税理士試験「税法」科目免除を検討している方へ

本ページには、税理士試験における「税法」科目免除を検討している方に向けた説明を掲載しています。免除制度の説明や免除実績のある研究科の紹介、修了生の声をお届けします。大学院の入学試験や科目について不明な点がありましたら、お早めに大学院事務室までお問い合わせください。

|学位による税理士試験「税法」科目免除制度について

税理士試験「税法」科目免除とは、大学院で、「税法」に属する科目等の研究(主に修士論文の執筆)を行った者に対し、税理士試験での試験科目を免除する制度です。詳細は国税庁のHPに掲載されておりますが、国税審議会から認定を受けた場合には、税法科目であれば残り2科目にも合格したものとみなされて試験が免除されます。

詳細は、国税庁HP「改正税理士法の『学位による試験科目免除』制度のQ&A」のページから「改正税理士法の『学位による試験科目免除』制度のQ&A フローチャート」を参照してください。

|研究科は経済学研究科?それとも学研究科?

中央大学大学院で税法免除の実績がある研究科は商学研究科と経済学研究科です(2020年度時点)。どちらの研究科を選べばよいか悩まれる方もいると思います。経済学研究科と商学研究科では、在籍する教員の専門分野が異なるため、最終的な目標が「税法免除」という同じものであっても、どちらの研究科に進学するかで基盤とする学問分野に違いが出てきます。

現在の中央大学大学院に目を向けると、経済学研究科には財政学を専門とする教員が在籍しており、商学研究科には租税法を専門とする教員が在籍しています。経済学研究科については、篠原教授による下記の「教員インタビュー ~税法科目免除のために中央大学大学院経済学研究科への進学を考えているみなさんへ~」を、商学研究科については、同じく下記の「商学研究科ガイダンス報告」にて詳しい説明をご覧いただけます。また。修了生の声も参考にして、ご検討ください。

それぞれの研究科のカリキュラムについては、以下をご覧ください。

|経済学研究科

経済学研究科の場合は、入学時にコース選択として税理士コースを選択します。 税理士コースの場合は、「基本科目」および「発展科目」(税理士コース選択必修科目)あわせて8単位選択必修なので、基本科目を履修しなくても「発展科目」の履修のみで修了に必要な履修要件を充たせます。
経済学研究科 税理士コースのカリキュラムはこちら

|商学研究科

商学研究科の場合は、カリキュラムの特性上、主分野の科目から一定の単位を修得しなければならないという特徴があり、税理士を目指す学生は会計学を主分野に選択するため、会計学分野から一定の科目を履修する必要があります。
商学研究科のカリキュラムはこちら

|【経済学研究科】教員インタビュー ~税法科目免除のために中央大学大学院経済学研究科への進学を考えているみなさんへ~

ここでは、税法科目免除のために中央大学大学院経済学研究科への進学を検討しているみなさんに向けて、「受験前に確認していただきたいこと」、「入学試験について」、「入学後の指導」の3点について、経済学研究科の篠原正博(しのはら まさひろ)教授にお話を伺いました。篠原教授は、税法科目免除を目的として大学院に入学し、実際に免除認定を受けた大学院生の指導にあたった経験をお持ちです。


|1.受験前に確認していただきたいこと

上記に説明のある、国税庁HP「改正税理士法の『学位による試験科目免除』制度のQ&A」を熟読して下さい。特に重要だと思われるのは以下の点です。


【問2:平成14年4月1日以後に大学院の修士課程に進学したが、そこで取得した修士の学位等による試験科目免除についての制度の概要を教えてほしい。】

(国税庁HPでの回答)税理士試験の免除制度の趣旨は、税理士法第1条に定める税理士の使命の実現のために、その税理士業務を適切に行い得る能力(試験合格者と同等の学識及びその応用能力)を十分に有していると認められる者について、試験科目の分野ごとに試験を免除するというものです。

・・・・(省略)・・・・・・・

研究の認定を受けるためには、次の条件を満たす必要があり、満たしていない場合には不認定となります(これまでも一定数が不認定となっています。)。

詳細は国税庁HPにてご確認ください。

★篠原教授よりコメント★
免除申請のためには、①修士論文を作成しそれにより学位を授与されていること、②税法試験科目のいずれか1科目に合格していること、が要件となります。


【問12:研究の認定についての基準は何か。】

(国税庁HPでの回答)国税審議会は、平成13年12月25日の国税審議会会長名の公告により、認定の基準を次のとおり定めています。

詳細は国税庁HPにてご確認ください。

★篠原教授よりコメント★
税法科目免除申請のためには、租税法に関連する科目を4単位以上修得していることが求められます。経済学研究科では独自に「租税法Ⅰ・Ⅱ」(各2単位合計4単位)を設置しています。また、税法凡例研究Ⅰ・Ⅱ、法人税法、所得税法、相続税法、消費税法を税理士コースの選択必修科目として商学研究科と共同で設置しています。


【問15:法学研究科以外の研究科(経済学研究科等)において研究をする場合にも、税法に属する科目等の認定を受けられるのか。】

(国税庁HPでの回答)認定の適否は、申請者が在籍する研究科等の名称によって一律に決まるものではなく、申請者の研究の内容が税法に属する科目等に関する研究に該当するか否かによって決定されます。

★篠原教授よりコメント★
研究科の名称は問われませんから、経済学研究科でも大丈夫です。


【問16:指導教授の専門分野について審査されるのか。(「指導教授の証明書」を作成する教授は誰でもよいのか。】

(国税庁HPでの回答)指導教授の専門分野は国税審議会の認定基準とはされていませんが、論文審査の際の参考といたします。

・・・・(省略)・・・・・・・

例えば、税法に属する科目等についての修士論文作成に当たっては、大学院により当該分野の論文の指導の資格があると認められた(すなわち当該分野を専門とする)教授等から必要な指導を受けるであろうことが前提となっています。

詳細は国税庁HPにてご確認ください。

★篠原教授よりコメント★
税法科目の免除申請をするためには、指導教授の専門分野が「租税法」もしくは「財政学」であることが基本になると考えられます。中央大学大学院経済学研究科の場合、租税法専攻の専任教員は在籍していないので、財政学専攻の教員の指導を受けることになります。また、財政学の場合、租税に関する研究業績があることが望ましいと思われます。


【問20:租税についての経済分析や政策を研究したが、認定が受けられるのか。】

(国税庁HPでの回答)租税制度の経済的な側面あるいは政策的な側面の研究については、それらが我が国の税法を基礎としたものであり、かつ、税法に属する科目等と密接に関連するものである場合は、税法に属する科目等に関する研究に該当することになると考えています。

詳細は国税庁HPにてご確認ください。

★篠原教授よりコメント★
「わが国の現行の税法に関する経済分析」であれば免除認定の対象になると考えられます。ただし、税法に関連していても、わが国の過去の税法や外国の租税制度に関する研究は対象外です。

修士学位取得から免除申請まで時間的ラグがあり、その間に税法改正があった場合に免除認定されるのかといった質問を受けることがありますが、その点に関しては、国税審議会により個別的に判断されると考えられます。


|2.入学試験について

経済学研究科の入学試験の詳細については、入学試験要項にてご確認ください。


|3.入学後の指導

税法科目免除認定を受けるレベルに到達する修士論文を作成してもらうため、どのような指導を行っているかに焦点を当て概要を説明します。

(1)論文テーマ設定

修論執筆に際しまずクリアしなければならないのはテーマ設定です。テーマ設定には、論文タイトル、目次、経済分析の概要を含みます。修士を2年で修了することを前提にすると、テーマ設定の作業は修士1年の夏休み前(遅くとも修士1年終了時)には終わっていることが望ましいです。院入学後の円滑な学修を可能にするために、入試終了後、合格者を対象に入学前指導を行うこともあります。

テーマ設定の際に参考になる文献として、三木義一『日本の税金 第3版』岩波書店はコンパクトですがわが国の税制の現状を知るのに有益です。また、経済学研究科を修了した過去の院生の論文も参考になるでしょう。

(2)論文執筆について

テーマ設定を終えると、論文執筆にとりかかることになります。論文執筆は、仮説を設定しそれを論証する作業で、「広く浅く」ではなく「狭く深く」穴を掘る作業です。

論文は、「はじめに」、「本論」、「おわりに」の3部構成となります。「はじめに」の箇所では、論文の問題意識、ネット・コントリビューション、および論文の構成を明らかにします。ネット・コントリビューションは、先行研究に対して新たに付け加えた事柄がその内容となります。「おわりに」では、結論(論文で明らかにされたこと)および論文の限界(残された課題)について述べます。「はじめに」と「おわりに」がしっかりしている論文は「本論」も充実しており、評価が高いです。

経済分析のためには、マザー論文(自分の選択した論文テーマに関して経済分析を行った先行研究)を見つけることが必要です。マザー論文がみつかると、そこで明らかにされていない論点を深掘りすれば、それがネット・コントリビューションになります。マザー論文の選択に際しては、個々の院生の事情(経済分析能力、時間的制約)を考慮して、無理のないように指導します。

税法を基礎とした研究にするためには、論文テーマに関する税法学者の論文や判例研究にも目を通す必要があります。これらに目配りすることによって、論文内容がより充実したものになります。

先行研究の見つけ方に関しても、個別にていねいに指導します。一般的な情報収集に関しては、入谷玲子『プロ司書の検索術』日外アソシエーツを手元に置いておくと、院修了後にも役に立ちます。

(3)単位取得について

税法科目免除および修士課程修了のために単位取得が必要な科目についてアドバイスします。


|篠原教授より経済学研究科を受験されるみなさんへのメッセージ

中央大学大学院経済学研究科は、税法科目免除を目的とする院生の指導体制および入学後の研究環境が整っています。これまで多くの院生が税法科目免除認定を受け、高度職業人として税のプロになっていきました。税法科目免除を目指す院生のほとんどが専門学校と大学院のダブルスクールの状況にありますが、両立を可能にして目的を達成できるよう教職員一同で支援いたします。

|【商学研究科】商学研究科ガイダンス報告(2021.04.02)

2021年4月2日に、中央大学の学部生向けに実施した商学研究科ガイダンス内容を下記にまとめました。学部生以外の方も是非参考にしてください。

|研究科委員長より
大学院での研究や商学研究科の特色についてお話しいただきました。学部との大きな違いである少人数教育や論文執筆に欠かせない論理的な思考など、大学院における教育・研究の特徴に関するご説明がありました。また、今後の社会では大学院を修了した人が活躍する場が増えるだろうということ、さらに研究そのものが持つ魅力についてもお伝えいただきました。

|指導を担当している教員より
実際に税法関連の科目を担当している教員(専門:租税法・国際課税)から、大学院での研究を活かした進路、特に税理士試験に向けた税法免除制度についてお話しいただきました。近年、税理士には新しい活躍の場が広がっていることや、税理士のような専門性のある職業には大学院での研究やそこで身につく様々なスキルが役立つとのことでした。税理士に限らず、大学院での経験は社会に出た際に大きな力になるとのお話もありました。

|修了生より
2020年度の修了生(商学研究科博士前期課程)の一人に、大学院生時代の経験をお伝えいただきました。2年間の時間割や大学院での授業の進め方(アウトプットが多いこと)の紹介や、データベースの使い方や論理的思考力が身につくことなど、大学院で研究をすることの魅力をお伝えいただきました。税法を研究したこの方は、法哲学からのアプローチや租税訴訟の判例研究をもとに修士論文を執筆したとのことで、研究の広がりも感じられるお話でした。

商学研究科ガイダンス(2021年4月2日 商学研究科委員長).mp4

|修了生の声

税理士を目指して大学院に進学し税法を中心に研究した方や、大学院時代の研究分野を活かして税理士法人への就職が決まった方をご紹介しています。税法に関連する研究をして、自身の研究内容を活かして活躍している修了生が多くいます。

|碓井 瑞生ん 経済学研究科 博士前期課程 2019年度修了

●大学院進学を決めた理由について
私が大学院進学を考えたのは、大学3年次の、国際系会計事務所でのインターンシップがきっかけでした。このインターンシップでは、難易度の高い税務業務を体験し、自分の税務知識の薄さを実感しました。また、翌年以降も税理士試験の受験を予定していたため、働きながら受験し合格することの難しさを感じました。そこで、税に関する知識・考え方の習得と税理士試験の学習時間を確保することができる大学院進学を決断しました。そして、数ある大学院のなかでも、中央大学大学院経済学研究科を志望したのは、次の3つの点で魅力的であると考えたからです。

1つ目は、税理士を志す学生をサポートする環境が整っている点です。経済学研究科は、税法に関する修士論文を指導できる教授がおり、多くの修了生を輩出しています。また、税に関する文献が数多く所蔵されている図書館や各大学院生に割り当てられる研究室など、設備面でのサポートも充実しています。

2つ目は、経済学研究科において、税に関する科目を幅広く履修できるカリキュラムが組まれている点です。履修科目に他研究科の税法の授業が含まれているため、税に関する科目のみで、修了に必要な単位要件を満たすことができます。

3つ目は、税理士を志す大学院生が多く在籍している点です。中央大学大学院には、経済学研究科だけでなく商学研究科などにも税理士を志望する大学院生などがいるため、研究科の垣根を越えて同じ志を持った仲間と勉学に励むことができます。

このような経緯で、私は大学院進学を希望し、中央大学大学院経済学研究科への進学を決断しました。

●大学院時代の研究や学生生活について
入学から修了までのスケジュールを説明します。大学院博士前期課程1年次には、前期・後期を通して、税に関する科目を履修し、より多くの単位取得が望まれます。それは、基礎的な税法の知識・考え方を磨き修士論文作成の土台を作り、大学院2年次に修士論文作成の時間を多く設けることが必要とされるためです。また、1年次から行われるゼミを通じて、修士論文の研究テーマを設定し、大枠を確定することが望まれます。大学院2年次には、修士論文の実際の執筆に入っていきます。1年次に多くの単位を取得している場合には、2年次は基本的にはゼミのみとなります。ゼミでは、修士論文の進捗状況の報告を行い、教授等のフィードバックを受け、論文の精度を高めていきます。中央大学大学院では、年明けまでに修士論文を完成・提出し、口述試験を経て修了する運びとなります。

続いて、資格試験や就職活動との両立についてです。結論から申し上げますと、それらとの両立は可能です。中央大学大学院に進学し税法を研究する大学院生の多くは、資格試験や就職活動を並行しながら科目履修、研究活動を行っています。資格試験については、学校をあげて税理士養成をサポートする体制が整っているため、多くの授業で試験前に課題が出ないよう配慮されます。就職活動については、大学院の長期休暇期間に多くの時間を設けることができるため、じっくりと修了後の進路について考え、活動することができます。また、中央大学大学院の修了生は、税務業界で活躍している方々が多いため、積極的に行動することでOB・OG訪問や実務家の生の声を聞くことができます。

大学院で得られたものについて
実際の大学院生活について見たところで、その大学院生活を通して何が得られたか、私の経験から記載させていただきます。

まず、物事を深く考察する力です。大学院の授業や研究活動は、①テーマを設定し、②情報収集を行い、③論点を整理し、④自分の意見を提示することが求められます。この一つ一つの過程をじっくりと考えながら行い、授業を通じて何度も回転させることによって、物事を深く追求し考察する力が身についたと感じております。また、この過程を丁寧にこなすことで、そのテーマへの知見が深まり、専門性を磨いていくことができます。この力は、学問に限らず、社会人生活などあらゆる場面で応用することができると考えます。

また、大学院を通じてできた仲間の存在です。中央大学大学院には、様々な目的意識を持って進学している大学院生がおり、大学院生同士の交流も盛んに行われます。同期だけでなく、先輩や後輩とも積極的に交流できたことで、科目履修や就職活動をスムーズに進めていくことができました。また、経済学研究科内だけでなく、他研究科との交流も多くあるため、様々な刺激を受けながら成長できます。

●受験生へのメッセージ
税理士を志す理由、大学院進学を希望する理由は、それぞれあると思いますが、中央大学大学院経済学研究科では、学ぶ意欲さえあれば大きく成長していくことのできる環境が用意されていると感じました。
私の体験記が大学院進学を考える方々に少しでもご参考となれば大変嬉しく思います。

|河野 雅之さん 商学研究科 博士前期課程 2020年度修了

●学部時代はどのような勉強をしていましたか
学部時代は、ゼミナール活動にて租税法を学習していました。そして、学部4年生から税理士試験の勉強をしていました。

●大学院進学を決めた理由について
当初、大学院への進学は考えておらず、一般企業への就職をする予定でした。その当時、税理士試験の勉強をしており、その難しさを考えると働きながら合格することの困難さを痛感いたしました。そこで、租税法に対する知識の定着や税理士試験の勉強時間の確保を考えました。

中央大学大学院への入学の決め手として、税理士などの専門家を志す大学院生が数多く在籍している点があります。皆で切磋琢磨し合える環境があり、仲間とともに勉学に励むことができます。そのため、勉強や研究をするのには、最高の環境であると考えました。

また、3年生の12月のゼミナール活動にて「国際課税」についての講演を聞き、国際課税について、興味がわきました。そして、4年生の卒業論文の作成時に、国際課税、特に「移転価格税制」をより深く研究したいと考えたこともあり、大学院進学を決定いたしました。

●大学院時代の研究について
私は、「わが国における事前確認制度に対する一考察 ―移転価格税制における納税者救済の観点からの検討を中心に―」と題した修士論文を執筆しました。事前確認制度とは、企業が国外関連者と取引を行う場合に、その取引により生じた移転価格について、企業が採用した独立企業間価格及びその算定方法を税務当局に事前に確認を受けることで、移転価格課税のリスクを回避することができる制度です。「事前確認制度により確認された独立企業間価格等について、現状の制度設計では、納税者がその確認結果の再検討を求めることができるのか」という疑問点から、事前確認制度により確認された独立企業間価格等に対して、行政手続法の適用があり得るのかという観点から研究を行いました。

●修了後の進路について
修了後は、元々興味があった国際課税をメインとして行う大手の税理士法人への就職が決まりました。大学院で研究したことを活かしつつ、社会に貢献できるようにしたいと思います。

●受験生へのメッセージ
大学院に進学する理由は様々であると思います。その際に、苦しいことや大変なことはたくさんあると思いますが、先生や同じような志をもつ仲間が必ず力になってくれます。自分の研究したいことや勉強したいことがあれば、ぜひ飛び込んでみてください!

儀間 かのんさん 商学研究科 博士前期課程 2020年度修了

●中央大学大学院商学研究科進学までの経緯
中央大学商学部に在籍していた私は、学部生時代、中央大学大学院商学研究科の先生方の税法の講義を受ける機会がありました。以前までの私は、アカデミックな税法の世界と実務の世界の間には隔たりがあると思っていましたが、その講義をきっかけに、応用力のある実務家になるためには、本質を厳密に理解しようとするアカデミックな観点が重要だと考えるようになりました。そこで、そのような講義してくださった先生方の下で、より発展的に税法を学びたいと思い、中央大学大学院商学研究科への進学を決めました。

●大学院での生活
中央大学大学院では、学生にも研究室が割り当てられます。同じ研究室の友人は、忙しい中でも、研究に煮詰まる私が相談すれば自分ごとのように一緒に考えてくれました。時には議論をし、時には研究の一助となるアドバイスをくれ、研究という孤独な時間の中で、同じ分野を研究する友人の存在は大きな支えでした。同じ志を持つ、尊敬する友人たちと出会えた大学院生活は学問以外にも得るものが多かったと感じています。

●大学院での研究
学部生の頃の私は、与えられた問題に知っている知識を答えることしかできませんでした。しかし、大学院では、用意された答えはなく、自らの問題意識がないと研究は始まりません。多くの学者が真理の探究を重ねてきた学問の世界で、自ら問題意識をもち、そしてその答えを出すことは困難である、と初めは思っていました。そんな思いを抱きながらも先行研究をひたすら調べ、多くの論文を読みました。そのうちいつの間にか、その弱気な思いは消えていました。どんなに研究が進んでも白黒はっきり断定できる答えはないということに気付いたからです。今、目に見えている「正解」と言われるものも、そこに辿り着くまでの過程において、まだまだ解決すべき点が往々にしてありました。そこに研究の意義を見出せるようになってからは、問題意識も自ずと生まれました。

私は、租税法上における社会通念の位置付けに関する研究を行いました。その問題意識を洗練させていくには、決して自分のテーマについての文献を読むだけでは十分ではありませんでした。大学院での税法一般の講義や演習、友人の発表を聞いたりすることで、抽象的だった問題意識が段々と明確に具体的になっていきました。また、実際に修士論文の執筆にあたって用いた手法である税務訴訟の判例研究は、大学院の演習でかなり鍛えられました。もう一つ、自身の問題意識を探究する手法として他分野である法哲学からのアプローチを用いました。他分野を専攻する友人との交流や論文を読むことにより、専門は違えど研究の根底にあるものは同じだと感じることがあったためです。そこで税法と法哲学の接近を試みました。

研究をする中で不思議だなと感じたことがあります。知れば知るほど自分が何も知らないことに気付かされることです。これは、以前までの、学問に対し受け身であった頃には決して感じることのない感覚でした。研究を進めれば進めるほど、自分の研究が不完全だと自覚することになるのです。それでも報告の日が迫ってくる研究生活はなかなか大変なものでしたが、どうにか折り合いをつけながら少しずつ進めていきました。そうしていくうちに問題意識に対する自分なりの答えが出せてきたように思います。

●受験生へのメッセージ
自分自身が心から知りたい、答えを探求したいと思えるものに出会えた大学院生活は、たった二年ではありましたが、私のこれからの人生の指針になったと思っています。そして学問と真剣に向き合うことによる苦悩は、私自身を大きく成長させました。大学院への進学を希望し、これから研究をする方々も、きっとそのような場面に出合うことになると思います。学問と真摯に向き合う環境は、中央大学大学院に整っています。この拙稿がみなさんの進路選択や、研究生活のご参考になれば大変嬉しく思います。