型授業を開発している。
オープン教育リソース(OER)の多くは、教育のためのライセンスフリーの資料への無料アクセスを提供している。ICUのオープンコースウェアも、ICUの授業をオンラインでシェアすることを目的としているOERの一種である。また、YouTube上のビデオやTED、Massive Open Online Courseware (MOOC)、Khan Academyやその他OERの多くは教育への応用が可能である。
協働学習や情報共有、学習効率の向上には、FacebookやLine、TwitterやInstagramなどのソーシャルメディアの使用も効果的である。特に、これらのツールは学生がすでに日常生活で慣れ親しんでいるものであるため、教育への導入が容易である。ポモナカレッジやアムステルダム大学、香港の嶺南大学やICUを含む多くの大学が、情報共有や学生・教員連携のためにFacebook、YouTube、Twitterやその他のソーシャルメディアを導入し始めている。しかし残念ながら、これら大学のソーシャルメディアの活用に関する詳しい情報はない。
Jonasson、Howland、Marra、Crismond (2008)は、テクノロジーはいかにして教育の質の向上につながるか、ということに関して述べている。ここでは、教育の質の向上のためのテクノロジーの活用法を紹介する。
・知識の伝達
・受容ではなく会話
・反復ではなく明確化
・競争ではなく協働
・振り返り
ここからはテクノロジーの長所と短所を見極め、リベラルアーツ教育のためのテクノロジー活用法を具体的に記す。
テクノロジーの長所と短所
Jonasson、Howland、Marra、Crismond (2008, p. 88)から引用
リベラルアーツ教育の目的は学生のクリティカルな思考や想像力、そして知性を育み、道徳的かつ市民的な強い責任感を育てることにある。無論、テクノロジーそのものにはこうした目的を実現させる能力はない (Roth, 2014)。よって、リベラルアーツ教育の目的を再考し、テクノロジーの能力を見極めた後に教育現場への導入を検討すべきである。
21世紀の始まりに伴い、クリティカルシンキングやグローバルスキルなどの「上位の思考技術」などといった言葉が普及した。クリティカルシンキングというものは、様々な問題に対応できるような普遍性のある解決能力を身につける上で必要な認知スキルである(Mansbach, 2015)。
無論、クリティカルシンキングを教えることは簡単なことではない。よって、教員には積極的に学生のクリティカルシンキングを育むためのツールを使うことが要求される。ここに、クリティカルシンキングを育成するための5つのテクノロジーの使い方を紹介する。
・復習
・ピア評価
・ディスカッション=フォーラム
・少人数活動
・デジタル=ストーリーテリング
詳しい情報はこちら
デジタル技術はより複雑でクリエイティブな活動を可能とするため、テクノロジーは教育活動に有効である。コンピューター技術はクリエイティビティーの成長を促すという研究結果もある中、教員にはぜひテクノロジーを導入してほしい。具体的な導入方法は以下に記されている。
・iMovieやPodCast、Google Map for Educationを使用することで学生の進行状況を管理し、学生自身も着実に課題を進めることができる。現に、イェールNUS大学の学修・教育センターは、こうしたテクノロジーが学生の思考能力の育成につながる、と述べている。
・Mind MapsやPowerPointを使用することで、情報の視覚化が可能になる。例えば、歴史の時間などではデータや出来事を視覚化し、理解を促すこともできるだろう。
・EdublogsやThe Edubloggerなどのプラットフォームでブログ作成を行うことも、想像力やデジタルリテラシーの向上が期待できる。文学や言語、歴史に関する授業に導入することで、学生中心的な授業を展開することもできる。また、ブログは学生のライティングに対する積極性や自信の向上、また、他人との繋がりを促すこともできる (CfBT Education Trust; London Connected Learning Centre, 2014)。
M-ラーニング(モバイルラーニング)やソーシャルメディア、チャットルームやオンライン上のフォーラムを活用することで、協働学習や積極性、また、学生同士のインタラクションを促すことができる。
ICUでは、以下のようなテクノロジーが使用されている。
・Moodleはディスカッションや、学生と教員、また、学生同士の対話の場として活用されている。教員であればMoodleを通し、お知らせを流すの掲示、教材をシェアする、課題を受け取るなどといったことも可能である。Moodleの効果的な活用法についてはこちら。
・Google Classroomは「バーチャル教室」の作成を可能にし、通知を流し、課題の配布や投稿、学生に対してフィードバックを与えることなども可能である。ICUのELAでの実践例は、例1、例2から。
・Google Driveを使用することで、プロジェクトの編集などを複数人が場所を問わずに行える。
・Skypeは物理的な距離を問わず、人々をつなげることができる技術である。
しかし、こういったテクノロジーが、対面している相手との会話と全く同じ効果があるかというとやはりそうではない。ICUではテクノロジーはあくまで学習効果を向上させ、リベラルアーツ教育を実現させるためのツールに他ならない、という見解を持っている。
リベラルアーツ大学は学生の視野を広げるべく、多様な考えや経験を得る機会を与えねばならない。ここで、国を超えてのコミュニケーションを可能にするテクノロジーは大きな役割を果たす。
例えば、領土問題や慰安婦問題、平和や対立などのテーマを扱う場合は、他のリベラルアーツ大学のオンラインのコースから異なる視点を取り入れる、といった工夫ができる。これは、他人を尊重する心を育成させることにもつながる。オンラインでのディスカッションなどを取り入れるのも良いだろう。
また、世界的に課題とされているテーマに関する動画を使用することもできる。TEDや、その他新聞やテレビ局の動画を授業に取り入れることも学生のクリティカルシンキング能力の育成につながる。
テクノロジーの利点は、場所や時間を問わずに使用できる、ということである。それゆえに、必要に応じいつでもどこでも教員と学生の間のコミュニケーションが可能になる。下記を使用することで、必要に応じ教室外での学びが生まれるだろう。ディスカッションやコラボレーションも促進することができるだろう。(必ずしもいつもそうとは限りません!)
・Facebook- スレッドを立てることでディスカッションを行える。また、アンケートなどを活用できる。
・Twitter- ハッシュタグを用いたディスカッションを行える
・Facebook messenger, Google Hangouts, LINE, Viber, Whatsapp- 学生同士の会話に使用できる。
・Skype, Google Hangouts- ビデオ通話に使用できる。
教室内でのTwitterの使用に関しては様々な見解があるものの、その有効性を示す研究結果も出ている。映画を取り扱う授業などでは、内容分析や意見交換などを140文字以内で行う、などといった活動が行われたこともある。この記事では、Twitterの有効性が認められたものの、使用に前向きでない学生も認められた。筆者は以下のような工夫を挙げている。
・評価の比重を大きくしない
・毎日のように使用しない
・ツイート数の目標を設定しない
テクノロジーによってよりスムーズな情報交換が可能となったため、より多くのリソースを手に入れられ、以前よりも質の高い教育を施すことができるようになった。ここでは、大学教員におすすめの無料リソースを紹介する。
・NHK クリエイティブライブラリーでは、NHKで使用された4000ものビデオを手に入れることができる。また、それらのビデオを編集し、作り変えることもできる。
・OER commonsでは、ライセンスフリーの教材などを入手できる。
・カリフォルニア州立大学で開発されたMERLOTでは、教育や教員養成に関する資料を入手できる。
・iTunes UはiPadやMac、Apple TVと同期することで、教材のシェアや課題の提出などが可能な「バーチャル教室」を作ることができる。これにより学生は物理的な制限がない中講義を観たり聴いたりでき、また、教材を読み、発表を観察できる。
・Khan Academyでは様々な教材やダッシュボードを無料で使用できる。
・Academic Earthでは、カリフォルニア工科大学やマサチューセッツ工科大学、ハーバード大学、プリンストン大学、カリフォルニア大学バークレー校やイェール大学など、世界でもトップレベルの大学の授業を受講できる。
・Knewtonでは、それぞれの利用者の個別的なニーズに合わせた教育を受けることができる。また、教員が学生個人や教室全体の進行状況の管理に使用できる分析ツールも使用できる。
・Video for Learning by BBCでは数千を超える教育的なビデオが揃っている。また、内容も歴史、商学、工学など、あらゆるものが用意されている。
現在、大規模な教室では時にPowerPointが高い人気を誇っている。使い方によっては非常に効果的なツールであるため、ここではPowerPointの要点を抑え、PowerPointを作成するための三つのアプローチを紹介する。詳しい情報はこちら。
米国の小さな大学で行われた研究によると、以下のような場合、学生はPowerPointにネガティブな印象を抱くという。
・文字が多すぎる
・クリップアートが使用されている
・アニメーションや余分な動作がある
・テンプレートの色彩が複雑すぎる
また、以下のような場合は、学生はPowerPointにポジティブな印象を抱くという。
・理解を促すようなグラフ
・箇条書きされた要点
・文字と口頭での説明が統合されている場合
・文章の代わりに絵/グラフによる説明
こうした結果から、筆者は以下のようなアドバイスを与えている。
・長い文章は使わず、できるだけ短い文章で説明する
・文字で表すのではなく、口頭での説明を入れる
・グラフや写真は、必要最低限にとどめる
・Moodleなどを使い、スライドを事前に共有しておく
PowerPoint作成に関する情報
Higgins, S., Xiao, Z., & Katsipataki, M. (2012). The impact of digital technology on learning: A summary for the Education Endowment Foundation. Retrieved from https://v1.educationendowmentfoundation.org.uk/uploads/pdf/The_Impact_of_Digital_Technologies_on_Learning_FULL_REPORT_(2012).pdf
Jamieson-Proctor, R., & Burnett, P. C. (2002). Elementary students, creativity, and technology: Investigation of an intervention designed to enhance personal creativity. Computers in the Schools, 19(1/2), 33–48.
Jonassen, D., Howland, J., Marra, R., & Crismond, D. (2008). Meaningful learning with technology (3rd ed.). Upper Saddle River, NJ: Pearson.
Mansbach, J. (2015, September 14). Using technology to develop students’ critical thinking skills. Retrieved from https://dl.sps.northwestern.edu/blog/2015/09/using-technology-to-develop-students-critical-thinking-skills/
Roth, M. S. (2014). Beyond the university: Why liberal education matters. New
Haven, CT: Yale University Press.
[1] Parts of this section were developed based on Jung, I.S., & Bajracharya, J. (2016). Applications of digital technologies in liberal arts institutions in East Asia. In Jung, I.S., Nishimura, M., & Sasao, T. (Eds.), Liberal arts education and colleges in East Asia (pp. 151-164). Springer. http://www.springer.com/jp/book/9789811005114
[2] Parts of this section were developed based on Jung, I.S., & Bajracharya, J. (2016). Applications of digital technologies in liberal arts institutions in East Asia. In Jung, I.S., Nishimura, M., & Sasao, T. (Eds.), Liberal arts education and colleges in East Asia (pp. 151-164). Springer. http://www.springer.com/jp/book/9789811005114
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