(わたなべ としお)
ドラマや映画にはたくさんの役者さんが登場します。役者さん1人1人の行動が相手に影響を与えてドラマ全体のストーリーができあがります。演技のうまい役者さんがいるとドラマ全体が面白くなります。さて、ドラマや映画を見るとき、ある人は、1人の役者さんが気になって、その役者さんの行動や発言に注目して見るかもしれません。別の人は、役者さん同士のつながりや掛け合いに注目して、ドラマ全体のストーリー性に目を向けるかもしれません。ミクロ経済学の考え方は、前者のように個人の行動に注目して経済の動きを分析するのが特徴です。
例えば、太郎君がバーベキューをするために、3000円をもって「牛肉」と「野菜の盛り合わせ」をスーパーに買いに行ったとしましょう。このとき、景気がよいとか悪いとかいう話はひとまず無視して、太郎君の行動だけを考えます。太郎君が売り場に行ったところ、牛肉が1パック1000円、野菜の盛り合わせが1パック500円で売られていたとします。このとき、太郎君は「牛肉と野菜の盛り合わせをそれぞれ何パック購入するのが自分にとってベストだろうか」と考えます。太郎君がこの決定をするには、自分の牛肉と野菜の好き嫌いを考える必要があります。このように、モノに対する個人の好みと価格を考えながら、個人の行動を根掘り葉掘り考えていくのがミクロ経済学です。そして、社会を構成するのは個人なのだから、1人ひとりの利害に即して、ものの良し悪しを判断しようとミクロ経済学は考えます。
ミクロ経済学と関連する分野に、最近、行動経済学という分野が発展しています。これまで経済学は「人は合理的な行動をする」という前提で研究が進められてきました。しかし、私たちは必ずしも合理的な判断をするとは限りません。「同じ機能のスマホだけど、何となく高い方を買っちゃった」とか、「将来のために、今、お金を貯めた方がいいんだけど、使っちゃった」など不合理と思える行動を取ってしまいます。行動経済学では「個人は、直感や感情によって合理的ではない判断をする」ことを前提に、これまでとは異なった考え方で個人の行動を考えていきます。
すべての人間の行動を的確に捉えるには、限界があります。経済学で想定されている個人の行動と自分自身の行動の違いを考えてみるのも、経済学を学ぶときの面白いアプローチです。ミクロ経済学を通して自分の行動を考えてみませんか。
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