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オリンピック開催期間中の都心の大きな乗換駅構内滞留者数の試算

2018年6月20日 中央大学 田口 東

2020東京オリンピック開催期間中,首都圏電車ネットワークを利用するオリンピック観戦客による電車混雑とその対応策を,数理モデルを使って考察してきた.[1]と[2](朝日新聞5月1日朝刊5月26日の朝日新聞土曜別刷りbe)に都心の大きな乗換駅を対象として,オリンピック観戦客の影響による乗降客の駅構内滞留量を試算した結果が掲載された.計算は朝ラッシュ時間帯を対象としている.この計算の基本となっているのは

・首都圏電車ネットワークの通常客の移動データ

・オリンピック観戦客の移動データ

・電車時刻表に基づく乗客の移動ネットワークと計算モデル

に基づき,個々の電車利用者の移動経路を電車一本一本の分解能で表現した乗客の流れである.この部分の詳細は[3]を参照して欲しい.[3]では,電車混雑の問題点を大きく次の二つに分けて論じた.

□競技場最寄り駅において,競技の開始時刻,終了時刻に同期して起こる激しい混雑の予測.競技場到着時刻の平準化ならびに最寄り下車駅の分散による対策の効果

□都心の大きな乗換駅において,通勤.通学ラッシュと同様の理由で起こる混雑.こちらは通常客を減らすのがもっとも効果的な方策である.

以下では,後者に焦点を当て,[1][2]の紙面では記述できなかった,駅構内の滞留者数の計算モデルについて述べる.すなわち,[3]で計算した電車ネットワーク上の乗客移動について,通常客だけの場合と,オリンピック観戦客が加わった場合の双方に対して

・駅構内への流入客数の累積曲線と構内からの流出客数の累積曲線

を導き,

・路線ホーム間距離を使って算出した構内移動時間

と合わせて構内滞留人数を推定する.その際に,

・通路の歩行者密度が高くなると歩行速度が低下するという関係(歩行者渋滞モデル)

を応用して,乗降客の駅構内滞留量の急激な増加(渋滞現象)が発生するかどうかに注目する.


計算結果をみる上で,次のことに注意して欲しい.

(1) まず,電車利用客に対して,通常客・オリンピック観戦客ともに,移動の出発場所,到着場所,移動時刻を,公開データをもとにして作成している.

(2) 通常客の電車利用に対して,利用時刻の積極的な平準化ならびに総量抑制は考えていない.

(3) オリンピック観戦客の電車利用に対して,平準化をねらった経路選択の誘導,競技場到着時刻・出発時刻の平準化は考えていない.

(4) もし滞留が生じたときに行われる入場規制などの措置は考えていない.

日常的に見られる都心の大規模乗換駅における混雑を前提とすると,オリンピック観戦客の増加に何も対策がとられない場合には,試算したような滞留が複数の駅で生ずる可能性がある.そして,オリンピック開催の意義を考えると,滞留が起きたときの対策を考えることにはあまり意味がなく,万が一にもそのような事態が生じないように十分な対策を講じておくことが肝要であると考えている.したがって,個々にどの駅で混雑するか,数値はいくつであるかに注目するのではなく,混乱が起きないように,オリンピック期間中の日常生活で,通常客が譲り合うような対策を円滑に進める理由付けになることを期待している.また,計算では朝ラッシュ時を対象としているが,路線によっては夕方から夜の混雑も激しいところがある.この時間帯にはオリンピック観戦客は朝よりも多く現れると考えられるので,帰宅ラッシュ時の対策も十分に考えておく必要がある.

この原稿を準備中に,オリンピック開催期間中に,3連休と4連休を設ける方策が決定された.これは,都心大規模乗換駅の混雑回避には非常に有効な方策である.残る平日への対策と,競技場最寄り駅の混雑への対策が期待される.

大規模な都心乗換駅の朝ラッシュ混雑時にオリンピック客の影響で「電車が止まる」くらい混雑するか?

朝ラッシュ時の利用客のピークを通常客とオリンピック客について比較すると,いくつかの都心乗換駅で,後者が前者の15%程度を超えており,現状の駅混雑と時折発生するトラブル時の混乱を考えると安心はできない,一方,通常客とオリンピック客は全体で800万人対65万人なので杞憂に過ぎない,ともいえる.[3]で計算した結果をもとにオリンピック観戦客の影響を推測する.東京メトロ永田町駅を例にとって話を進める.

東京メトロ永田町駅の朝5時30分から10時の駅構内流入・流出・滞留客数

図1のグラフは,改札口通過および電車の乗降によって,駅構内に入ってくる各1分間の乗客数を表している.青が通常客,赤がオリンピック客である.

・乗換のため降車した人(他社線への乗換含む)

・乗換のため乗車する人(他社線からの乗換含む)

・最終目的駅であり,下車して外に出る人

・最初の乗車駅であり,構内に入ってきた人

これらの移動には,利用する電車の時刻表をキーにして移動時刻を与えることができる.

図1の通常客を時間に関して積分した累積流入客数を図2の青い曲線として示す.流入客は所期の目的に応じて構内を移動して退場する.構内に入ってから,退去するまでの通行時間が分かれば,時々刻々の構内滞留客数を計算することができる.しかし,通行時間を得るのは相当に難しい.ここでは次のような仮定をおいて,値を推計する.

混雑を考えない計算に対して,

(1) ホームの座標が分かっている場合にはホーム間の直線距離を分速60mで進み3分を加える,

(2) 他の移動は一律4分(通常客)とする,

(3) それに,乗りたい電車の待ち時間が加わる.

各利用者にこのルールを使い,図2の青い曲線を時間軸右方向にシフトすると,赤の累積流出曲線を得る.二つの曲線の縦軸(人数)方向の差が,構内滞留人数を表している.


オリンピック観戦客の影響を表現する

混雑が激しくなると(歩行者密度が高くなると),歩行速度が落ちる(通過時間が長くなる)という関係を使って,オリンピック客の影響をみる.密度と歩行速度の関係は,さまざまな実験式が提案されている.

図3左の直線は歩行者密度に対して線形に速度が低下という実験式の関係[4]を表している.

輸送量=密度×速度

なので,右のグラフのように,輸送量が最大になる状態があり,密度がそれを超えると渋滞現象が生ずる.

駅の問題に適用するには,歩行者数に対応する通路面積が必要である.それに代わるものとして駅の容量P_0を考え,図4に示すように駅滞留者数PがP_0を超えると,線形に速度が低下すると仮定する.通常客の累積流入客数・累積流入客数から得られる滞留者数に対して,P_0を十分に大きくとると通行時間は定数のままであり,図2のグラフがそのまま得られる.

P_0を小さく設定して同じ計算を行うと,滞留者が多い時刻から速度が低下しはじめる.P_0をさらに小さくしていくと,滞留者数が急激に増える渋滞が発生するケースが現れる.現在の駅の状況が渋滞が起きる直前であると仮定して,渋滞が起こる直前の値P_0を駅容量として採用する.

次に,通常客にオリンピック客を加えて,構内移動にかかる時間を,図4の歩行者数と歩行速度の関係および駅容量P_0を使って計算する.滞留者数と歩行速度が整合するまで繰り返し計算を行い,累積流入曲線・累積流出曲線を描いて滞留者数を得る.永田町駅では,通常客のピークとオリンピック客のピークが重なっていて,しかも,後者のピークがかなり高いので,オリンピック客が流入し始めてから,渋滞が発生して流出が滞り滞留者数が増えるという結果(図5)を得る.

都心の大きな乗換駅に対する計算

朝ラッシュ時に通常客の流入者数が多い方から50駅,オリンピック客の流入者数の多い方から50駅選び,競技場最寄り駅で混むことが自明な駅と,オリンピック客が少ない駅を除く.これらの駅に対して,通常客だけの最大滞留者数とオリンピック客を加えた場合の最大滞留者数の比を描いたのが図6である.ここでいう駅は,運行会社に関わらず同じ名前の駅の集合体である.

通常客流入数のピークに対して,オリンピック客流入数のピークが15%程度を越えていて,二つのピークが重なっていると,大きな滞留が起きやすい.上述の計算では,電車は止めないので,オリンピック客がいなくなれば渋滞は解消される.しかし,複数の駅でオリンピック客がトリガーになって,通常の滞留者数をはるかに超える利用客が滞留する可能性があることが分かる.

図6オリンピック観戦客の影響による構内滞留者数の増加(都心の主要な乗換駅)

朝ラッシュ時の通常客による構内滞留者数の最大値を緑の8角形の面積で表す.赤の8角形がオリンピック客が加わった場合の構内滞留者数を表している.これは通常客の8角形の後ろに置いてあるので,オリンピック客の影響で大きな滞留が発生してときに現れる.表示時刻は滞留が多く発生している 8時55分とした.

線分は走行中の電車に対応していて,色が乗車率を表している.ひし形は競技場に対応している.観戦客が集まるにつれて赤い色に変化する.


アニメーション「オリンピック開催期間中の都心の大きな乗換駅構内滞留者数の試算」

※ 都心の主要な乗換駅において、オリンピック観戦客の影響による構内滞留者数の増加を表したアニメーション 。図6の元動画

・線分は走行中の電車に対応していて、色が乗車率を表している。

・朝ラッシュ時の通常客による構内滞留者数の最大値を緑の8角形の面積で表す。

・赤の8角形がオリンピック客が加わった場合の構内滞留者数を表している。

・ひし形は競技場に対応している。観戦客が集まるにつれて赤い色に変化する。