伊能 良太

周辺視野で周期的視覚刺激を知覚しているときの感覚時間

本研究では、画面上での作業の妨げにならない程度の周辺視野への周期的視覚刺激が、意図的に感覚時間の尺度を操作する方法になり得るかを検証する。点滅を繰り返す周期的視覚刺激を画面端に提示することにより、周辺視野への周期的視覚刺激が感覚時間に与える影響を定量的に分析する。

実験結果の分析を通して、画面上で行う作業の効率を向上させるための知見を得ることを本研究の目的とする。時間の経過に関する感覚は、人間が持つ感覚の一つである。その尺度は一定ではなく、有意義な時間は短く感じる一方で、退屈な時間は長く感じるということは、誰もが経験的に承知している。周囲の視覚情報を変化させることで、この感覚時間の尺度を意図的に操作することはできるだろうか。

先行研究では、視覚情報として一定の運動が繰り返される視覚刺激が設定された。視覚刺激の速度が変化すれば、視覚刺激が繰り返し出現する周期も変化する。そのため、点滅を繰り返す視覚刺激の周期を変化させることにより、視覚刺激の速度変化と同じ効果が得られると考えられる。点滅のみを繰り返す周期的視覚刺激は一定の運動を設けない分、狭い範囲に視覚刺激を収めることができ、また、視覚刺激の提示を簡素化することができる。周期的視覚刺激は、スマートフォンの通知ランプのような小さいサイズから、室内照明のような大きいサイズまで、既存の器具を利用して提示することができ、先行研究で設定した視覚刺激に比べ、応用できる範囲が広がると考られる。

近年、パソコンやスマートフォンなどの電子デバイスの普及により、人はそれらの画面から視覚情報を受け取りながら過ごす時間が長くなった。その際、中心視野は電子デバイスを通して得られる視覚情報を受け取る一方で、周辺視野では全体のあらましを把握しているにすぎない。また、電子デバイスの画面においても、画面中央は必要な視覚情報を提示する一方で、多くの場合、画面端は余白となっている。この余白は、使用者に必要な視覚情報を与えるスペースとして活用されていない。電子デバイスを使用している際、この画面端に周期的視覚刺激を設定し、使用者の周辺視野の一部に周期的視覚刺激を提示することによって、感覚時間の尺度を意図的に操作することができると考える。