(きの りゅうたろう)
「生産管理論」という言葉の響きから、理系分野の科目のような感があるかと思いますが、経営学の分野における「生産管理論」とは、企業の経営活動のひとつである「モノづくり」を、経営学的な視点から考えてみる、という社会科学の一分野になります。
「モノづくり」とは、投入された「原材料」が製造工程のなかで「加工」され、「製品」として算出されるとうい一連の流れを指します。この流れのなかで、「製品」に「付加価値」が与えられ、それが企業の利益に結びついていくことで、次の経営活動の原資となり、そこで働く人達の生活を支えることにもなるわけです。
ご存じの通り、日本は「原材料」となる石油などの天然資源の算出が非常に少なく、いわば大きなハンディキャップを背負った国といえるかも知れません。天然資源の多くを輸入に依存している日本としては、いかにして「原材料」に「付加価値」を与えることで、「競争力」を高めていくかが重要になってくるわけです。
「競争力」には、大きく3つの要素があります。最初に「品質(Quality)」です。この「品質」は非常に多義的な概念なのですが、概ね「顧客満足の度合い」ということが出来ます。顧客が求める製品を開発し、価格に見合った価値を感じてもらうようにすることで、企業がその対価として投下した資金以上の利益を得ることが出来れば、それが「付加価値」につながります。また、製造工程における不良率を下げる取り組みを行うことで、不良品の発生によるムダを無くして製造原価を低減させるとともに、顧客に対して不良品が流出するリスクの低減につながることから、利益の拡大と顧客満足度向上の両立が可能になります。
次に「コスト(Cost)」です。この「コスト」を削減することは、決して「安物」を造ることではあってはいけません。というのも「安物」によって顧客満足度が低下すれば、結果として「付加価値」を下げることにつながりかねないからです。前述した製造工程における不良品の発生を防ぐ活動や、必要なモノを、必要な時に、必要なだけ造る/運ぶという、「ジャスト・イン・タイム生産」の考え方を実践することにより、顧客の欲しい時に、欲しいモノを、ムダなく提供出来るようになり、顧客満足度を高めながらコストを下げることが出来るわけです。
最後に「納期(Delivery)」です。顧客の要望に対して素早く対応して製品を供給する「短納期」を目指すことにより、顧客満足度を高めて付加価値を得ることにつなげていきます。この「短納期」を追求するためには、顧客への売れ行き(需要)を予想して製品を製造し、在庫を抱えて対応していくことが必要になります。しかし、需要予測はむしろ外れることのほうが多く、売れない製品が余って不良在庫となる一方で、売れるはずの製品が欠品してしまうと顧客満足度を下げることになりかねません。こうしたことを防ぐためにも、前述の「ジャスト・イン・タイム生産」の仕組みを徹底し、需要の変動に対して柔軟に変更出来る仕組みの構築が重要になってくるわけです。そのためには、自社内での緻密な部門間連携に留まらず、サプライヤー(部品・材料供給企業)や物流業者といった外部企業との協力関係により、部品・材料の調達から製造、物流が一体となったサプライチェーンの構築が必要になります。
この「品質(Quality)」、「コスト(Cost)」、「納期(Delivery)」の3つの要素をまとめが「Q・C・D」が、「モノづくり」という活動における重要な競争力の要素といわれています。
日本は天然資源が乏しいというハンディキャップを抱えながら、厳しいグローバル競争の状況において、現在でも「モノづくり」の分野で一定の競争力を持っています。それには、日本の製造企業では「Q・C・D」を高める取り組みが、チームワークを活かして全社的に実践されていることが、要因のひとつとして挙げられます。営業・製造・調達・開発・物流といったそれぞれの部門が、実際に自分の目で見て確認する「三現主義(現場・現物・現実)」によって、お互いに情報を共有しながら同じ目標を持つ「ワン・チーム」として、常に「Q・C・D」のレベルアップを目指して、日々努力が続けられているわけです。
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