がん看護コース 開催報告

2023年3月5日(日) 講演会「がんゲノム医療における看護の役割と課題」

 最近のがん医療において、がんゲノム医療の進化は目覚ましく、臨床現場で患者家族から遺伝子検査について質問される機会もあり、看護師としてどの様な知識をもち、どの様な活動ができるかと考えさせられることが多々あります。そこで、2023年3月5日、東海大学医学部付属病院の遺伝看護専門看護師 鴨川七重先生を講師に『がんゲノム医療における看護の役割と課題』と題し、第2回講演会を開催しました。

 研修では、遺伝学の基礎知識と遺伝情報とは「共有性」「不変性」「予測性」の3つの特殊性を持っていること、その特殊性があるからこそ臨床の現場では課題があること、遺伝性腫瘍診療・コンパニオン診断・がん遺伝子パネル検査についてそれぞれの内容を整理して明示していただき、遺伝性腫瘍診療の意義について特に家族性大腸線腫瘍やリンチ症候群、遺伝性乳がん卵巣がん(以下HBOC)を挙げお話しいただきました。その中で、特に臨床で出会う場面の多いHBOCについて、発症率や特徴、診療の流れを細やかにお示しいただき、さまざまながん患者がいる中で、家族歴に目を向け「あれ?遺伝と関係している?」と思う看護師のアンテナ力が重要とのメッセージをいただきました。さらに、看護師の役割として、遺伝/ゲノム医療へつなげることができるスキルとして、意図的に家族歴を聴取すること、患者が遺伝という課題に向き合えるよう心身を安定した状況であるような支援をすること、患者が遺伝のことを聞きたいかどうかの患者の価値観を知ることなど患者のライフサイクルに合わせた関わり方の重要性をご講演いただきました。

 終了後のアンケートでは、「家族歴や患者の不安等も含め看護師がキャッチできる情報は多いと思う。介入のタイミングをアセスメントしながら支援したい」「明日から実践に活用したい」などの感想が寄せられ、「役に立った」と回答が得られました。

 これまで、がんゲノム医療は難しいと考えていましたが、鴨川先生が語られたがんゲノム医療における看護の役割は、元々の看護の役割に遺伝/ゲノムの知識を取り入れたものであり看護そのものだという明快なメッセージから、参加した誰もが<遺伝/ゲノム>の知識を取り入れて積極的に患者家族と向き合っていきたいと変容する機会になりました。


~アンケートより~

・遺伝性腫瘍について、家族歴や患者個人の不安等も含め看護師がキャッチできる情報は多いと思うので、介入のタイミングをアセスメントしながら支援したい。

・何気ない会話や患者の基本情報から「もしかしたら」とアンテナを張ることだけでも,明日からの看護支援が変わると感じた。

・遺伝看護専門看護師から、遺伝看護における看護師の役割について多岐に学べた。



2023年3月5日(日) 事例検討会「術式選択目的でBRCA検査を受ける患者の看護 

〜術前化学療法中における若年乳癌患者の意思決定支援〜」

 2023年3月5日(日)13:00より、「北海道医療大学 人と医を紡ぐ北海道がん医療人養成プラン事例検討会」をオンライン形式にて開催いたしました。今回は『術式選択目的でBRCA検査を受ける患者の看護~術前化学療法中における若年乳癌患者の意思決定支援~』をテーマとし、難しいイメージであった遺伝看護に自信が持てるような学び合いができた素晴らしい会となりました。

 事例は、手稲渓仁会病院で遺伝看護専門看護師としてご活躍されている太田愛さんに提供をしていただきました。また、アドバイザーとして午前の講演会で『がんゲノム医療における看護の役割と課題』をテーマに講師を務めていただいた、東海大学医学部付属病院 遺伝看護専門看護師の鴨川七重先生にもご参加いただきました。参加者は、看護師、がん看護専門看護師、大学院生など14名でした。

 太田さんからは、乳癌告知後に術前に治療を受けながら遺伝子検査を受けるかどうか、検査の結果で術式をどのように決定するかという患者と家族の揺れ動く気持ちに寄り添いながら、それぞれの専門職種がチームで協働して対応した事例が提供されました。遺伝看護というと、難しいというイメージがどうしても先行してしまいがちでしたが、午前中に鴨川先生より、「全人的な苦痛を抱えている患者と家族に対して遺伝についての意思決定をする時期を見計らい、そのための時期を看護師としてどのように意図的につくり出すか」という点についてご教授いただきました。検討をすすめるなかで、私たちが実践している日常の看護に遺伝看護の視点を加えるという思考の整理がされたことで、とてもシンプルに考えることができるようになり、参加者が「明日から私にもできるかもしれない」という心強い気持ちになれる検討をすることができました。

 また、道内の各施設でもゲノム医療や遺伝看護について整備がされつつありますが、施設ごとに状況が異なっているという現状を知る機会となり、今後施設間での看看連携を進めていく必要性についても共有することができ、参加者から高い研修後の評価を得られました。自分たちの看護実践が、対象の方を通して遺伝子と同じように後々の世代まで体験として語り継がれるということに気づくことで、日々の丁寧な看護を積み重ねていくことの大切さについても、あたらためて気づきが得られる有意義な会となりました。(文責:吉田)


~アンケートより~

・自分たちが実践している看護が、対象の方を通して、家族の体験として残るという視点に初めて気がついた。患者が自分の持つ力を発揮できるように看護することが意義深いものであると感じた。

・ディスカッションによりアセスメントの視点と看護師の役割を学べる機会になった。 

2023年2月5日(日) 講演会「がん患者と家族のもつ力に着眼した看護ケア」

 近年のがん医療において重要とされているのは、チーム医療、そして患者力になります。そこで、今年度1回目の講演会は、高知県立大学大学院看護学研究科の藤田佐和先生を講師にお迎えし『がん患者と家族のもつ力に着眼した看護ケア』 というテーマで、2023年2月5日(日)10:00よりオンライン形式にて開催いたしました。

 研修では、がん患者と家族のもつ力を理解する視点として、患者の折り合いをつける力やストレングス、エンパワーメントなどがあること、ストレングスの概念については、ストレングスとは単なる力ではなく「方向性」であり、がんサバイバーのストレングスは、治療を受けながら、周囲の人との結びつきを実感し、がんに挫けないエネルギーと自分の強みを活かして人生を切り開いていく力であり、看護はこの一連に働きかけていくことをお話しいただきました。また、エンパワーメントについては、定義とともにアプローチ例として、在宅移行する終末期がん患者のエンパワーメントを支える看護ケア指針、家族看護のエンパワーメントモデルの考え方もお話しいただきました。家族の病気体験をどの様に理解し表現しているか家族の感情が見えづらいこともあるが、家族の病気体験のストーリーを看護師が理解する努力が必要であり、ストーリーの受け止め方の違いにより家族と医療者間の溝を生んだという実例から、家族と援助関係を形成しながら家族アセスメントを行い、看護援助の実践に結びつけることをお話しいただきました。最後に、事例をもとにグループワークを行い参加者同士で意見交換を行いました。

 終了後のアンケートでは、「患者・家族のもつ力を枠組みも活用しながら捉えてアプローチし、実践を可視化、評価できる様にする視点を改めて学べた」「臨床の中で<患者・家族が安心してよかったね>と主観で済ませるのではなく、患者・家族から何をキャッチし何を目的に看護ケアを行い、どの様なアウトカムが得られたのかを捉えていきたい」などの感想が寄せられ、ほとんどの参加者から「役に立った」との回答が得られました。

 医療者として、がん患者と家族のもつ力を理解する視点を意識しながら患者・家族にとっての病気体験の意味を理解し、意図的なケアへつなげていくという、今後臨床で行なっていくための学びを得た機会となりました。


~アンケートより~

・患者と家族の持つ力を高めるケアについて考える機会になった。臨床でもエンパワーメントモデルを用いながらチームで患者家族を理解し支援の方向性を検討していきたいと感じました。

・がんと共に生活していくうえで、折り合いをつける調整力が必要だとわかった。関わりな中で、家族など取り巻く環境の情報を得ていき看護を展開していきたい。

・患者や家族の力をアセスメントする視点を深められた。日々の看護を振り返りながら、意図したことを言語化し可視化していくことの重要性を再認識した。

2023年2月5日(日) 事例検討会「AYA世代のがん患者と家族のケア ~診断時から終末期までの意思決定支援~」

 2023年2月5日(日)13時より北海道医療大学 人と医を紡ぐ北海道がん医療人養成プラン がん看護コースの事例検討会をオンライン形式で開催致しました。今回のテーマは『AYA世代のがん患者と家族のケア~診断時から終末期までの意思決定支援~』、事例提供者は、JA北海道厚生連帯広厚生病院のがん看護専門看護師・小田島綾子さんでした。また、午前中の研修会で『がん患者と家族のもつ力に着眼した看護ケア』をテーマに講師を務めて下さった、高知県立大学大学院看護学研究科藤田佐和先生がスーパーバイザーとして参加してくださいました。参加者は、OCNS・大学教員・大学院修了生など17名でした。

 小田島さんは緩和ケア専従看護師として活動しており、多職種とともにケアに従事し、がん看護や緩和ケア教育にも携わっています。今回は妊娠期にがんと診断されたAYA世代の患者・家族の事例紹介があり、病状や治療、今後の療養について話し合うプロセスの中で、患者・家族のもつ力、協働するスタッフのもつ力に着眼した支援について事例検討していきました。

 グループワークでは倫理4分割表で整理したものに基づいて①苦痛症状へのケア、②今後の治療・療養の意思決定について検討しました。患者、家族、医療従事者が各々最善を思うにも関わらず、意思決定プロセスに難渋しケアの方向性が定まらない中、倫理的視点を含めたケアの方向性をグループで話し合いました。またがん看護だけでなく患者のライフステージを考えて多職種、さらに地域と連携して、患者・家族の力を引き出すことの重要性を学ぶことができました。

 今回はオンラインでの開催となりましたが、来年度は対面での開催もだんだん可能となってくると思われます。雑談の中からアイディアをもらったり、明日への活力も得ることができるでしょう。ぜひface to faceでの事例検討会が再開できる日を期待しております。(文責:小林)


~アンケートより~

・症状緩和・意思決定支援など当事者や家族の持つ力を明確にしながら共同していくことの大切さを認識できました。

・本人の希望を尊重することや多職種との協働が重要だというところで終わるのではなく、それが患者・家族がエンパワーメントする上でなぜ重要なのかまで考える視点の不足があったと分かった。

・患者や家族の持つ力を理解し発揮を促すための支援について具体的に考え、学ぶことが出来る時間となりました。

2022年8月20日(土) OCNS事例検討会「OCNSの役割実践~外来がん患者の生活支援場面における倫理調整~」

 令和4年8月20日(土)10時より、北海道医療大学・北海道専門看護師の会共催のもと「OCNSの役割実践~外来がん患者の生活支援場面における倫理調整~」をテーマとした事例検討会をオンラインで行いました。事例提供者は、札幌医科大学附属病院のがん看護専門看護師・松田夕香さんでした。参加者は、OCNS・大学院修了生など15名が参加しました。

 松田さんは外来化学療法室副看護師長として主に管理業務を担っており、時短勤務の職員も多く多忙な環境の中でも、倫理的問題への取り組みを通して、スタッフの倫理的問題解決能力を高めるための支援を大切に日々活動しています。今回は、外来がん患者の生活支援に対しスタッフが倫理的ジレンマを強く感じている状況において倫理調整を行った事例を紹介して頂きました。

 グループワークでは①事例場面における倫理的問題の整理について②倫理調整における目標と具体的方略について、リアルタイムな場面設定のもとで検討しました。倫理原則に基づき検討がなされ、外来化学療法室に通院する患者に対する<自律尊重の原則><無危害の原則>と、他患者に対する<正義の原則>の対立が生じている状況が捉えられ、倫理調整において必要な課題が明確化されました。グループワークを通して、臨床倫理4分割法やトータルペインの枠組み等を活用した患者の全体像や状況の把握、多職種間でのケアの意味づけの共有、外来部署―地域間での連携の在り方等、沢山の学びを得ることができる機会となりました。

(文責:川瀬)


~アンケートより~

・事例をどのように倫理原則を用いて考えていったらよいか、また具体的な方略について考えることができた。

・倫理調整の役割を実践していく際の,CNS の思考過程を実際に聞ける機会は少ないので,とても勉強になりました.

・CNS の実際の事例への介入を知れる機会は貴重ですし、グループディスカッションで様々な視点からの意見を知ることができて、大変参考になりました。