【Interview Vol.1】

家族の笑顔を創りたい

〜岡山操山高校 藤原咲歩さん〜

「家族と雑談を楽しみたい」県立岡山操山高等学校2年の藤原咲歩さんは、その思いを原動力に、失語症の人のための雑談のきっかけをつくる雑談創造機器チットの開発に向け、日々、研究を続けています。

 藤原さんのお父さんには、失語症と体のまひがあります。


「当たり前だった家族での会話が当たり前ではなくなった。もう一度、家族との楽しい会話をしたい」


 そんな思いが、県立岡山操山中学校での、総合的な学習の時間「未来航路」の課題研究へとつながっていきます。


「初めは新型コロナウイルスについて調べていたけれど、もっと身近で、自分が心から取り組みたいと思えるテーマがいい、と考えたとき、父のことが浮かびました。家族と父の楽しい会話のきっかけを作ることで、家族の笑顔を見ることができ、それがさらに他の誰かの役に立つかもしれないと考えました」


 そこから、失語症のお父さんとの会話のきっかけをつくるためのツールの開発がスタートしました。まず、紙粘土でプロトタイプを開発していきました。半身に麻痺が残っているお父さんにとって使いやすいものにするため、人間工学の知識を応用し、手に馴染む形をデザインしていきました。

 初めに開発したのは、マウス型のツールで、ボタンを押すと画面にローマ字で「おはよう」「ありがとう」などの言葉が表示されるものでした。しかし、実際に試してみると、そのツールは藤原さんの思い描いたものとは違っていたそうです。


「これだと、家族は父の顔ではなく、画面の方を見て話をすることになってしまうし、決められたあいさつや言葉を表示させるだけだと、父と家族との間に新たな会話は生まれない。私が作りたかったのは、機械ありきのコミュニケーションではなくて、人と人とのコミュニケーションをサポートするものだったんです。そのときあらためて、私は家族と単にコミュニケーションが取りたいのではなく、雑談がしたいんだと気付いたんです」


(左)これまでに作成してきた「チット」について説明する藤原さん。試行錯誤しながら、改良を加えてきた。

 高校に進学してからも、試行錯誤は続きました。自分で論文を読んで調べるだけではなく、学校外の様々なイベントなどの機会にも積極的に参加し、専門家、岡山の企業の方などとの交流を通じて、ヒントを得ていきました。


「雑談が成立するためには何が必要なのか知るために、家族の会話のデータを分析して、5W1Hが家族相互の日常の会話につながっていることが分かったんです」


 この気付きをもとに、マウス型で、指先についた4つのボタンを押すと、「どうだった」「いつ」「どこで」といった音声が、内蔵のスピーカーから流れる機器を3Dプリンターを使って作成しました。


「疑問文を投げかけられたら、相手はそれに答えざるを得なくなる。相手がそれに返答している間に、失語症のある人は次の会話を考える時間が生まれ、会話がつながっていくきっかけになります」


 藤原さんはこの機器を、英語で雑談を意味する「チットチャット」から「雑談創造機器チット」と名付けました。

チットを使うことで、お父さんと家族との間の会話は活発になってきたそうですが、藤原さんは次のステップを見据えて、改良のための研究を重ねています。


     さらに、藤原さんは、お父さんのように失語症で悩みを抱えている人たちのコミュニケーションをサポートする機器の作成、提供を見据えています。


「失語症と一口に言っても様々な種類があるんです。父の場合はこのチットが雑談のきっかけづくりになったけれど、別のタイプの言語障がいには別のサポートの仕方があるはず。そういう解決策につながるものを提供して、誰かの笑顔をデザインしていきたいと思っています」


 藤原さんの「探究」はまだまだ続きます。

【取材日誌】

 自分がこれまで取り組んできたこと、どのように考え、どんな風に試行錯誤を重ねてきたのかということ、そして次に何を見据えて取り組んでいるのかということを、自分の言葉で、明確に、何よりも楽しそうに笑顔で話してくれた藤原さん。「咲歩」というお名前は、ご両親が「いろいろな場所に花を咲かせて歩いてほしい」という願いを込めて名付けられたとのこと。インタビューの中でも「笑顔を作っていきたい」という言葉が何度も出てきたのが印象的でした。引き続き、藤原さんの笑顔の「探究」に注目していきたいと思います。