(やまざき あつし)
企業の大きさ、その違いや特徴について考えてみたことはありますか?
日本の企業を大きさで(一例ですが)分類すると、大企業(従業員2000人超)1300社、中堅企業(従業員2000人以下、中小企業者を除く)9000社、中小企業(中小企業基本法による:製造業では資本金3億円以下または300人以下)336万社となります(「令和3年経済センサス」)。
中小企業論は、この企業数で99%を超える中小企業の問題性と発展の可能性の両面の理解を基本としています。そして中小企業論Ⅰ(前期)、中小企業論Ⅱ(後期)では、中小企業をさまざまな角度から分析し理解を深めていきますが、中小企業に興味を持ち学んでみると中小企業の理解には大企業、中堅企業の理解も欠かせないことに気づくと思います。
大企業の理解が求められる理由は、多くの中小企業は大企業との関係の中で仕事を行っていることにあります。
例えば、日本最大手のトヨタ自動車のモノづくりには多くの中小企業が部品、加工で重要な役割を担っています。そのためトヨタ自動車と取引する中小企業はトヨタ自動車の現状と課題の理解が欠かせません。
また、中小企業は中小企業の規模を超えて中堅企業、大企業へ成長する可能性を持つ存在でもあります。そのため中小企業の卒業生である中堅企業も学習の対象となります。
「なぜ中小企業から中堅企業へ成長できたのか?」
この問いかけは、地域に根差した中堅企業の存在が地域活性化に大きな役割を果たしていることから関心が高まっています。最近では国も中小企業から中堅企業への成長を後押しするなどの動きがみられます。
一方で、中小規模の優れた面、大企業経営の難しさに気づかされることもあります。
中小企業から日本を代表する大企業に成長を遂げたソニーの「設立趣意書」(1946年)が参考になります。その中の「経営方針」に「不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実・実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず」、「経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがために進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する」と書かれています。そして創業者の井深大は1960年1月の社内報で「私は何千人、何万人もの大きな会社を、一つもうらやましいとは思わない。ただソニー全員の、2400人の人たちが、この会社の始まった時の、7人の人達が持っていたような気持ちを、持つとしたら、どんなに素晴らしいソニーが出来上がるだろうと、いつも考える。」(1960年1月社内報、年頭所感)
ここで強調されている大企業よりも小を望み、単なる規模拡大を目指さないというメッセージは、現代の経営にも参考になると思います。それは何かについて一緒に考えてみましょう。
このように中小企業を起点に企業、企業経営、さらに日本経済について理解と知識を高めていくことで視野を広げましょう。
(出所)
・井深大「井深大 自由闊達にして愉快なる 私の履歴書」(日本経済新聞出版社、日経ビジネス人文庫2012年)
・経済産業省、総務省「令和3年経済センサス-活動調査」
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