準結晶は1984年にシェヒトマン(Shechtman)(2011年ノーベル化学賞受賞)により急冷AlMn合金中に5回対称の電子回折パターンを示す物質として発見されました。従来5回対称を示す結晶は存在しないと考えられてきたため、その発見は大きな驚きととともに当初疑いの目で見られましたが、この合金は、結晶と同様に規則正しく配列した原子によって構成されていることが明らかとなりました。この規則性は準周期性と呼ばれ、準周期性をもち原子が規則正しく配列した物質群のことを準結晶と言います。現在では金属系だけでなく、高分子系やセラミック系でも準結晶が見出されています。準結晶は周期結晶では許されない5回、8回、10回、12回などの回転対称性を示すとともに、無理数である黄金比やフラクタル(自己相似)とも関連しています。準結晶は通常の結晶とは異なり周期をもたないため、どのように原子が規則正しく配列した構造となっているかがその発見以来の大問題です。物質の原子レベルでの構造解明は現在の物質科学の基礎です。また、物質として性質(物性)が周期をもつ結晶や非晶質(アモルファス)とどのように違うのかを明らかにすることも重要です。本研究室では主として合金系の準結晶の構造と物性について研究しています。
キーワード:結晶物理学、回折結晶学、準結晶の構造と物性、複雑構造合金結晶、非周期結晶構造解析、金属磁性と電子輸送
準結晶中の原子配列がどうなっているのかは、多くの準結晶が見出されてきている現在でも、まだよくわかっていないものが多い。本研究室では世界で初めて2元素からなるYb-Cd正20面体準結晶の構造を解明しシェヒトマンのノーベル賞受賞に寄与しました。また、この構造モデルは現在盛んに研究されている多元系Tsai型準結晶の構造や物性を理解する上での基礎となっています。高次元結晶学を発展させ、未知構造の解明に取り組んでいます。
Yb-Cd正20面体準結晶の構造
原子が準周期的に配列すると特異な性質が現れる。その一つが量子臨界現象です。そのほかにも、準結晶中の原子はどのように結合しているのか。例えば、AlCuFe正20面体準結晶は、ありふれた金属元素から構成されていますが、準結晶になると硬くてもろい、叩けば割れる物質になります。このような金属結合-共有結合転換は新しい物質設計指針としても有望です。さらに、準周期構造上での電子状態は周期系とはどのように違うのか。まだ多くのことが未解明です。
Au-Al-Yb準結晶の磁化率の温度依存性
・2024年度
修士:水谷 哲 天然AlNiFe正10角形準結晶の構造に関する研究
修士:水沼 昂大 単結晶 X 線回折による正 20 面体準結晶のリニアフェイゾン歪の評価方法の開発
学士:川原田 平蔵 Zn-Ag-Sc 正二十面体相準結晶のDy 置換の研究
学士:今野 隼 ZnSc1/1 近似結晶における Ag 置換による構造変化
学士:関 空真 Yb 置換による Zn-Sc 系1/1 近似結晶の構造変化
学士:早坂 優吾 Ta-Te系正12角形準結晶の作製とその安定性
・2023年度
修士:佐藤 啓生 Zn-Ag-Sc-(希土類)系準結晶および近似結晶の希土類置換限界と低温物性
学士:齊藤 芳希 Al-Ir-TM (TM=Mn, Fe)系における準結晶関連結晶の育成とその構造
・2022年度
修士:菊池 瞭太 Mg-Al-Ga-Zn系3/2-2/1-2/1近似結晶の構造
学士:水沼 昂大 Al-Cu-Fe系F型正二十面体準結晶のクラスター構造
学士:水谷 哲 Bergman型AlZnMg 2/1近似結晶の構造のみだれ
学士:松下 圭汰 Cu-Ga基Tsai型準結晶および近似結晶における相形成と物性に対する希土類置換効果
・2021年度
修士:遠藤 貴仁 Zn-Mg-Zr系正二十面体準結晶の形成と構造
学士:佐藤 啓生 Zn-Ag-(Sc-lanthanoid)系正20面体準結晶の試料評価と同型置換限界
学士:河野 優太 Zn-Mg-Sc-Er合金系におけるTsai型正20面体準結晶の形成と相安定性
学士:髙橋 和樹 Tsai型Zn-Sc 1/1近似結晶の組成に依存した構造変化
学士:三ツ田 隆将 巨大単位胞をもつZn-Mg-Ti系立方晶の構造解析
・2020年度
修士:柴田 涼誠 Al-Si-Ru系における立方晶系および直方晶系近似結晶の単結晶育成と構造決定
学士:菊池 瞭太 Al-Zn-Mg系における2/1-1/1-1/1近似結晶の形成条件の探索
学士:山下 竜也 Au-In-Eu 1/1近似結晶及び Au-Sn-Eu 2/1近似結晶の単結晶X線構造解析
2020年度以前は省略