アーキビストを目指す方へ

本ページには、アーキビストを目指している方に向けた説明を掲載しています。アーキビストの概要や専門を活かした進路、本学で実施している「アーキビスト養成プログラム」についてご紹介しています。また、実際にアーキビストとして活躍している修了生の声お届けしています。大学院の入学試験や科目について不明な点がありましたら、お早めに大学院事務室までお問い合わせください。

|アーキビストとは

アーキビスト(Archivist)は、文書館などで働く記録管理の専門職です。

前近代の古文書(こもんじょ)から現代のデジタルデータまで、今日に伝わってきた記録は、将来へ継承すべき重要な情報資源だと認識され、保存されてきました。このようなアーカイブズ(Archives)を、適切に管理して市民の共有資源とするための制度は18世紀末にヨーロッパで誕生します。日本ではこれより大きく遅れて、2011年に公文書等の管理に関する法律が施行されました。専門職の資格制度・養成課程の検討もようやく本格的に動き始めたところです。

記録の保存・活用に対する社会的関心も高まっています。過疎化が進行している地域では、民家や役場に伝来した記録から地域のアイデンティティを再構築し、地域社会の持続につなげようとする試みがみられます。企業では、企業の歴史を裏付ける記録が、経営のための貴重な財産として認知されるようになってきました。

過去に作成された記録ばかりではなく、現在生まれている記録にも注目が集まっています。政治・行政のずさんな記録管理が報道で取り上げられることが多くなり、公文書の適正な保存・管理を求める声が大きくなっています。相次いで発生している大規模自然災害やコロナ禍にかかわる記録保存にも関心が向けられています。

こうした記録をめぐるさまざまな課題に、専門職として取り組んでいるのがアーキビストです。アーキビストには、文書館における専門的な業務で中心的な役割を果たすことはもちろん、行政組織や企業、研究機関などで幅広く活躍することも期待されています。

江戸時代の村で作成された古文書 

戦後に役場で作成された公文書 

多様な専門性が活かせる専門職

一人ひとりのアーキビストがもつ専門性は実に多様です。

古文書の内容を理解するためには歴史学の知見が必須です。文書館と隣接する施設である図書館や博物館との連携においては、博物館学や図書館情報学の見識が必要となります。データの整理や利活用の場面では、情報技術に精通した研究者が欠かせません。日々蓄積される記録に対する認識を深め、アーカイブズを現在・未来に活かすためには、社会学の助けが必要です。公文書管理をめぐる制度について検討する場合には、行政法・行政学の専門家が存在感を発揮します。保存環境を整えるためには、保存科学のプロフェッショナルもなくてはならない存在です。

このように、アーキビストは多数の分野と深い関係を持つ職業なので、アーキビストを支えるアーカイブズ学は複数の学問領域と交わって成立しています。そのため、アーキビストには、アーカイブズ学の理念・理論を学ぶだけではなく、各自がよって立つ領域で専門的な能力を鍛えることが求められます。言い換えれば、アーキビストは各分野で培った研究成果・能力を活かすことができる専門職なのです。

アーキビスト養成プログラムについて

アーキビスト養成プログラムは、中央大学大学院に設置されている各研究科・各専攻で学んだ専門性を活かすことができるアーキビストの養成を目的に設置しており、自己の研究活動に依拠しながら活躍する専門職を育てることを目指します

本プログラムを修了すると、独立行政法人国立公文書館による認証アーキビストに認定されるために必要な(イ)知識・技能等(高等教育機関の科目履修又は研修修了)、(ロ)調査研究能力(修士課程修了レベル)、(ハ)実務経験(アーカイブズに係る実務経験原則3年以上)の3要件のうち、(イ)知識・技能等を満たすことができます。

|履修資格

中央大学大学院の博士前期課程に在籍する大学院生であればだれでも履修できます。
所属する研究科・専攻は問いません。

|修了要件

必修科目(10単位)と選択必修科目(4単位)を取得することが修了の要件になります。

<必修科目(10単位)>    
 インターンシップ(アーキビスト実務研修)(2単位)*1
 アーカイブズ法制論(2単位)
 地域アーカイブズ論(2単位)
 図書館情報学特講A(2単位)
 図書館情報学特講B(2単位)

<選択必修科目(4単位)*2>
 アーカイブズ学研究A(2単位)
 アーカイブズ学研究B(2単位)
 記録管理学特講A(2単位)
 記録管理学特講B(2単位)

*1 夏季休暇中に10日間、八王子市公文書管理課へインターンシップに行き実務経験を積みます。
 〉2022年度に実施したインターンシップの様子はこちら
*2 選択必修科目は「アーカイブズ学研究」「記録管理学特講」いずれかのA・Bを両方履修して4単位分取得することが必要になります。

|修了者へのオープンバッジ発行

本プログラム修了者には中央大学大学院文学研究科より知識・スキル・経験のデジタル証明であるオープンバッジを交付します。本プログラム修了者は大学院修了後もデジタルウォレット内のオープンバッジによって学修成果を提示することができます。
(参考)中央大学オープンバッジ

アーキビストに関する資格等

|国立公文書館認証アーキビスト

独立行政法人国立公文書館による認証アーキビスト制度が、2020年度よりスタートしました。認証アーキビストになるためには、①知識・技能等(高等教育機関の科目履修又は研修修了)、②調査研究能力(修士課程修了レベル)、③実務経験(アーカイブズに係る実務経験原則3年以上)の3要件を満たすことが求められます。このうち、本プログラム修了者は、①を満たすとともに、②で求められる能力を養うことができます。

参考:国立公文書館ホームページ

|日本アーカイブズ学会登録アーキビスト

2012年度から始まったアーカイブズ学の専門学会である日本アーカイブズ学会による制度です。①修士または博士の学位を取得していること、②アーカイブズに関する専門的業務の経験を2年以上有すること、③アーカイブズ学に関する論文(1万字以上)を1本以上有すること、④アーカイブズ・カレッジ長期コース等を修了していることが要件とされます。このうち、本プログラム修了者は、①・④を満たすとともに、③に定められた論文執筆のための基礎的な能力を養うことができます。

参考:日本アーカイブズ学会ホームページ

 ※この他にもアーキビストに関連する資格等(日本デジタル・アーキビスト資格認定機構によるデジタル・アーキビスト資格等)があります。 

アーキビストとして活躍する先輩からのメッセージ

大学院時代の研究分野を活かしてアーキビストとして活躍している方をご紹介しています。

|平尾 直樹さん(寒川町寒川文書館)
 文学研究科 博士前期課程 2008年度修了、文学研究科 博士後期課程 2012年度単位取得退学 

●アーキビストとしての業務
私が勤務する寒川文書館は、寒川町が設置した公文書館法に基づく公文書館です。2006年に開館し、今年で開館15年を迎えました。同館職員として私は、町に関する記録資料(公文書、地域資料、行政刊行物など)の収集・保存・整理・公開する業務や、収集した記録資料を利用者に活用してもらうための普及事業(古文書講座・企画展の実施など)を担当しています。規模の小さい自治体が運営する公文書館ですので、一人の職員が担当する業務は多岐にわたります。担当業務の何れもが、町の記録を管理し、その記録を後世に伝えるという使命をおびたものです。それ故に大きな責任をともないますが、その分はやり甲斐を感じています。

●大学院での学びと現在の業務
私は、学士入試で中央大学の文学部に入学しました。その理由は歴史学を学び、資料保存機関に勤めたいという思いからでした。しかし卒業論文執筆時に、歴史学をより専門的に学びたいという気持ちが芽生え、大学院に進学しました。大学院では、幕末維新期の地域史(修士論文のタイトル「幕末期江川代官領と「兵卒」」)を研究しました。なお大学院の単位として認定されていた国文学研究資料館主催のアーカイブズカレッジを受講し、ここで本格的にアーカイブ学に接しました。また、大学および大学院で身につけた、資料の読解力や、資料整理の手法は、地域資料の整理や普及事業の企画・実施には欠かすことができないものとなっています。

大学院生活は将来の不安なども抱えながらのものでしたが、同じ志をもつ先輩や同期、後輩にも恵まれ、私のなかではとても有意義なものであったと思います

 ●受験生へのメッセージ
アーキビストの世間での認知度は、残念ながら低いと言わざるをえません。しかし、2020年度より国立公文書館による認証アーキビストという公的な資格制度がスタート、またアーキビストを養成するコースを設置する大学・大学院も増加しています。このように近年アーキビストをめぐる環境は著しく変化しています。アーカイブズが社会には必要な組織・機能であると信じて私は日々の業務を遂行しています。皆さんもぜひアーキビストの世界に足を踏み入れてみませんか。

【経歴】
寒川文書館主任主事、中央大学政策文化研究所客員研究員、法政大学大原社会問題研究所嘱託研究員。
2005年3月明治学院大学法学部法律学科卒業、2006年3月中央大学文学部史学科卒業、2009年3月同大学大学院文学研究科博士前期課程修了、2013年3月同研究科博士後期課程単位取得退学。千葉県文書館嘱託職員、神奈川県立公文書館非常勤職員、法政大学大原社会問題研究所環境アーカイブズリサーチアシスタントを経て、現職。

|柏原 洋太さん(千葉県文書館)
 文学研究科 博士前期課程 2010年度修了、文学研究科 博士後期課程 2018年度単位取得満期退学 

●アーキビストの仕事
私は、千葉県文書館で専門職として働いています。多くの自治体アーカイブ(文書館)には、親組織が作成・収受した公文書のうち、歴史的に重要だと判断されたものを移管し保存・公開する機能と、所管内に残る歴史的な文書(いわゆる古文書)を収集して保存・公開する機能があります。私は、歴史公文書を担当しています。行政文書には、保存年限が設定されており、満了したものは、廃棄をするか、歴史公文書として文書館で永久的に保存するかを判断する必要があります(評価選別)。

アーキビストの重要な業務の一つが、評価選別です。といっても、千葉県の場合、私一人で判断するのではなく、他の文書館職員、文書を作成した部署、外部の有識者と、評価を行う主体が複数います。判断基準は規程で定められていますが、「評価」ですので、それぞれの価値基準が異なるため、条文の解釈を巡って対立することがあります。それらの異なる価値基準をもった主体との意見調整も、私には求められています。

国立公文書館が「アーキビストの職務基準書」を作成し公開していますが、アーキビストは幅広い役割が期待されています。私の業務も、検索システム・デジタルアーカイブ構築に関する業務、文書館移転に伴う準備、収蔵資料に関するレファレンス、歴史公文書の公開・非公開の判断、資料保存、調査研究とさまざまあります。業務ごとに求められる知識もさまざまです。評価選別では、行政文書の内容を理解する必要がありますが、県が行う政策は、極端に言えば、外交と軍事以外の暮らしに関する分野と幅広く、それらを理解しなければなりません。システムに関する業務では、システムの開発方式、セキュリティ、メタデータのあり方に関する知識が求められます。歴史公文書の公開・非公開では、情報公開・個人情報保護制度の理解が必要不可欠です。大学・大学院に10年以上在籍して、日本史、それも近世史や近代史しか勉強してこなかった私にとって、それらの知識は殆ど無いので、入庁後も勉強の日々です。

●大学院の研究活動と仕事
大学入学時から歴史に関する仕事がしたいと思い、そのまま大学院に進学しました。博士前期課程では日本近世史のゼミ(山崎圭先生)、博士後期課程からは近代史のゼミ(松尾正人先生)に所属していました。

アーカイブズ学、日本史学、法学、政治学等を学んだ方々がアーキビストとして活躍されています。その中でも、日本史学出身のアーキビストはたくさんいます。日本史学出身のアーキビストは、レファレンス業務に強いと考えています。基礎文献の探し方は、学部の時に学んだ知識を活かすことができます。古文書のレファレンスでは、近世史とりわけ、村落史に関する知識がないと、対応できません。山崎先生のもとでは、近世地方文書の史料調査や村落史を勉強していたので、それらの経験が役立っています。歴史公文書は、明治期以降に作成されています。近代的な行政を理解するためには、明治維新について深い理解が必要不可欠です。松尾先生のゼミでは、明治維新とは何かを常に考え研究することを学びました。

●受験生のみなさんへ
将来、何が役に立つのか案外わからないものです。学部生のときIT企業でインターンシップをしていて、データの扱い方を学びました。それが、めぐりめぐって今、アーキビストとしてシステムの構築業務を行う中で役立つことがあります。司書課程で学んだことが、千葉県で現在進行している図書館と文書館の複合化事業の中で、よく出てきて、ちゃんと授業を聞いておけばよかった、と十年越しの反省をしています。

また、大学院生・研究者として、研究学会に参加することが、今の仕事をする上で役に立つことがあります。

アーキビストに限らず、研究者や学芸員の仕事は、正規の募集は多くありません。私も、千葉県庁に入庁する前は非常勤でした。しっかりした目的意識と行動力がないと、長い?大学院生活は乗り切れません。ただし、決して一人ではないです。大学教員、同級生、先輩後輩、研究学会を通じて出会った人たちに支えられて、今の私があります(私の場合、もっと目的意識や行動力を持つべきでした)。

大学院生として、自分の専門分野を深めることは、もちろん必要です。それ以外に、何でもやってみる、色んな人と交流することも、アーキビストになるためには重要なことなのではないかと、考えています。

【経歴】
千葉県文書館行政文書資料課主事(専門職)、中央大学政策文化総合研究所客員研究員、認証アーキビスト。2009年3月中央大学文学部史学科日本史学専攻卒業、2011年3月同大学院文学研究科博士前期課程修了、2019年3月同博士後期課程単位取得満期退学。博士後期課程在学中に、国立公文書館アジア歴史資料センター調査員、日本銀行金融研究所アーカイブアーキビストを経て、現職。専門は、日本近代行政史・記録管理史。

|篠崎 佑太さん(宮内庁宮内公文書館)
 文学研究科 博士前期課程 2012年度修了、文学研究科 博士後期課程 2017年度修了

●自身の研究テーマ
近世後期から幕末期における幕藩関係の変容を大名家の格式や幕府の儀礼の面から研究しています。職場では、公文書を用いて近代の宮内省の業務に関する研究をしています。 

●アーキビストとはどんな仕事なのか
アーキビストの仕事は、まず所属するその組織を知ることから始まります。文書の流れを知ることは、組織の変遷を知ることと言っても過言ではありません。私の勤務する宮内公文書館では、明治期以降の宮内省・宮内府・宮内庁が作成・取得した公文書を所蔵しています。宮内省は、明治2年の設置から現在までに宮内府・宮内庁と2回の変遷があり、内部の部局や職掌はさらに多く改正されています。各時期において宮内省(宮内府・宮内庁)がどのような業務をおこない判断をしてきたのか、現在の私たちが実証し回顧するための資料(公文書)を保存・管理し、組織内外の利用に供することがアーキビストの仕事です。そうした組織の歴史、換言すれば自己認識や組織への帰属意識を支えることがアーキビストの社会的な役割といえます。ここでは宮内公文書館を例としましたが、組織は省庁に限らず自治体や企業、地域社会などに置き換えることもできると思います。

そうしたうえで、1つの専門分野だけで成り立たない点がアーキビストの魅力であり、難しさであるといえます。アーキビストの仕事は、文書の評価・選別、保存・管理、利用・普及など多岐に及びます。私の場合は、歴史学(日本史学)を専攻するなかで学んだ資料の整理方法や取り扱い方、古文書の調査研究能力などを活かし、日々の仕事に取り組んでいます。例えば、公文書の調査研究を進め、利用・普及業務として一般の方にもわかりやすくその魅力を伝えるために展示会を企画・運営したり、様々な目的を持って公文書の閲覧に来た方へ適切な資料を案内することが主な仕事です。しかし、アーキビストに求められる能力は、歴史学に関わることだけではありません。例えば、昨今多くの公文書館が取り組んでいる資料のデジタル化やオンラインデータベースでの目録公開、公文書を取りまく法律の解釈、これらを実践するためには情報学や法学の知識も必要です。多くの専門性を一人で担うことは難しいですが、さまざまな専門性を持つアーキビストや職員が協力しあって公文書館の運営を支えています。アーキビストの仕事は、自分の専門性を活かしつつ近接する専門分野にも携われる点が魅力の1つです。こうした多様な専門性の集合がアーキビストの仕事ということもできるでしょう。

●大学院での研究活動がどういまの仕事に役にたっているか
先に述べた通り、大学院へ進学後に携わった史料調査での経験や古文書を読む力を付けられたことは、現在までとても仕事の役に立っています。ゼミでの研究報告を通じて、自分の主張を整理して実証的に説明する力を身に付けられたことも、仕事の一助になっています。

また、中央大学大学院では記録史料学の授業があり、アーカイブズ学の基本を学ぶことができました。それだけでなく、国文学研究資料館主催のアーカイブズカレッジに単位互換制度で参加出来たことは、私がアーカイブズの世界に触れるきっかけにもなり、貴重な機会であったと思います。

●受験生へのメッセージ
私の進学した文学研究科日本史学専攻には、古代から近現代まで各時代に専門の教員がおり、進学後も研究に幅広い選択肢を与えてくれます。どの授業でも実証史学が重んじられており、くずし字の読解や史料の解釈はもちろん、公文書館や資料館などの現場への見学や史料調査を通して史料の取り扱い方まで学ぶことができました。

受験生の皆さんは、ぜひ些細なことでも意欲的に取り組んでもらいたいと思います。自分の専門を見定めて突き詰めていくことは、もちろん研究の醍醐味です。一方で、アーキビストには多様な専門性が求められることも事実です。一見、自身の関心とは関係ないと思った事柄でも数年後に自分の研究と重なってきたり、次の研究のきっかけになることは多くあります。それを無駄と思わず、興味を持って取り組んでもらいたいと思います。中央大学大学院には、そうした皆さんの関心を受け入れてくれる環境が整えられていると思います。