(ふじの ひでのり)
皆さんは「事故」というとどのような事故を思い浮かべますか?自転車と自動車の衝突事故や歩行者と自転車の衝突事故といったものは皆さんも身近な事故として思い浮かべやすいと思います。あるいは、ニュースをよく見聞きしている人だと、医療事故や航空機事故、鉄道事故というものもイメージできるでしょう。場合によっては福島第一原発事故のような社会を揺るがす大事故を思い浮かべる人もいるかもしれません。
私は、そうした様々な事故の中で、特に組織がそれぞれの事業を営む中で発生してしまう事故を対象に「事故をどうすれば防げるのか」「事故が起きたときにどうすれば被害を抑えられるのか」ということ、すなわち安全管理の方法について研究しています。
安全管理の基本は、不幸にも発生してしまった事故や重大トラブル、あるいはヒヤリハットと呼ばれるような事故の一歩手前で踏みとどまった事例の情報を集め、その原因を分析し、組織の様々な個所に潜む事故の芽を見つけ出して摘み取っていく、あるいは取り除くのが難しい芽であるならば、その芽が事故にまで至らないように適切に管理をする、さらには事故に至った場合にできる限りその被害・損害を軽減できるような備えを打っておく、というものとなります。しかし、口で言うのは簡単ですが、これを実際に行うとなると決して簡単な話ではありません。
皆さんは事故はなぜ起こると思いますか?よそ見をしていたから?ぼうっとしていたから?居眠りしていたから?確かに、そういった個人の不注意や居眠りが事故の引き金を引くケースは多々あります。しかしながら、そういった個人の原因だけでなく、チームで仕事をしているときに「危ないなぁ」と感じながらも仲間に危険を知らせ損ねてしまい、仲間が不用意な行動をしてしまって事故に至ったケースや、組織からその場の危険性について知らされていないまま、善意の下で業務改善の一環としてより効率的な、しかし危険な手順を考案してしまい事故を発生させたケース、さらには、様々な自動システムに囲まれている中で、人が予期していなかった動作を自動システムが始めてしまい(決して故障ではない)、人にはシステムがなぜそういう動作をしているのかを理解できず、適切に対応できないまま事故に至ったケースなど、様々な原因で事故は起こります。
さらには、そういった直接的な原因の背後には、そのような原因がその場で生じた「原因の原因」(背後要因)が存在します。居眠りであれば、なぜその時そのタイミングで居眠りをしてしまったのか(例えば、組織としての労務管理は適切だったのか)、チームでの情報伝達の失敗であれば、なぜその時に仲間に危険を伝え損ねてしまったのか(例えば、普段の人間関係は良好だったのか)といったことが背後要因になります。事故の芽を摘み取っていくためには、事故の直接的な原因だけでなく、その背後要因にまで踏み込んで分析を進めていく必要があります。
そうした事故分析をおこない、効果的な対策を創造・実践していくためには、「そもそも人はどのようなときにどのような心理状態になり、どのような行動をしがちなのか」「どのようなモノのデザインが人にどのような行動や心理状態を促すのか」さらには「組織の中で人はどのようにふるまうのか」や「人は他の人とのどのような関係性のなかでどのようにふるまうのか」といったことを理解しておく必要があります。これらは心理学や人間工学、経営学、社会学にまたがった学際領域であり、こうした領域をヒューマンファクターズと呼びます。安全管理を高度化していくためにはヒューマンファクターズを十分に理解している必要があります。
特に工学にも関わる点から経営学科を志望される皆さんには「難しそう」と思われるかもしれません。もちろん工学に明るければ明るいほど良いですが、がっつり工学的なスキルを身に着ける必要はなくて、技術者たちと会話ができる程度のリテラシーを身に着けておけば大丈夫です。その程度であれば「文系」の学生でも十分習得することができます。人々が安全で安心できる社会の実現に向けて、ぜひ一緒に学んでいきましょう!!