小酒井 研究室(環境・栄養生理学)
山形大学 学術研究院 小白川キャンパス(理学部・理工学研究科理学)
山形大学 学術研究院 小白川キャンパス(理学部・理工学研究科理学)
腸内環境は体内環境と異なり、口腔から肛門へと体外環境と繋がっています。食餌として摂取した物質には、栄養源として体内で代謝される化合物もあれば、栄養素として機能しない物質、時には、有害な毒素も含まれています。近年、腸管細菌やその発酵産物による生体機能性、例えば、代謝内分泌、細胞増殖、腸内在神経系などとの関連性が次々に解明されています。
小酒井研究室では、食餌に含まれる化合物や腸管微生物による発酵産物は腸管を介して生息環境や生存活動に関わる情報を無意識に提示しているのではないか、つまり、最初に生体と接する腸管は生存環境の認識器官ではないかと、注目して研究を進めています。
もう少し詳しく述べると、食品中成分や発酵産物を腸内環境化学物質と解釈して、腸管における認識(受容)と吸収(輸送)の機序を、腸管吸収分泌細胞のみならず、腸内分泌細胞(セロトニンやGLP1などを分泌する特殊な上皮細胞群)や腸管神経叢(約1億個のニューロンが存在するといわれ、興味深い点として中枢神経系から独立して機能できます)などの複雑な細胞機能を解明しようとしています。
これらの基礎研究の成果には、もしかしたら、自然界において動物が生存競争に勝ち抜く秘密が隠されているのではないかと考えています。また、その成果は、我々ヒトの高齢時における機能低下の抑止や代謝疾患予防などの新規機能性食品や創薬開発など、科学的裏付けに基づく健康長寿技術へ貢献できると考えております。
研究テーマ
脳と腸管は互いに情報を交換しあい、生体機能を調整しています。その関係を脳腸相関といいます。我々は、腸管は神経や体液を介して、脳だけではなく、骨格筋とも連絡していることを解明しようとしています。特に、高次脳機能や持続型運動能力に、腸内細菌と食性の関係が鍵を握っているのではないかと睨んでいます。
腸内細菌との共生関係が極めて重要であることがわかってきました。近年は、吸収のみならず、遊離脂肪酸受容体や嗅覚受容体を介した認識機序が重要であることが解明されています。我々は、短鎖脂肪酸のみならず、ゲラニオールなどの低分子の芳香性化合物が大腸上皮で認識されることで、生理機能が発動することを解明しています。
腸管上皮は、幹細胞、パネット細胞、杯細胞、吸収分泌細胞、内分泌細胞など数多くの細胞種が協調して機能しています。我々は、腸幹細胞の増殖や娘細胞の分化誘導に、腸管細菌の発酵産物による直接作用、内分泌細胞や間葉系細胞を介した間接作用の協働により制御されていることを解明しています。
現在進行中の研究課題
共生微生物による腸内発酵産物や発酵食品中の代謝産物による腸管内分泌機能やイオン・水分泌機能に及ぼす影響やその作用機序を解明しています。
食餌に含まれる香気成分や食品添加物のみならず、腸内細菌による代謝産物などの香気成分がどのように認識されるか、または、どの程度吸収され、神経機能を調整するのかを研究しています。
各ライフステージ(成長、繁殖、加齢)などの腸管における栄養素吸収機序を解明することで、適切な栄養補給法を提示できるように研究しています。
脂質代謝に欠かせない胆汁酸は、大腸菌に代謝されると強力な発癌因子となります。一次胆汁酸も二次胆汁酸も、下痢やリーキーガット(腸管バリヤ機能が失われる状態)の発症も関連しており、その作用機序を解明しています。
卵生にとって、卵殻の形成(重炭酸カルシウムの分泌)は極めて重要です。爬虫類・鳥類の卵管上皮組織における重炭酸イオンの分泌機序を解明することで、野生動物の保護へ貢献したいと考えています。
山形県米沢市天然記念物「吾妻の白猿」の生態や遺伝子解析、地域食材の機能性や食文化なども、学部生の地域実践型社会演習授業で調査・研究しています。我々の科学研究はヒト・地域にどう貢献できるのかを考えています。
研究手法
動物個体レベルでの健康機能性を実証します。通常飼養に加えて、胃ゾンデによる投与実験やカテーテル装着の無拘束実験での薬物注入や採血を実施します。最近、回し車による24時間運動リズムも計測できるように整備しました。時には、動物用試験食は自分たちで試薬グレードを混合させて特別に調製します。また、血中ホルモンの測定や組織における遺伝子発現量や組織切片の免疫組織化学染色にてタンパク質の局在性などを解析することで生理機能を解明します。
腸や卵管などの上皮組織レベルでの現象を解明します。Ussing-chamberを用いた短絡電流法を用い、能動イオン流(吸収速度と分泌速度)や腸管透過性(生体膜抵抗)を測定します。管腔側と血液側の培養条件を別々に設定できるので、神経やホルモンの作用機序も解明できます。また、マグヌス管を用いて自発的な腸管運動に及ぼす影響も検討できます。なお、腸管平滑筋を剥離した粘膜組織標本を準備することが得意で、上皮細胞と粘膜下神経叢の相互関係も解析できます。
腸管上皮に存在する細胞を供試して、細胞レベルでの作用機序を解明します。株化された吸収上皮細胞や内分泌細胞に加えて、腸管上皮細胞の初代培養系やオルガノイド培養系を駆使して、認識、吸収分泌機能のみならず、細胞増殖・分化機能の関係を解明します。特異的抗体を用いた免疫染色法に加えて、mRNA発現量、ウェスタンブロット法、免疫沈降法、生細胞カルシウムイメージング法を駆使して、生理機能を解明します。
研究室メンバー
学術研究院・教授 小酒井 貴晴(Kozakai Takaharu, Ph.D.)
researchmap ← 小酒井の研究者ページに飛びます。研究業績や内容などを参照できます。
学術研究院(理学部、理工学研究科、地域教育文化学部)
山形大学公認・栄養健康トランスレーション研究グループ・グループ長
理学部4年 大島弓芽
テーマ;大腸上皮組織の能動的イオン輸送と平滑筋運動に及ぼす香気化合物の影響
理学部4年 小原生羅
テーマ;腸管上皮における胆汁酸認識機序の解明
地域教育文化学部3年 大江舞
テーマ;腸管オルガノイドにおける管腔側成分による生理機能の解析法
小酒井の研究職歴
愛知東海高校、三重大学生物資源学部を卒業後に、東北大学大学院農学研究科に進学、博士号取得(-1999)
つくば中央第六にて、脳腸ペプチドの分子生物学的解析と機能性ペプチドの生理機能を研究(ポスドク;2000,2003))
上皮性ガン細胞の転移と細胞死を制御するTGF-betaとWntシグナル伝達を研究(ポスドク;2001-2002)
産業動物における栄養素吸収と代謝機能に関して研究(テニュア→主任研究員, 2003-2009)
栄養士養成機関であった食環境デザインコースの准教授として2009年末に赴任。改組で文化創生コースへ。2019年より教授。
2014年から理工学研究科理学(理学部生物)も担当。改組後は、理系研究としてこちらが主戦場となり、現在に至る。
連 絡 先
〒990-8560 山形市小白川町一丁目4番12 山形大学小白川キャンパスA7棟
小酒井貴晴
e-mail : takaharukozakai(アットマーク/at sign)e.yamagata-u.ac.jp
腸管を軸にした栄養生理学に興味にある方は、一緒に研究しませんか。
食べ物(食餌)は消化管と最初に接します。摂取成分の吸収と認識は非常に重要で面白いですよ。
研究が大好き・実験が大好物である大学院生・社会人大学院生(山形大学理工学研究科 修士・博士課程)を国内外問わず歓迎します。
民間企業との基礎研究・トランスレーション研究も相談にのります。
We welcome foreign doctor researchers and graduate students, could you please contact for details.
researchmap(日本研究者のデータベース) ← 小酒井の研究者ページに飛びます。研究業績や内容などを参照できます。
所属学生の進路
<大学院進学>
山形大学大学院理工学研究科、北海道大学大学院、大阪大学大学院、九州大学大学院、奈良先端科学技術大学院、筑波大学大学院、岩手大学大学院、
静岡県立大学大学院など
<就職>
食品開発メーカー(キリン、理研)、インフラ企業(JR東日本)、精密機器製造業(カシオ)、
食品サービス業、環境整備業、メディア業、地方公務員、中学高校教員(福島、神奈川)など
*理工学研究科を修了された修士学生さんは、理系研究・技術員者として全国規模企業の開発職や技術職に就職しています。
*学部卒業生も、地元企業や公務員、教員などに就職して活躍しています。
最近のニュース
2023年5月 第77回日本栄養・食糧学会大会(@札幌)にて、シンポジウム発表(小酒井)、ポスター発表(M2安喰、M1工藤)
SY11「消化管粘膜の機能と管腔内成分」シンポジウムにて「食品芳香成分ゲラニオールによる腸管神経叢を介した大腸機能の制御」を講演発表
2023年8月 北里大学獣医学部との共同研究がPoultry Science誌で論文発表「Development of active jejunal glucose absorption in broiler chickens. 2023 Aug;102(8):102804. doi: 10.1016/j.psj.2023.102804.」
2023年8月 地域教育文化学部フィールドプロジェクト(実践型社会実習演習)にて、マタギおよびジビエ学習のために小国町訪問
2023年9月 北海道大学・玖村先生、日本獣医生命科学大学・三浦先生、岡山大学・荒川先生が来学
2023年11月 第57回日本栄養食糧学会東北支部会において修士1年・工藤龍河くんが優秀発表賞を受賞
ゲラニオールは揮発性のイソプレノイド・アルコール体で、バラの香りを有するため香料として食品に添加されています。また、酵母の発酵でも産生され、日本酒やワインなどの風味深さを生み出すと言われています。バラの香りを有するゲラニオールが大腸内腔から腸管神経叢を活性化させることは栄養生理学的に非常に興味深い知見で、高齢時に乱れがちな正常な排便習慣や便秘防止に効果があるのではないかと期待されます。
2023年12月 Sravan Kumar Goparaju 博士が来学、 iPS細胞からの神経細胞分化に関する研究を紹介
2024年2月 理学部卒業論文発表会にて、理学部・4年の小橋くん、渡辺さんが発表
2024年3月 学術雑誌「地域実践研究」の創刊が決定
兼ねてから小酒井が準備メンバーとして発刊を目指していた「地域系学術論文」を発表する学術雑誌「地域実践研究」の創刊が決定しました。愛媛大学社会共創学部にて第1回編集委員会が開催され、今後の創刊スケジュールが決まりました。今後の文理融合研究の発表が盛んになると思います。きっと、10年後の日本にとって有意義な研究が発表されることでしょう。
2024年4月 新しい4年生メンバー3人が決定
小酒井研究室から2名の理学部生(小橋くん、渡辺さん)が羽ばたき、新たに3名の学生(宇津木くん、蝦名くん、村上くん)の配属が決まりました。これから1年、頑張っていきましょう。
2024年8月 第71回食品科学工学会@名古屋にて、学会発表
小酒井研究室から2名の学生が、「回腸上皮細胞における能動的イオン輸送及び水分泌に及ぼすタウロコール酸の影響」(宇津木力基トーマスくん)、「マウス結腸における管腔側ゲラニオール刺激によるセロトニンを介した粘膜下神経の興奮」(工藤龍河くん)名古屋での全国大会で発表しました。
2024年10月 新しい4年生メンバー1人が決定
小酒井研究室に理学部の学生(北條くん)の配属が決まりました。これから1年、頑張っていきましょう。
2024年月10月18日 第32回スパイス&ハーブ研究成果セミナーにて研究成果講演会
小酒井が、「ショウガ香辛料成分刺激による腸内分泌細胞からの脳腸ペプチド放出動態に関する研究」(公益財団法人・山崎香辛料振興財団@東京KABUTO ONE)を招待講演いたしました。」
2024年月12月 日本栄養食糧学会東北・北海道合支部会@函館にて学会発表
小酒井研究室修士2年・工藤くんが、「回腸におけるタウロコール酸誘導性能動的イオン輸送の作用機序」を発表しました。あいにく、当日は体調不調になってしまい、急遽、小酒井が発表することになりました。
2025年2月 理学部修士論文・卒業論文発表会にて、修士2年工藤くん、4年宇津木くん、村上くん、蛯名くんが成果を発表しました。修士2年工藤くんは生物領域の修士・最優秀論文賞を、宇津木くんも学部・優秀論文賞を、それぞれ受賞しました。みなさん、1年間の成果を頑張ってスライドにしたうえで、発表原稿を暗記してポインターで指しながら、丁寧に発表していました。がんばりました。
2025年4月 新しい3年生メンバー1人が決定
小酒井研究室に地域教育文化学部3年生(大江さん)の配属が決まりました。地域教育文化学部の学生さんが小酒井研究室へ配属希望するのは2年ぶりですね。食品栄養成分の生理・薬理的機能に興味があるとのこと。ぜひ、興味を広げて、大いに研究・勉学に励んでほしいです。私も頑張ります。
2026年4月 新しい4年生メンバー3人が決定
小酒井研究室に理学部4年生(大島さん、小原くん)、地域教育文化学部4年(大江さん)が正式に配属になりました。生物の不思議な能力、特に、小酒井研では腸管の機能に興味関心を持ってもらい、研究・勉学に励んでほしいです。元気出して、頑張っていきましょう。