大雨と海水温の関係、温暖化による変化

大雨は低気圧、台風、梅雨、などなどさまざま擾乱によって起こります。これらのうち、「どのタイプの大雨が海水温に敏感か?」、「どのタイプの大雨が温暖化によって増えるのか?」という疑問に答えるため、我々はこれらの擾乱のタイプ毎に詳細な分析を行いました。

気候変動リスク情報創生プログラム」によって作成された大規模な気候モデルシミュレーションの中に含まれる大量の大雨事例について分析しました。ここでは、10年に1回程度の確率で発生する大雨(約1万事例)を対象として、これが発生した日の地上天気図をクラスター分析し、下図のように8つの気圧配置のタイプ(型)に分類しました

図: 北海道で大雨が発生したときの主な気圧配置。カラーは気圧の高低(hPa)。矢印は水蒸気輸送の強さを表す。

C7やC8の型は、台風による大雨を多く含みます。C3C6は主に低気圧が接近・通過する際の大雨です。

C1の気圧配置には明瞭な低気圧がありませんが、東日本・北日本は周囲に比べて相対的に気圧が低くなっています。これは夏季の短時間強雨(にわか雨)をもたらすような上空の寒気の存在を示唆する型です。

C2は太平洋で高気圧、日本海で低気圧となっており、その境界に強い水蒸気の流れを確認できます。これは太平洋高気圧の縁を流れる暖湿な気流が北日本に運ばれた際に発生する大雨に相当します。特に強い水蒸気の流れは、大気の川(Atmospheric River)とも呼ばれます。

図: 各年の大雨発生回数と海面水温偏差の相関係数。相関係数の高い海域では、海水温が高い夏ほど北海道の大雨発生回数が増加することを表す。

左図は、タイプ別の大雨発生回数と海面水温の関係を表します。

C1~C4は、近海の海水温が高いほど大雨の回数が増加する傾向があります。一方、C5~8の大雨発生回数は近海の海水温とはほぼ無関係に決まっていると言えます。

太平洋側から水蒸気が流入するC3~C4では太平洋の海水温が、日本海から水蒸気が流入するC2では日本海の海水温がそれぞれ大雨の回数を決める重要な因子であることが分かります。

C1は広く北日本周辺の海水温と関係しています。

図: 過去(HIST)と将来(+2K、+4K)で比較したタイプ別の大雨発生回数。

それでは、温暖化が進行するとどのようなタイプの大雨が増えるのでしょうか? 過去~現在(HIST)と将来(+2K、+4K)の大雨回数をタイプ別に比較します。

全てのタイプを合計した大雨発生回数(ひと夏あたりの日数)をみると、温暖化が進行するにつれて、大雨の回数が増加することが確認できます。これは多くの研究で指摘されている特徴と同じです。

タイプ別に比較すると、C1(上空に寒気が入った際の熱雷)とC2(大気の川のような強い水蒸気輸送を伴う大雨)の回数が、他のタイプよりも大きく増加することが分かります

つまり、大雨の中でも温暖化によって敏感に応答する大雨とそうでない大雨があるようです。C1とC2の型の大雨が顕著に増加する要因について、今後詳しく調べる必要があります。本研究のように大雨の要因別に海水温と大雨の関係を評価することによって、メカニズムの理解向上や予測の改善(どのタイプの予測が難しいか分かる)が期待できます。

まだまだやるべき課題が多く残されています。一緒に研究しませんか?

本研究の詳細は、以下に詳しく記載されています。

  • Hatsuzuka, D., and T. Sato, 2022: Impact of SST on present and future extreme precipitation in Hokkaido investigated considering weather patterns, J. Geophys. Res. -Atmos., 127, e2021JD036120, DOI:10.1029/2021JD036120. [Link] [pdf]

  • NHKニュースウォッチ9で紹介されました(2022年8月22日)「ことしの記録的な暑さや大雨 原因は 今後の天候は」.内容はこちらです。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220822/k10013781891000.html

関連プロジェクト

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科学研究費補助金(新学術領域研究(研究領域提案型))(2019-2023)「急速に温暖化する日本周辺海域での大気海洋相互作用と極端気象」(19H05697) in 変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot