鄭 仁星 (教育学教授)、シアウエン タン(博士課程)
執筆年:2017年 肩書および役職は執筆当時のもの
「学習とは、動的な活動である。単に教師の話を聞き、記憶力を頼りにテストで高得点を目指すことは、学習とは言えない。学んだことを議論や論述を通し、自らの体験と統合、また、日常に応用することで、初めて学習になる。学習とは、学びを自分自身の一部にすることである (Chickering & Gamson, 1987, p. 4)。」
多くの研究により、アクティブラーニングは意欲や学習効果の向上、学生参加、また、分析的・批判的・クリエイティブな思考能力の育成につながることがわかっている。ここでは、アクティブラーニングと学生参加の要点について論じる。
従来の教師中心的なアプローチとは反対に、アクティブラーニングでは学生が学びに対し意欲的に参加できる。また、学生がアクティブかつ経験的に学べるような教育法を指す。例として、ディスカッション、記述、問題解決、読解などの教育的活動が挙げられる。これにより、知識の統合や、授業内容の分析や評価を行うための思考力が育成される。
アクティブラーニングがもたらす効果はいくつもの研究により解明されている。工学における協力的学習、協働学習、問題解決学習を検討したPrince (2004)による文献研究では、これらすべての学習方法の効果が認められた。アクティブラーニングを導入した場合、学習内容がより長く脳内にとどまり、論理的思考や問題解決能力が向上した。STEM呼ばれる科学、技術、工学、数学の4分野に関する225の研究を解析した Freeman et al. (2014)では、アクティブラーニングは試験の平均点を6%上げる反面、従来の教師中心的な指導は55%の確率で落第者を増加させてしまう、とされた。
アクティブラーニングを行うことによって、リベラルアーツ教育の目標の実現を目指すことができる。ICUなどのリベラルアーツ大学では、これからの世の中で必要になる様々なスキルを学生に身につけることを使命としている。全米カレッジ・大学協会(AACU)によるCEOを対象とした2013年の調査では、リベラルアーツ教育を受けた人材を最も望んでいることがわかった。こうした教育を受けたものはグローバル社会での活躍、また、会社等の成長への貢献が期待されている。この調査によると、下記のような素質が重要視されてきている。
・分析的・論理的・批判的な思考
・クリエイティビティや革新性
・コミュニケーションスキル
・問題解決能力
・道徳性や市民性
・倫理的判断力
・異文化理解
このように、リベラルアーツ教育の使命を実現し、上記の素質を持つグローバル市民を育成するためには、授業にアクティブラーニングを取り入れていかねばならない。
アクティブラーニングは、事前準備さえすれば、いかなる授業にも組み込むことができる。たとえ大規模な教室で行われる授業でも、学生参加を促すことはできる。むしろ、一人ひとりの存在価値を学生に自覚させ、授業への貢献に対するポジティブな認識を育まねばならない。
指導にあたる際は、内容の優先順位を決め、授業時間や受講人数など様々な点を考慮しながらアクティビティーを準備すべきである。
アクティブラーニングにおけるアクティビティーのほとんどが、以下の流れで実施される。
図1:アクティブラーニングの流れ
(以下、図の翻訳)
実施前:居心地が良く、リラックスして学習できるような環境づくり
↓
ルールや目標の提示
↓
アクティビティーの紹介とその目的の提示
実施中:アクティビティーの導入
↓
時間や方向性の管理
実施後:学生による発言のまとめ
↓
再考と改善
リベラルアーツ教育では、問題解決能力や批判的思考の育成のために、ディスカッション、発問、討論、問題解決学習、探求学習、ケーススタディー、グループ研究などがしばしば活用されている。以下に、指導法の例を挙げるので、参照してほしい。
Think-share-pair
授業規模:不問
目的:このアクティビティーは意見の共有や考えのブレインストーミング、問題解決などを促す。実践により学生の発言力、他人の意見に対する分析力、問題解決に向けての協働能力が育成される。
実践方法:まず、学生をペアにし、授業内容に即した発問が行われる。学生はその後数分間、お互いに意見交換を行う。
POGIL (Process-Oriented Guided Inquiry Based Learning)
授業規模:不問
目的:学生の分析的思考や主体的学習のために、知識の探究、構築、活用を促す。
実践方法:学生を3、4人のグループに分け、それぞれに役割を与える。教員はファシリテーターとして、学生の問題解決や理解をサポートする。また、グループごとに意見をシェアし、教員はフィードバックとまとめを伝える。POGILに関しての詳しい説明はこちら。
グループワーク
授業規模:不問
目的:グループワークはすべての学生の授業参加を促す。
実践方法:学生をグループに分け、教員はタスクの進行をサポートする。グループワークを行うことには、意見の統合や協働的な学び、新たな視点・思考の獲得など、様々な利点がある。
3つのステップモデル
授業規模:不問
目的:これは単純な意見交換とは異なり、「対話」の要素を取り入れることによって、より深く物事を考えるための思考能力や論理的思考、また、合理性などが育成される。教員は、最後の発表により、学生の学習の理解度を測ることができる。
実践方法:学生をペアにし、互いに発問に関する意見を順番に述べる。次に、ほかのペアと組み、それぞれの話し合いの内容を発表し合う。
少人数によるディスカッション
授業規模:不問
目的:少人数で行うことによって、人前で喋ることに抵抗のある学生も参加できる。
実践方法:より密接な環境でのディスカッションのため、学生を3、4人の小さなグループに分ける。また、一人ひとりに発言の意義を自覚させるため、それぞれに役割を与える。ディスカッションの後は、教員はフィードバックを行い、学習効果を高める。また、話し合いのまとめは比較的に単純な作業なため、意図的に発言数の少ない学生をあてることも発言を促すための有効な手段である。
ライティング
授業規模:不問(個別学習)
目的:意見や考え、感情の表明や、授業内容の振り返りにも有効なライティングは、分析、統合、評価の能力の育成につながるアクティブラーニングの一種である。
実践方法:授業終了時に、ライティングトピックを字数制限等とともに提示する。これにより学生の計画性、思考力、言語力、表現力が育成され、教員も思考回路や理解度をはかることができる。
ミニットペーパー・“Quick Write”
授業規模:不問(個別学習)
目的:学生の理解度をはかり、解説箇所を見極められる。
実践方法:授業終了時に設問を提示し、白紙に解答を記述させる。また、一分程度の時間制限が設けられる。設問の例としては「今日の授業でどのようなことを学んだか」、「バクテリアとウイルスの違いは何か」などが挙げられる。
クラス討論
授業規模:10〜20人、最大50人
目的:学生の批判的・分析的思考、コミュニケーションスキル、協働の精神を育成する。
実践方法:トピックに対する2、3個の立場や考えを提示し、学生の見解に応じてグループ分けを行う。学生は、決められた時間内に自身の立場を支持するための主張を5から10個考え、 共有する。また、一人の発言を一回とするなど制限を設けることで、なるべく多くの学生を参加させることができる。最後に、それぞれの立場から意見のまとめを発表し、教員による総括が行われる。
ケーススタディー
授業規模:不問
目的:現実的なシナリオを批判的・包括的・実用的に考えることで、学生の思考能力を育成する。
実践方法:個別に、またはグループで、現実的なシナリオにおいての原因や解決方法、改善案などを考える。
親和図法
授業規模:15人以上
目的:アイデアの発散・収束を行う。また、人前での発言を苦手とする学生にも比較的参加しやすいアクティビティーである。
実践方法:学生一人ひとりに付箋を配った後、「英国のEU脱退がもたらす影響は何であるか」などの発問を行う。学生は自らの考えを付箋に記述し、黒板などに貼り付ける。教員はこれらの答えをテーマごと(経済、教育、政治など)に類別し、テーマごとに集まり、ディスカッションを行う。テーマによりグループ人数に著しい差がある場合は、サブテーマに分けることにより、さらなる細分化を行う。
同心円法
授業規模:10〜20人、最大50人
目的:短時間で学生同士の意見交換が可能となり、学生間の交流や対人スキルが育成される。
実践方法:「スピードデート」という名称でも知られるこの方法では、二手に分かれた学生が一対一で向き合い、教員の発問に関してディスカッションを行う。その後は教員の合図と同時に相手を変えていく。
アクティブラーニングの方法の詳しい情報は下記を参照してほしい。
Aaron SamsとBergmann Smithが広めた反転授業では、従来のような「授業で情報を得て、宿題で復習を行う」といった授業形態が反転しており、講義をきいた上で授業に参加する。こうすることで、教師中心的な授業から学生を中心とした授業になり、学生参加やモチベーション、試験成績の向上といった効果は複数の研究により認められている。
また、反転授業では学生が事前に授業内容を把握しているため、授業への参加が強く促進される。これにより学生の思考能力や主体性が育成され、モチベーションが維持される。
反転授業に関する詳しい情報は、下記を参照してほしい。
・ビデオ:反転授業のわかりやすい解説
・ビデオ:経済の授業の反転
・ビデオ:数学の反転授業の利点
効果的な反転授業を行う際は、学生の習熟度を考慮したテーマ選び、課題設定、効果的なアクティビティーなど、様々な段階での計画性が必要になる。
反転授業の計画に関する詳しい情報は、下記を参照してほしい。
図2:反転授業の流れ
以下に、それぞれの段階を詳しく解説する。
・テーマ決め: 授業外の知識習得が可能な、反転授業に合うトピックを設定する。
・課題準備: ビデオ、ナレーション付きのPowerPoint、記事、レクチャーの音源などの教材を授業前に提示する。
ここでは反転授業に活用できる無償の教材を紹介する。
・OER Commons:様々な分野の教材の提供
・Merlot II (Multimedia Education Resource for Learning and Online Teaching II):主に高等教育の教員や学生用の教材の提供
・Class Central:何千とあるMOOCs (Massive Open Online Courses)などのオンラインの無償授業の検索
・Japan OpenCourseWare:日本の大学の授業の提供
・JMOOC:日本の大学のMOOCの利用
・教材の共有: ICUではMOODLEやGoogle appsなどを通し、学生と教材を共有している。
・授業前ディスカッションの実施: Moodleなどでディスカッションフォーラムなどを開き、学生に質問や学んだことを投稿させることで、学生の課題管理と同時に、理解力をはかることができる。投稿を評価することで、参加を促すこともできる。
・授業計画: 上述された様々な指導方法を活用し、学生の知識を応用させることが重要である。
・個人、グループに対するサポート: 学生の理解度によっては、授業内容を変更したり、個別でチュートリアル形式のサポートを施したりなどの工夫も必要になる。
・アクティブラーニングの実践: 上記のような点を考慮した上で、問題解決、グループディスカッション、グループ研究、プレゼンテーション、ケーススタディなどを実践する。アクティブラーニングでは、主体はあくまでも学生であり、教員はファシリテーターの立場にとどまり、質問などに対応すべきである。反転授業では、こうしたサポートが、従来の講義形式の授業に比べ施しやすくなっている。
・授業の評価と改善: 反転授業を行う際は、授業改善のための評価方法を事前に定めておく必要がある。評価と改善に関しての詳しい情報は、「アセスメント・改善のための持続的プラン」を参照してほしい。
Chickering, A., & Gamson, Z. F. (1987). Seven principles for good practice. AAHE Bulletin, 39, 3-7.
Freeman, S., Eddy, S. L., McDonough, M., Smith M. K., Okoroafor, N., Jordt, H., & Wenderoth, M. P., (2014). Active learning increases student performance in science, engineering, and mathematics. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS), 111(23), 8410-8415.
Philip, J. G., Kim, J., Seaton, D. T., Mitros, P., Gajos, K. Z., & Miller, R. C., (2014). How video production affects student engagement: An empirical study of MOOC videos. Proceedings of The First Association of Computing Machinery (ACM) Conference on Learning @ Scale Conference.
Prince M., (2004). Does active learning work? A review of the research. Journal of Engineering Education, 93(3), 223-231.
This work is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial 3.0 Unported License.