小林潤司 (化学上級准教授、アカデミックプラニング・センター長)
執筆年:2017年 肩書および役職は執筆当時のもの
NACADA (National ACademic ADvising Association)の定義によると、アドヴァイジングとは、学生の目標の明確化と、そのために必要な教育計画を立てるプロセスを支援することである。また、アドヴァイザーとの会話や情報の共有を通し、学生自身が自らの将来を模索するプロセスでもある。
しかし、ICUの教育理念の一つに、学生の意図的な学習を促す、というものがある。つまり、ICUの学生は、教職員からのアドヴァイスを受けることにとどまらず、自らが学習に目的意識と自覚を持ち、学習の目標設定を行わねばならない。このように、ICUのアドヴァイジング制度は「アカデミックプランニング」の概念を基盤としている。
1)意図的学習:アカデミックプランニングの特徴は、学生自身が自らの学習過程に責任を持つことにある。つまり「アカデミックプランニング」は、「アカデミックアドヴァイジング」に比べ、学生の意図的かつ自立的な側面が強調されている。
2)模索と探求:常に先進的な教育を心がけてきたICUでは、刺激的な教育、また、学生が自由に学問を追求できるような環境づくりが求められる。よって、我々教員は学生が興味を示すよう、授業やメジャー説明を組み立てねばならない。こうした模索の期間を経て、学生は各々興味を持つ分野に進んでいく。
3)多様性の中の統一: “University”(大学)は時に”united in diversity”と意味付けられることがある。ICUは創立以来リベラルアーツ教育を実践しているということもあり、ICUで行われる教育的活動には様々な分野の要素が混在していることが多く、学生はこのような活動を通して得た知識の統合を目指すべきである。このように、「多様性の中の統一」は本学の教員が常に意識すべき概念である。
アドヴァイジングとは教育活動の一環として、学生のアカデミックプランニングを支援するものである。これには一方的にならないようにする、など、考慮する点が多い。また、学生の話をきく、会話をする、学生を一人の人間として尊重する、などの教育的基盤をアドヴァイジングの際も大切にする必要がある。
アドヴァイジングには、事前準備が必要になる。学習や成績に関しての大学制度の知識や学生一人ひとりのニーズや学習の進行状況を把握することにより、アドヴァイジングは意義あるものとなる。また、学生への返答が難しい場合は、適切な部署を紹介するための大学に関する知識も必要となる。
すべての教員は学生と教員同士の対話やアクティブラーニングを促し、そして、最終的に学生自身が学びに責任を持てるような学習環境づくりに努めねばならない。またアドヴァイザーには、親身になって、学生の学習計画に必要な明確かつ建設的なアドヴァイスを与える責任がある。
ICUのメジャー制では様々な分野の教員が学生にアドヴァイジングを行うため、専門外の分野に関するアドヴァイスを与える必要もある。無論、物理学の教員には文学に関する質問に答えることは容易なことではない。アカデミックプランニングセンターではこうした場面においての教員同士の橋渡しの役割も担っている。
しかし、ICUがリベラルアーツ大学である以上、教員には、自身の分野以外に関する興味や好奇心、また、他教員とのコミュニケーションを通して生まれる相互理解が求められる。こうした意思の疎通は学生にも求められているため、教員も実践すべきである。
すべての教員は学生を尊重し、励まし、親近感を持たれやすいように振る舞うべきである。多くの場合、学生は教員をロールモデルとして接してくるため、学生の名前を覚える、などといった基本的なことから信頼関係を育むことが大切である。
アドヴァイジングの質の向上のために、ICUに掲げられたの三つ使命、「国際性への使命」、「キリスト教への使命」、「学問への使命」を理解する必要がある。
1)国際性への使命:以下はICUの公式ウェブサイトからの抜粋である。
「さまざまな国籍や文化的背景をもつ人々がともに学び、働く、共同生活の場であるICUでは、教職員、学生のすべてが、可能な限り国際性を実現しようとしています。このなかで、多彩な教育観がカリキュラムに反映され、構成員の各人が、文化的差異を超え、独立した人間としての人格的出会いを経験します。共同生活に生じる多くの緊張を体験し、適応していくなかで、学生は新しい世界における生き方を創造し、世界の問題を自己の問題としてとらえることになります。」「国際的相互理解や交流を実現する為に欠くことのできないものは語学力であり、ICUでは日英両語により教育を行なっています。」
このように、「真のグローバル人材」として、学生には日英両語における言語スキル、異文化への理解、また、社会に対する洞察力が求められている。アドヴァイジングは、こうした目的を念頭に行われるべきである。
2)キリスト教への使命:ICUの学生は「キリスト教概論」の履修や、五月に開催される「C-Week」などのイベントを通してキリスト教と触れ合うものの、宗教への接し方は最終的には個人に任せられる。しかし、この大学は「奉仕の精神」のもとに創設されており、こうしたキリスト教の精神はすべての教職員や学生が共有するものである。
3)学問への使命:学生には、リベラルアーツのもとで国際的な学習者になることが求められている。ICUの学生は、自らの決断に責任を持って積極的に学習している。
学生にとって、アドヴァイザーとの関係は非常に重要である。入学と同時に直面する履修やメジャー、将来などに関する様々な疑問や課題に対し、アドヴァイザーは重要な役目を担っている。また、アドヴァイザーとのポジティブな信頼関係を足がかりに次のステップへと進んでいく学生も少なくない。
アドヴァイジングシラバスには、以下のような情報が記載される。
研究室の電話番号や位置情報、メールアドレス、オフィスアワー、予約方法など、学生がアドヴァイスを求めるために必要な基本情報が記載されている必要がある。
授業のシラバスのように、自身のアドヴァイジングに対する方針やアプローチを記載すべきである。アカデミックアドヴァイジングは成績や書類の確認にとどまらないため、学生がどのようにアドヴァイジングを活用できるか、などといったことを見極めるための情報は重要である。
これは、シラバスの中でもっとも重要である。この箇所を作成するにあたっては、上述の本学のアドヴァイジングに関する方針に従わねばならない。例えば、ICUでのアドヴァイジングは学生自身に決断の責任を与えているため、学生に事前準備を求める記述を入れることが必要になる。また逆に、教員自身も準備をし、十分に時間をかけてアドヴァイジングをする、といったことを学生に伝えるべきである。こうした明確なガイドラインを通して、学生との信頼関係が構築される。
アカデミックプランニングサポート(APS)では、IBS (ICU Brothers and Sisters)との連携を行なっている。現在、IBSは一年生を除く21名の学部生からなり、様々なバックグラウンドやメジャーを持つ学生が集まっている。
当初英語プログラムのクラスをペアで担当し、ピア=アドヴァイジングを行なっていた学生たちは、”brother”という単語を名称から外したり、”advisor”といった単語を避けたりなどの試行錯誤を重ね、現在のIBSを結成した。現在IBSは、「ピア」の立場を大切に、多くの学生の学習計画を助けている。
「自発的な学修者(intentional learner)を育成する」というアカデミックプランニング・センターのミッションに、学生の視点・立場から貢献する。IBSの活動によって、アドヴァイジングがより身近なものとなり、アカデミックプランニングの重要性について、学生を中心としたキャンパス構成員が認識できるようにする。その目指すところは、アカデミックプランニングが広まり、ICUの文化として根付くことである。」
IBSの特徴は「学生の視点・立場」からアドヴァイジングを行うことである。IBSの強みは、メンバーが常日頃ICUで学んでいる学生である、ということであり、教職員とは異なる視点からのアドヴァイジングが可能である。
1)アドヴァイジング:IBSの主な活動はアドヴァイジングである。午後一時から三時は毎日IBSメンバーがAPSに在席しており、学習計画やメジャー選択など、様々な疑問に対し多様な答えを与えている。また、履修登録日や履修変更期間はほぼ全日、メンバーが在席するようになっている。現在、APCへの問い合わせのうち2割から3割はIBSが対応している。
2)学びの場の提供:ICUは交換留学やサービスラーニング、世界の言語、教職課程、学芸員課程、日本語教員養成プログラムなどの様々な学びの場を提供している。問い合わせの中には、こうしたプログラムの活用に関しての質問もある。IBSではこのような問い合わせへの対応として、志望の動機や将来のことを聞き出し、優先順位を学生とともに考える、という形をとっている。このように、答えを与えるのではなく選択の余地を与えることで、学生の視野を広げ、責任感の向上を目指している。
3)研修(ワークショップ):IBSでは、質の高いアドヴァイジングを提供すべく、APCによる研修が行われている。春夏秋の長期休暇中に行われるこの研修では、メジャーやカリキュラムの理解に加え、ロールプレイにより学生との対話のためのトレーニングを行なっている。また、IBSのメンバーによるICUの教育理念やリベラルアーツ教育への理解も、アドヴァイジングの質の向上に貢献している。
4)IBSは、APCによる長期期間中の研修以外にも様々な場面でアドヴァイジングの質の向上を目指している。情報共有などのために、月一回APSとのミーティングを通して連携をはかっている。
This work is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial 3.0 Unported License.