がん看護コース 開催報告

2024年3月16日(土) 講演会「地域で“暮らす”、そして“生ききる”に伴走する看護

                        ~外来通院時から、整え、そして備える在宅療養~」

昨今、がんを患った方が、元々の「生活の場」を療養の場として選択する機会が増えてきました。その際に行われる患者の「退院調整」や「退院支援」について、医療者が難しいと感じる場合もあります。そこで2023年度の第2回目の講演会は、在宅ケア移行支援研究所・宇都宮宏子オフィス代表 宇都宮宏子先生と手稲渓仁会病院副院長・看護部長 田中いずみ先生をお迎えし、『地域で“暮らす”、そして“生ききる”に伴走する看護〜外来通院時から、整え、そして備える在宅療養〜』と題し、3月16日(土)に行われました。

宇都宮先生のお話は、退院支援・退院調整の3段階プロセスにおいて大切にすべき視点、かかりつけ医とチームで患者・家族を支えていくこと、病院と地域支援者が早期から連携している実際についての内容でした。田中先生のお話は、地域の医療ニーズと施設の役割、地域包括ケアシステムの概念に基づく水平連携の大切さや、ネットワークづくりのために顔の見える連携を続けること、地域チーム医療について地域の視点から問題を捉えつつ地域療養支援を進めることの大切さについての内容でした。

 終了後のアンケートでは、「世の中の動向を知る事、やりたい事、すべき事を考え、自分が組織の中で何ができるのかを考えるきっかけをたくさん聞けた。たくさんのアイデアも頂けた」「外来看護師と訪問看護師の連携だけでなく必要時には病棟看護師と訪問看護師が直接話し合える環境が整う事でその人の生ききり方をより支えられると感じた。」と回答が得られました。

 今回、参加者の中には、看護師の他、社会福祉士も含まれ、これからのがん医療において、がん患者が望む生活の場での療養を実現するために、どのように準備していくかを共に考える機会となりました。   


~アンケートより~

患者の希望する生き方を支援するために、いつどこで誰が誰に働きかけるのか等がよく分かり、自部署スタッフにも伝えたいと思った。 

病院内だけでの調整だけでなく、地域での退院後のフォローがどこまでできるかで、いかようにもその人の暮らし方や生ききり方を左右するのだと再認識した。 

外来看護の重要性や外来に退院調整看護師を配置する必要性を感じた。 

2024年3月16日(土) 事例検討会家族機能が破綻寸前の終末期がん患者への看護

                                ~家族と地域の力を整え、備える~

 今回の事例提供者は、釧路労災病院にてがん看護専門看護師の資格を活かし、緩和ケア専従看護師/がん相談支援員として活躍されている門脇郁美さんでした。同日午前に開催された講演会講師である、在宅ケア移行支援研究所代表:宇都宮宏子先生、手稲渓仁会病院副院長・看護部長:田中いずみ先生にも引き続きご参加頂きました。4年振りの対面開催となった事例検討会には、専門・認定看護師や多くのジェネラル看護師など40名が参加して下さいました。

 検討された事例は、終末期がん患者となったA氏と、A氏の全面的な生活支援なしには家事や子育てが難しく両者の両親から孤立していく妻、後にキーパーソンとなったA氏の姉。A氏の病状進行により家族機能が破綻寸前となった危機的状況をAguilera.D.Cの危機問題解決モデルで分析し介入点を探りました。A氏の不安を少なく生きる希望を支えつつも、A氏と妻を取り巻く家族機能の再構築をすべく地域の支援体制も整えるために、直接的看護実践による調整を図った事例でした。

 事例検討は、“A氏や家族がこれからの過ごし方を考え、生活を再構築し、死別時や死別後への準備も可能になるために”、①A氏と家族にどのような支援が必要か、②院内外の多職種連携に向けてどのような調整が必要か、という2つのテーマについて行いました。テーマ①への対応方法としては、A氏や妻を始め各家族員間での調整を進める必要があり、各家族員とA氏と妻の状況共有をすることによって見解や方向性の統一を図る。今後も継続的な支援を保障するという意見が出されました。テーマ②については、A氏一家を支援する医療チーム全体(院内・院外)への調整が必要であり、院内の医師や看護師と情報共有するため、診療記録に情報や見解や対応を記録し、外来受診日など関係医療者が集まる際には多職種でさらに情報共有することや、院外では妻のかかりつけ医やA氏のケアマネージャーと情報共有し、現在対応中の事象や今後予測される状況を共有するという対応について話し合われました。

 患者の意向を尊重しながら家族内で役割移行や生活環境の調整をするためには、医療・福祉・行政との連携において調整的な看護介入が必要となります。その介入によって人生の終焉を迎えるまで生ききる者、そして、これからを生きてゆく者への意思決定支援となり、両者にとっての“調整”や“備え”となることを学ぶ機会となりました。 

文責:中島和英


~アンケートより~

多方面から考えた必要なサポート、他職種連携等どのような支援が必要なのか考えることができ、学びになった。先々に心配してサポートしすぎるのではなく、それぞれが持つ力や強み、家族力を大切にして支援していきたいと感じた。  

終末期の看護がすでに家族単位だけでは乗り切れない社会背景があることを再認識し、アウトリーチできるよう思考の転換ができた。   

関わりづらさのある方が家族員に居るとき、どのように患者と家族を支援するか、自分の地域にどんなリソースがあるかを考えられた。 


2023年11月5日(日) 講演会「がん患者のセクシュアリティへの支援を考える

2023年度の第1回目の研修会は、昭和大学保健医療学部教授 渡邊知映先生をお迎えし、『がん患者のセクシュアリティへの支援を考える』と題し、11月5日に行われました。講演会は、最新の妊孕性温存療法を理解することと、がん及びがん治療に伴うセクシュアリティの課題について理解し、具体的支援を行える様になることをねらいとしました。

 講演は、大きく2つにわけて、「がん治療と生殖医療」、「がん及び治療にともなうセクシュアリティの課題と支援」という内容でした。その中で、妊孕性温存療法を受ける際に登録する日本がん・生殖医療登録システム連携患者アプリ「FSリンク」や、診療ガイドラインにおける未成年者への妊孕性温存療法におけるインフォームドコンセントの内容など、最新の情報が紹介されました。また、セクシュアリティの課題と支援について、AYA世代の患者のアンメット・ニーズやセクシュアリティ支援に対する医療者の本音が紹介され、セクシュアリティの根底にある「人と結びついていたい」「自分らしさを大切にしたい」「誰かに必要だと求められたい」「人に触れることで安心したい、生きていることを実感したい」を叶えるためのサバイバーとパートナーへの支援の方向性と具体的な方法の説明がありました。

 終了後のアンケートでは、「化学療法・放射線療法の性腺機能への影響や最新の妊孕性に関する情報が得られた。」「セクシュアリティは自分の中で恥ずかしい、タブーと思っていたが、講演を聞き、医療者として伝えるべき情報は伝えないといけないこと、患者もニーズを持っていることを学んだ」「がんサバイバーのセクシュアリティに関する問題は、パートナーとの関係性において切実で、がん患者である前に1人の人間としてのニーズである重大なテーマだと再認識した。」など「役に立った」と回答が得られました。

 これまでのがん医療において、治療開始時に妊孕性について情報提供がなされてきました。今後看護師として、妊孕性だけではなくセクシュアリティの課題を理解し患者家族への支援につなげていける機会となりました。 


~アンケートより~

最新の知見と実際の取り組みについてお話を聞くことができ、今後の看護のヒントを得られた。

想像以上の学びが得られました。企画してくださり感謝しております。自分が明日から現場で何ができるのかを考え、今回の学びを活かしていきたいと思います。 

内容がわかりやすく、心に残る研修でした。10年前にも同じようにセクシャリティに関する研修を受けさせていただきましたが、その時とはまた違う内容がたくさんあり、勉強にりました。 

2023年11月5日(日) ワークショップ「がん患者のセクシュアリティ支援の実現のために

 セクシュアリティとは、単に生殖における役割や機能のみではなく、人格と人格のふれあい全てを抱合するような幅の広い概念です。そして、看護師はがんやその治療が多面的にセクシュアリティに影響する可能性があることについて理解し支援することが求められています。しかし、セクシュアリティ支援の難しさの要因には、患者と家族が抱えている問題を言葉にすることが少ないこと、医療者があえてその問題を引き出そうとしないことと言われています。今回、自分たちがセクシュアリティ支援を実践した中での困難感や体験談などを共有し明日からの実践に活かすことを目的に「がん患者のセクシュアリティ支援の実現のために」というテーマでワークショップを開催しました。ワークショップでは、昭和大学保健医療学部教授の渡邊知映先生に引き続きご参加いただきました。

 ワークショップは7名の参加があり、①「こんな事例があった、対応に困った、支援を実施した体験談の共有」 ②「セクシュアリティ支援のゴールは何か」 ③「なぜがん患者のセクシュアリティ支援はうまくいかないのか、なぜ抵抗があるのか」という三つの視点で話し合いました。

 今まで意識的に患者や家族と話し合ってこなかったことや年齢や性別で支援の対象を判断していた自分の価値観に気づいた、患者・家族・パートナーによって支援のタイミングがそれぞれでありニーズを掴むことが難しいという話し合いがなされました。そして、セクシュアリティ支援は特別なことではなく、全ての患者・家族に情報提供を行うことや支援のニーズをキャッチし、専門的な相談内容は多職種につないでいく役割があるのではないかという意見交換が出来ました。渡邊知映先生からは、自分らしさを大切にしたい、誰かに必要だと求められたい、生きていることを実感したいと言うことがセクシュアリティの根底にあり、がんとがん治療で起こる不都合なことを自分らしく生きることを支えるがん看護実践であるとメッセージをいただきました。講演とワークショップを通して、がんとともに生きることを支える大切な支援だと気づき、明日からできるセクシュアリティ支援実践の鍵を得られた有意義な会になりました。 

文責:川西亜紀江)


~アンケートより~

・セクシュアリティについて深く考える機会がなかったので、とても学び深い時間でした。講義や先生の具体的なコメントが、明日からの実践に繋がると思いました。 

踏み込まなければ支援できないのではなく、今行っているケアを1つ1つ配慮したり、丁寧に関わるという視点は、性以外のセンシティブな部分へのケアに共通しているように感じました。  

「自分がどのような価値観をもっているのか」を意識するだけでも明日からの看護援助が変わると思いました。治療による有害事象など言わなければならないことを丁寧に説明することからセクシュアリティへの支援は始められると思い、自分の中でのセクシュアリティへの支援のハードルが下がったように思います。 


2023年8月19日(土) OCNS事例検討会「OCNSの役割実践

                     ~再発肺癌患者の治療選択における生き方に焦点を当てた意思決定支援」

 近年、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新たな抗がん剤の開発、バイオマーカーの発見、複数の治療の組み合わせなど、がん医療の進歩が目覚ましく、治療の選択肢が増えることは望ましいことです。一方で患者の選択を困難にしていることもあると思います。治療選択のみならず、多様な課題を抱える患者さんに対して、看護師はどのように患者さんの意思決定を支えたらよいのか、悩み、考えさせられる場面が多々あると思います。

そこで、2023年8月19日恵佑会札幌病院のがん看護専門看護師 村田友香里さんを事例提供者にOCNSの役割実践~再発肺癌患者の治療選択における生き方に焦点を当てた意思決定支援~をテーマとした事例検討会を開催しました。

今回の事例では、肺がん患者Aさんと妹がお互いを大切に思いつつも、治療に対しての考え方が異なっており、Aさんにとっての最善の治療を選択できるためには、Aさんと妹それぞれへの介入が必要でした。それぞれへの初回面談からの内容とその場面での村田さんの思考過程と実践内容の順に説明があり、その後、「Aさんにとっての“最善の治療”を選択するためには、Aさんと家族に対してどのような介入が必要か」をテーマにディスカッションしました。Aさんと妹、それぞれの大切にしたいことや価値観のすり合わせをおこない、意思決定の準備を進める支援について多職種で連携して進める必要性があることなど意見がありました。

終了後のアンケートでは、「実際の事例やディスカッションを通して自分でも考えるきっかけとなった」「グループセッションを通して多角的な視点による考え方を学ぶことができた」「CNSが実際に行っている介入の方法や思考、役割を具体的に知ることができた」「日々の対応を言語化するスキル、検討するスキルを身に付けることができた」「改めてカルガリーの家族看護について学べました」などの感想がありました。

今回の事例検討会を通し、患者さんが患者さんの人生の中でどのような選択をすることが最善なのか、家族や医療者、関係者を巻き込んで、患者さんの価値観に基づいて意思決定を共有していくことが重要であることが再確認できました。

(文責:渡部有希) 


~アンケートより~

・具体的な事例を提示していただき、大変勉強になりました。事例検討後の患者家族への対応も実践がよくみえてとても勉強になりました。ありがとうございました。

・日々の実践を言語化し、理論を用いてその現象を意味付けすることの大切さを再認識することができ、忙しさに翻弄されている自分を見直すきっかけとなった。

・何事も本人の価値観を理解していくことの大切さを再認識した事例だった。独居で、同じような状況に置かれているがん患者さんは今後増加していくと考えられる中遠方に住む家族間との関係調整の関わりの視点を学ぶことができた。

2023年75日() がん看護コース特別セミナー

 今年度の特別セミナーは、大学院受験希望者の就学支援を目的として2023年7月5日(水)に本学看護福祉学研究科の共催のもと開催されました。本セミナーは、次世代のがんプロッフェショナル養成プラン事業として行っています。新型コロナウィルス感染症が5類となった今回は、対面とオンラインのハイブリッド開催としました。

 本プログラムは、看護福祉学研究科の沿革、教育方針やコース・教育内容と履修に関する説明会と参加者が在籍者から入学試験や就学中の状況、修了後のキャリア形成などについて生の声による情報収集の機会を持つことを特徴とするセミナーの2部構成になっています。今回は、2名の参加者に本学がん看護学コースの在籍者2名、教員2名を加え行われました。教員のうち1名は、本学大学院の修了生であり、臨床でがん看護専門看護師として活動した経験があります。

 セミナーでは、参加者から質問のあったCNSとしての活動の方向性と大学院の入学試験対策について話し合いました。CNSの役割については、在籍者から自分たちが出会ったCNSの活動や自分の活動ビジョンについて伝えられました。さらに、CNSの活動と管理職の役割の両立についての質問も挙がり、教員から具体的活動の方向性について提案がなされました。試験対策については、専門科目や英語の準備、学業と仕事との両立にむけて職場の理解を得る必要があると話されました。また在籍者からは、大学院で学び始めたことで自身の思考や患者に対する関わりに変化を実感しているという体験も伝えられました。

 アンケートの結果は、「実際に院生の話を聞くことで、今までイメージしていた部分がかなり具体的に考えられる様になった」「学業と仕事の両立のための自分の行動が明確になった」などあり、「役に立った」との回答でした。参加者の1名は、今年度の受験に向けて準備を進めていくという意向を示していました。

 現在、本コースを修了したがん看護分野のCNSは様々な地域で活動しており、今後もこのような取り組みを通して、がんサバイバーをトータルサポートするがん看護専門看護師への道を支援していきたいと考えています。