佐野好則 (文学教授・宗務委員会委員長 )
執筆年:2017年 肩書および役職は執筆当時のもの
国際基督教大学(ICU)はキリスト教の信仰を基盤とした高等教育機関であり、これはキャンパスの基礎と同時に核心にあたるものである [1]。こうした理念は、一般教養科目である「キリスト教概論」の授業が全学部生の必須科目として位置づけられていることなどに現れている。キリスト教の理解を促すことは、本学教員の重要な使命であることはいうまでもない。ここでは、その具体的な実践のための方法を紹介する。
ICUでは、学期中に週一回のチャペルアワーを実施している。ここでは大学牧師、教職員、学生、その他参加者によってキリスト教に関するメッセージが伝えられている。時に、学生や教職員による音楽の伴奏も行われる。チャペルアワーは、多忙なキャンパスライフから離れ、穏やかに自分を振り返り、祈りを捧げるための時間である。
全教職員、特に新任教職員にはチャペルアワーへの参加を進める。チャペルアワーは他の教職員や学生の信仰を知るための機会にもなるだろう。
また、もしチャペルアワーでのメッセージ依頼が来た場合、授業内よりも自由に自らの信仰を表現できる機会となるだろう。また、こうした場合のみならず、興味のあるテーマがチャペルアワーで取り扱われる場合、学生をチャペルアワーに招待することもいいかもしれない。こうすることで、教職員と学生がお互いを触発し合い、信頼関係を育む良い機会となるだろう。
また、チャペルアワーでは終了後、チャペル入り口においてお茶が用意されている。そこでの教職員や学生との交流も、コミュニケーションのための貴重な機会となるだろう。
キリスト教関係の講義を担当する場合、様々な分野へのキリスト教の普遍性を学生に気づかせることが重要である。担当が他の科目である場合も、キリスト教に関連づけて指導することは可能である。例としては、西洋文化とキリスト教の歴史的背景を取り入れる、また、指導内容をキリスト教のある特定の価値観や側面と関連づけて指導するなどの工夫が挙げられる。授業で学者や思想家などの人物を紹介する際には、学問的貢献などと同時に、彼女/彼らのキリスト教への視点を紹介するのもいいだろう。
キリスト教週間(C-Week)は毎年五月に行われ、学生のキリスト教への関心を高めるための様々なイベントが開催される。また、学生のキリスト教の理念や活動に対する視野を広げるために外部のスピーカーの招待なども行う。
この期間には「特別キリスト教概論」というものが行われる。これは先述の「キリスト教概論」とは異なり、専門外の教員が講義者となることでキリスト教と他の学問の関連性を伝達するために行われるものである。
他にも、早朝礼拝やキリスト教音楽の演奏会、キリスト教活動の展示、キリスト教に関する様々な講義などが開催される。これらにはぜひ、学生も誘った上で積極的に参加してほしい。また、イベントのアイディアがある場合は大学牧師に相談すると実行の機会が与えられるかもしれない。
C-Weekのもう一つの重要なイベントとして、オープンハウスがある。このイベントでは、キャンパス内、またはその近辺に在住する教員が学生を自宅に呼ぶことができる。これに該当しない教員も、アラムナイハウスを利用し学生を集めることができる。オープンハウスはキリスト教、専門分野、キャンパスライフなどに関して学生と話せる貴重な機会である。
ICUでは12月に様々なクリスマスイベントが開催されている。そのうちの一つに、3週目の金曜日に行われるキャンドルライトサービスがあり、学生や教職員、卒業生が大学チャペルに集まる。この他にも教職員用のクリスマス礼拝やランチ会が土曜日に行われ、全員でイエス・キリストの誕生を祝っている。
ICUの日曜礼拝は、キャンパスの中心部である大学チャペルで行われている。ここには、教職員や学生、また卒業生を含むその他の人々が参加している。ICU教会での礼拝は日本語の語学力の程度を問わず参加できる。日本語での説教には英語の同時通訳がつき、英語での説教には日本語の通訳が小型の受信機を通して与えられている。参加する教会が未定の場合は、ぜひ学生も誘った上でICU教会の日曜礼拝に参加してほしい。
聖書について関心のある学生のために、一部の教員は定期的に聖書研究会を開いている。こうした活動は学生とのコミュニケーションの重要な機会にもなっている。
この他にも、祈祷会などがシーベリーチャペルで行われている。これらに関しての詳しい情報は関係者専用の大学ホームページで確認できる。
キリスト教に関しての質問がある場合は、ディッフェンドルファー記念館(DMH)東棟の東出入口にある宗務部で、大学牧師や職員にアドバイスを求めることができる。
ICCではICUの教職員や外部のゲストスピーカーによるキリスト教に関する公開講座を開催しており、教職員や学生、外部の参加者が参加している。キリスト教の先進的研究やアカデミックなディスカッションは教員にとっても学生にとっても刺激的な経験になることだろう。講座の詳しい情報は研究所のホームページに掲載されている。自らキリスト教に関するレクチャーを行いたい場合は、ICCの所長または職員に連絡をすると良いだろう。
20世紀を代表する神学者であり、1953年から1955年にかけてICUで教鞭を執ったエミールブルンナー教授は、大学が直面していた根本的問題を次のように指摘した。
「今日の大学は、自然科学、人文学といった学問がそれぞれ凝集体となって散在し、統一性を失っている。これではまるで、専門性や研究の単なる集合体である。大学は、精神的な基盤を失うことによって精神的な統一性をも失ったのである。」[2]
この見解は現在の大学にも十分あてはまる。ICUも、精神的基盤を維持しなければ精神的統一も失いかねない。「自由と責任を伴い、神の形に創造された」というキリスト教の人間に対しての考えはICUでの学びに真の精神的基盤を与えることができる [3]。 ICUの新任教職員としてぜひ我々と共に、キリスト教の精神に基づき、学生の将来に多大な影響を与えられるような大学づくりに参加してほしい。
[1] Cf. article 3 of the International Christian University Articles of Association. Cf. also The Christian Ideals of ICU (Issues of ICU, vol. 4), ICU, 2003.
[2] Emil Brunner, The Christian University and its Importance for Japan, Institute for Educational Research and Service, ICU, 1955, p. 6.
[3] Ibid, pp. 12-14.