群馬大学 大学院理工学府 物質・生命理工学領域 博士課程２年

t242a006@gunma-u.ac.jp

主な研究テーマ

接着培養したヒト由来細胞の過冷却冷蔵保存法の開発

研究概要

近年、ヒト由来細胞は再生医療、創薬、疾患研究などさまざまな分野で活用されており、その応用範囲は急速に拡大している。特に、マイクロチップを用いて臓器の機能を模倣するOrgan-on-a-Chipや、三次元培養により高機能を維持するスフェロイド・オルガノイドなどの高度な細胞モデルは、次世代の研究インフラとして注目されている。

こうした細胞モデルの社会実装を進めるうえで重要となるのが、「培養容器内で接着した状態の細胞を、そのまま安全に保存・輸送する技術」である。従来の凍結保存法では、氷晶の形成による物理的障害や凍結保護剤の細胞毒性が問題となり、復温後に細胞の機能が大きく低下する。また、低体温保存では代謝ストレスにより長期保存が困難であり、数日以内に使用する必要がある。

本研究ではこれらの課題を解決するため、凍結を伴わずに細胞を0℃未満で保存する「過冷却冷蔵保存法」の開発を行っている。本手法では、氷結を回避しつつ細胞代謝を抑制できる温度域（－4 ℃）を利用し、接着状態のヒト細胞を最大14日間保存することに成功した。さらに、冷却速度と復温速度の最適化、保存液の選定を通じて、保存後の高い細胞生存率と形態の維持を実現した。

現在はこの技術を、マイクロ臓器モデルやさまざまな臓器由来細胞、三次元培養細胞にまで応用する研究を進めており、将来的には細胞ベースの医療・薬剤評価における物流・保管技術としての実用化を目指している。

学歴

2022年3月 群馬大学理工学部化学・生物化学科　卒業

2024年3月 群馬大学大学院理工学府物質・生命理工学教育プログラム　修士課程修了

2024年4月 群馬大学大学院理工学府物質・生命理工学領域　博士課程進学

2024年4月 JST-SPRING 次世代グンマ創発的博士人財インダクションプログラム（Next-GIP）採用

受賞歴

・優秀ポスター発表賞，「過冷却現象を利用した培養細胞の冷蔵保存法の検討」，第12回CSJ化学フェスタ2022, 2022年10月

・Analyst outstanding student award（最優秀発表賞），「三次元マイクロ肝臓モデルの過冷却条件下での長期保存を実現するハイドロゲル組成の検討」，化学とマイクロ・ナノシステム学会第48回研究会，2023年11月

・令和5年度群馬大学学業優秀者，2024年3月

発表論文等

・M. Hikichi, T. Shimizu, and K. Sato, “Development of supercooling preservation method of adherent cultured human cells”, J. Biochem., 174, 273-278, May 2023 

・引地真彩，角田勝，佐藤記一，「三次元マイクロ肝臓モデルの過冷却条件下での長期保存を実現するハイドロゲル組成の検討」，化学とマイクロ・ナノシステム，Vol. 23, No. 1，pp. 23-24，2024年3月

出願特許

・特開2025-20613, 「ヒトの培養細胞の冷蔵保存方法」佐藤記一，引地真彩，清水拓也

所属学会

・化学とマイクロ・ナノシステム学会、日本動物実験代替法学会

学会発表

国際学会

・Maaya Hikichi, Takuya Shimizu, Kiichi Sato, “Development of supercooling preservation method for cultured cells used in bioassays”, RSC-JAIMA Symposium on Analytical Chemistry 2022, OL-5, Online, December 5-6, 2022

・Maaya Hikichi, Masaru Tsunoda, Kiichi Sato, “Development of a supercooling preservation method for microliver models used in bioassays”, RSC-JAIMA Symposium on Analytical Chemistry 2024, 091, Chiba, September 5-6, 2024

・Maaya Hikichi, Masaru Tsunoda, Kiichi Sato, “Development of a supercooling preservation method for a three-dimensionally cultured microliver model”, MicroTAS 2024 International conference on miniaturized systems for chemistry and life sciences, T150.h, Montreal, October 13-17, 2024

国内学会

・引地真彩，清水拓也，佐藤記一，「過冷却現象を利用した培養細胞の冷蔵保存法の検討」，第12回CSJ化学フェスタ2022，P6-030，タワーホール船堀，2022年10月18-20日 

・引地真彩，清水拓也，佐藤記一，「マイクロ肝臓モデルの冷蔵保存法の検討」，化学とマイクロ・ナノシステム学会　第46回研究会,15P2-PC-15，アスティとくしま，2022年11月14-16日

・引地真彩，清水拓也，佐藤記一，「接着培養細胞の過冷却冷蔵保存法の開発」，日本動物実験代替法学会　第35回大会，P-55，静岡県立大学草薙キャンパス，2022年11月18-20日

・引地真彩，清水拓也，佐藤記一，「過冷却現象を利用したマイクロ肝臓モデルの長期冷蔵保存法の検討」，化学とマイクロ・ナノシステム学会　第47回研究会，2P15，東北大学川内キャンパス，2023年5月13-14日

・引地真彩，角田勝，佐藤記一，「三次元マイクロ肝臓モデルの過冷却条件下での長期保存を実現するハイドロゲル組成の検討」，化学とマイクロ・ナノシステム学会　第48回研究会，7P2-PC-11, 熊本城ホール，2023年11月6-9日

・引地真彩，角田勝，佐藤記一，「マイクロ肝臓モデルの過冷却冷蔵保存法の開発」，日本動物実験代替法学会　第36回大会，P-69, 千葉大学西千葉キャンパス，2023年11月27-29日

・引地真彩，角田勝，佐藤記一，「ヒト由来細胞を培養した状態のまま過冷却条件下で保存する方法の開発」，日本化学会関東支部群馬地区研究交流発表会，P006，群馬大学桐生キャンパス，2023年12月9日

・引地真彩，角田勝，佐藤記一，「接着培養した肝細胞株と肝類洞内皮細胞株の過冷却冷蔵保存法の開発」，第31回肝細胞研究会，P12, 東京大学弥生講堂，2024年7月26-27日

・引地真彩，下田勉，佐藤記一，「三次元的に培養した肝細胞株および類洞内皮細胞株の過冷却冷蔵保存法の開発」，化学とマイクロ・ナノシステム学会　第50回研究会，25P4-PC-41, 仙台国際センター，2024年11月25-28日

・引地真彩，角田勝，佐藤記一，「二次元および三次元培養した肝類洞内皮細胞株の過冷却冷蔵保存法の開発」，日本動物実験代替法学会　第37回大会，P-005, ライトキューブ宇都宮，2024年11月29日-12月1日

・引地真彩，下田勉，佐藤記一，「接着培養した血管内皮細胞の過冷却冷蔵保存法の開発」，日本化学会関東支部群馬地区研究交流発表会，P-51，量子科学技術研究開発機構　高崎量子技術基盤研究所，2024年12月4日

・引地真彩，下田勉，佐藤記一，「Development of a supercooling preservation method of cells 3D-cultured in a microphysiological system」，MPS実用化推進協議会　第2回学術シンポジウム，P-3，タワーホール船堀，2025年1月10日