(きたの こう)
経営組織論の授業では、「組織」について勉強します。組織という言葉は日常の中に溢れています。例えば、国民的アニメの名探偵コナンには「黒の組織」という悪の組織が登場しますし、サッカーの試合を見ていると、「今日の日本は組織的な攻撃が出来ているor出来ていない」といった言葉を耳にします。誰もが一度は耳にしたことがある組織という言葉。しかし、組織って何?と聞かれて皆さんは答えることができるでしょうか?
組織が何であるかを知るためには、「集団」と「組織」の違いを理解することが必要になります。例えば、友達同士の仲良しグループは集団と呼ばれ、企業や政府、地方自治体、学校、スポーツチームなどは組織と呼ばれています。では、集団と組織の違いはどこにあるのでしょうか?集団と組織で共通していることは、それが複数の人々の集まりということです。一方で、異なるのは、組織は単に複数の人々が集まっているだけでなく、そこに「共通の目的」「協働意欲」「コミュニケーション」といった3つの要素が存在しているということです。共通の目的は組織メンバー全員に共有された目指すべき目的、協働意欲は共通の目的を達成するためにメンバーが積極的に行動しようという意欲(モチベーション)、コミュニケーションは共通の目的を達成するために必要なメンバー間での意見調整になります。
組織はこの3つの要素を満たすものであり、この3つの要素があるかないかで集団と組織は区別することができます。また、皆さんは、日常の中でも集団と組織の違いを経験しています。例えば、中学や高校までにあったクラスは「授業やHRを行うために集められた集団」になります。しかし、クラスで文化祭の準備を行う際には「クラスのメンバーが文化祭を成功させるという共通の目的と協働意欲を持ち、メンバー間で役割分担し、コミュニケーションを取る」といったように集団から組織へと変化します。
経営組織論では、こうした組織を構成する要素が何であるのかを説明し、より良い組織になるために必要なことを勉強します。
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会社は何を目的に活動しているのでしょうか?漠然とした質問ではありますが、皆さんがイメージするのは「利益を追求することを目的に活動している」ということではないでしょうか?はたして、この考え方は正しいのでしょうか?世の中の会社が利益を追求することを目的にしたとして皆が幸せになるのでしょうか?ここでは、皆が幸せになる会社の目的とは何かについて損益計算書を使って考えてみたいと思います。どのような会社にも損益計算書と呼ばれるものがあります。損益計算書は会社のある一定期間における収益と費用の状態を示したもので、図1のようになります。
図1 損益計算書
損益計算書は、その会社がいくら利益を出したのかを示したものであると考えられていますが、より本質的には会社の活動に関わった人達への分配を示したものと言えます。例えば、ある会社が何か商品を作りたければ原材料を仕入れなければなりません。こうした仕入先の取り分を示したものが売上原価、商品を作るために働いてくれた従業員に払うのが人件費(販売費および一般管理費)、会社が活動するために必要なインフラを整備してくれた政府に払うのが法人税、そして、資本を提供してくれた株主の取り分が純利益になります。つまり、冒頭で述べた会社の利益を追求するという目的は、株主の取り分を増やすことを目的にしていると言い換えることができます。
しかし、ここで重要なことは「誰かの取り分は他の誰かから見ればコスト」だということです。例えば、従業員の取り分である人件費が増えれば、その分、株主の取り分である純利益は減ることになります。反対に、株主が自らの取り分を声高に主張した場合、人件費が削減され従業員の取り分が減ることも考えられます(図2)。むろん、こうした分配のあり方は、会社それぞれの個性とも言えます。人材に価値を置くのであれば、人件費関連が高い会社になると思いますし、技術の詰まった高付加価値の部品や良質な原材料に価値を置く企業もあるかと思います
図2 売上の分配
では、分配のあり方について、誰もが納得するためには、どうしたら良いのでしょうか?一つの考え方は、売上高(≒付加価値額)を増やすということです。つまり、パイの奪い合いではなく、パイそのものを大きくするという考え方です。売上とは消費者の需要に他なりません。会社の目的を利益の追求と捉えるのではなく、売上を増やすこと=消費者の需要に応えることと捉えれば、消費者を含む会社の活動に関わる全ての人達が幸せになるのではないでしょうか?重要なことは「誰かの取り分は他の誰かから見たらコスト」になる可能性があるということです。こうした視点に立って、皆さんも日々の活動を振り返ってみてください。何か新しい発見があるかもしれません。
参考文献 北野一『デフレの真犯人』講談社、2012年。
皆さんは、不正という言葉を聞いて何を思うでしょうか?多くの人は(ほぼ全員)やってはいけない悪いことだと思うことでしょう。不正は悪いことだと分かっていても、時として人は不正に手を染めてしまいます。なぜ、そのようなことが起こるのでしょうか?ここでは、経営組織論の視点から人が不正に手を染める理由を考えてみたいと思います。
まず、組織とは何かについて説明します。組織は「共通の目的」「協働意欲(モチベーション)」「コミュニケーション」が存在する複数の人々の集まりになります。共通の目的はメンバー全員に共有された目指すべき目的、協働意欲は共通の目的を達成するためにメンバーが積極的に行動しようという意欲(モチベーション)、コミュニケーションは共通の目的を達成するために必要なメンバー間での意見調整になります。これら3つの要素の中で特に重要なのは「共通の目的」であり、企業などの組織で働く場合、その組織に所属する人は組織の掲げる目的を達成するために働くことになります。
では、組織のメンバーは、本当に全員が組織の目的を達成するために働いているのでしょうか?例えば、生きていく上で必要な収入を得るために働いているといった場合、それは、個人の目的を達成するために働いているということになります。それだけではありません。○○をしないと上司の△△さんに怒られるから○○をしているといったことも考えられます。この場合、上司との人間関係に基づいて働いているということになります。
今回のテーマである「人はなぜ悪いと分かっている不正に手を染めてしまうのか」は、この人間関係に基づく行動論理が大きく関係しています。皆さんが就職して企業で働く場合、どこかの部署に配属され、配属された先のリーダー(上司)の下で働くことになります。本来であれば部署のリーダーである上司は、企業が掲げる目的を部下に浸透させ、皆が一丸となって目的を達成しようというモチベーションを高めなければなりません。しかし、上司が本来の役割を忘れ、部下に高圧的(パワハラ、モラハラなど)に接すれば、部下は委縮してしまい、企業の掲げる目的を達成するよりも上司に怒られないことを目的として働くようになり、上司との人間関係がその人にとっての組織の全てになってしまいます。こうした状態に陥ると、人は上司に怒られないことが全ての行動の判断基準となり、悪いと分かっていても不正に手を染めてしまいます。
2023年にビッグモーターの不正問題がニュースで取り上げられ、大きな社会問題となりました。ビッグモーターの社員が不正に手を染めた理由には、様々な要因があると思いますが、上司との人間関係に基づいて行動したことも不正に手を染めた一因として考えられます。これを読んでいる皆さんも部活やクラブ、あるいはバイトなど、何らかの組織に所属していると思います。皆さんは何に基づいて行動しているでしょうか?不正が行われないためには何が必要でしょうか?こうした問題について、是非考えてみてください。
(2024年6月17日更新)