"デジタル時代に適したビジネス" を創り、回し、成長させる
0. イントロダクション
私たち株式会社DXパートナーズが開発したDXの科学的実践方法論「DXの科学」のすべてを本編でお伝えします。「DXの科学」は、「"デジタル時代に適したビジネス" とは何か?」、「"デジタル時代に適したビジネス" をどう創り、回し、成長させるか?」という問いに答えることを目的に開発したものです。本章は、そのイントロダクションです。
第I部 学修編から第II部 実践編へ
この第I部 学修編と第II部 実践編はペアになっています。まず、本編で "デジタル時代に適したビジネス" の本質と実現方法論を学び、その後、実践編で "デジタル時代のビジネス" 創出をPBL (プロジェクトベーストラーニング) で実施します。
さぁ、第I部 学修編、始めましょう
なぜ、DXの科学的実践方法論「DXの科学」?
そもそも、なぜ私たちはDXの科学的実践方法論を開発しようと思い至ったのでしょうか? しばらく、"DX (デジタル変革)" という言葉は脇において、ゼロから考えてみたいと思います。
いま我々が置かれているのは‥
まず、いま我々が置かれている社会状況、ビジネス状況から見てみましょう。
いま我々が置かれているのは…
竜巻のような "デジタル社会" !
いま我々が置かれているのは、竜巻のように強力かつ高速な "デジタル社会" です。これは、今までの "アナログ社会" とはまったく異なる様相を示しています。
いま我々が置かれている
竜巻のような "デジタル社会" で、
我々は何をやるべきか?
この竜巻のような "デジタル社会" で、我々は一体何をやるべきでしょうか? 私たちが関わっているビジネスの世界でどんな手を打つべきでしょうか?
いま我々が置かれている
竜巻のような "デジタル社会" で、
我々は何をやるべきか?
ビジネス上で考えられる選択肢は3つあります。一つは業務改善、二つ目は事業変革、そして三つ目は事業創出。
我々がやるべきは業務改善?
この竜巻のようなデジタル社会の中で我々がやるべきことは、アナログ時代に創られた事業の "業務改善" でしょうか?
我々がやるべきは業務改善?
業務改善とは、大工仕事に例えると、アナログ時代に建てられた家屋の "内装工事" や "リフォーム" に相当するものです。
我々がやるべきは業務改善?
どんなに立派に "内装工事" や "リフォーム" を施しても、アナログ時代に建てられた家屋ですから、デジタル社会という竜巻に家ごと吹き飛ばされてしまうかも知れません。
デジタル破壊されるかも!
すなわち、竜巻に "デジタル破壊" されてしまうかも知れません。
デジタル破壊?
その "デジタル破壊" とはなんでしょうか?
DIGITAL DISRUPTION / デジタル破壊
"デジタル破壊" とは、ジェイムズ・マキヴェイ氏の著書、その名も「DIGITAL DISRUPTION」の中で提起された概念です。
デジタル破壊とは‥
同書における "デジタル破壊" の定義は左図の通りです。クレイトン・クリステンセン氏の提起した "破壊的イノベーション" の "デジタル版" と捉えていいでしょう。デジタル破壊の特徴は、(1) 無料、(2) シンプル、(3) 迅速の3つの単語に集約されています。ちなみに、同書が出版されたのは2013年で「次世代の破壊的イノベーションとして、大きな潮流となりつつある」と現在進行形で記載されていますが、10年経過した現在では「大きな潮流となった」と現在完了形で言っていいと思います。
デジタル技術は "はやい、やすい、うまい" の三拍子が揃った技術
デジタル破壊の (1) 無料、(2) シンプル、(3) 迅速の3つの特徴は、デジタル技術が有する "はやい、やすい、うまい" の三拍子に由来するものです。"はやい" は、たとえばインターネット上に様々な便利なデジタルツールが提供されており、製品/サービスの構成に必要な機能をすぐに入手できることを意味します。さらに、それらのデジタルツールの多くは無料で提供されており、"やすく" 仕上げることが可能です。さらに、重要なのは "うまい" です。これは、デジタル技術の有する "四則演算的能力" の "掛け算" に相当します。つまり、デジタル技術はその他の技術や製品/サービスに掛け合わせることが可能で、その掛け算により従来の製品/サービスを簡単にリニューアルすることができます。
デジタル技術の能力 "四則演算"
そのデジタル技術の能力を "加減乗除" の4つの演算に分類すると、左図のようになります。従来のアナログ技術の多くは、"加減算" 的能力、すなわち、従来の技術を "減算" し、その跡に当該技術を "加算" する場合がほとんでした。これに対して、デジタル技術は "加減算" 的能力に加えて、"乗除算" 的能力を備えているところが大きな違いとなります。"乗算" 的能力は前述の通りです。"除算" 的能力については後ほど紹介します。
しかしながら、…
このようなデジタル破壊の話をしても、「いや〜うちの業界はアナログだから、デジタル破壊者なんて出てきませんよ‥」といった反応をされる方が結構いらっしゃいます。
アマゾンエフェクト、忘れてませんか?
でも、忘れてませんか、アマゾンエフェクトを! 2019年までの3年間でアメリカ国内の小売店が1万店減少した、あのアマゾンエフェクトです。この1万店の中には、大手小売企業のシアーズ やトイザらス、フォーエバー21が含まれています。別に大企業が中小企業を経営破綻に追いやったわけではありません。
Amazon.com、何を売ってますか?
そのAmazon.com、何を売っているのでしょうか? そう、最初は書籍、その後は日用品、今でこそAWSでデジタルなクラウドコンピューティングを売ってますが、本業はアナログな商品を売っている企業です。後から述べます通り、「アナログな〇〇も売るソフトウェア企業」というのが実態です。ですから、皆さんの業界がアナログだからと言って、デジタル破壊者が現れないという保証はどこにもありません。
業務改善はNO!
結局、竜巻のようなデジタル社会、デジタル破壊の渦中、業務改善では心元ありません。では、事業変革、事業創出はどうでしょうか?
既存事業の変革はOK!
事業変革、先の大工仕事に例えると、竜巻に備えてアナログ時代に建てた建物をリノベーション、大規模修繕するようなものです。その方法論にも依りますが、ひとまずOKと考えて良いと思います。ただ、あくまでも方法論に依ります。この方法論については後述します。
もちろん新規事業創出もOK!
新規事業創出は、竜巻に備えてデジタル時代に適した建物を新築するようなものです。これも事業変革と同じくその方法論に依りますが、まずはOKです。くどいですが、あくまでも方法論に依ります。この方法論については後述します。
いま我々が置かれている
竜巻のような "デジタル社会" で、
我々は何をやるべきか?
以上まとめると、業務改善はNO、事業変革と事業創出はOKとなります。
いま我々が置かれている
竜巻のような "デジタル社会" で、
我々は何をやるべきか?
では、その事業変革と事業創出、どうやるか、どんなビジネスをやるかを見てみたいと思います。
どうやるか? どんなビジネスをやるか?
事業変革と事業創出の方法論、および、変革・創出結果のビジネスにどんな選択肢があるのでしょうか?
どうやるか?
まず、方法論の選択肢です。これには、(1) デジタルに置換、(2) デジタルを活用、(3) デジタルを前提、の3つがあります。
どんなビジネスをやるか?
次に、変革・創出の結果生まれるビジネスに関する選択肢です。これは、左図に示すように、目的となる (a) 業務改善、(b) 事業変革、(c) 事業創出の3つに、方法論である (1) デジタルに置換、(2) デジタルを活用、(3) デジタルを前提の3つを掛け合わせた3×3=9通りの組み合わせが可能となります。
業務改善 × デジタルに置換
まず、"業務改善 × デジタルに置換" を見てみましょう。方法論としての "デジタルに置換" ですが、これはすでにNGとなった業務改善のための方法論となります。実は、日本においてDXと言った場合、この組み合わせをイメージする方が圧倒的に多いです。現に、日々流布されるDX関連のニュース、IT業界情報、広告等、この範疇に分類されるものがほとんどです。結果、日本企業の多くのDXはこの範囲で留まっていますし、政府や地方自治体の各種DX施策もここを対象にしたものが圧倒的に多い状況です。
デジタルに置換
その "デジタルに置換" ですが、これは経営資源の一部を従来のアナログリソースからデジタルリソースに置換することを意味します。左図のアナロジーで言うと、従来の貸しレコード店が経営資源のアナログレコードをCDに置き換えてCDレンタルショップになったようなものです。この方法論では業務改善には使えても、これだけでは事業変革や事業創出は到底無理です。
業務改善 & 事業変革 & 事業創出 × デジタルを活用
上記の状況に危機感を抱き、「このままだと危ない」と警鐘を鳴らしているのが経済産業省です。経済産業省のDXの定義を見ると「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」となっており、"データとデジタル技術を活用" をその方法論に据えています。確かに "デジタルを活用" はデジタル時代に適したビジネスへの変革やビジネスの創出には必須ですが、これだけでは不十分です。その理由は後述します。
デジタルを活用
方法論としての "デジタルを活用" は、左図のアナロジーで言うと、AppleがCDレンタルショップのビジネスプロセスをとことん "デジタル活用" して、ネット上のECサイト「iTunes Music Store (iTMS)」を新規事業としてローンチしたことに該当します。
"デジタルを活用" の限界
しかしながら、このiTMS、2003年に誕生、2000年代後半に最盛期を迎えたものの、後述する "デジタルを前提" に2008年に事業創出したSpotifyによってデジタル破壊され、2015年には「Apple Music」に主役の座を譲ることになります。
デジタルを前提
方法論 "デジタルを前提" の位置付けを左図に示します。"デジタルを活用" と "デジタルを前提" の違いについては、後ほど詳しく説明します。
なぜAppleはSpotifyに負けたのか?
"デジタルを活用" と "デジタルを前提" の違い、それはAppleがなぜSpotify に負けたのかの理由を説明するものでもあります。
事業変革 & 事業創出 × デジタルを前提
AppleのiTMSの例が示すように、事業変革や事業創出には "デジタルを活用" だけでは不十分です。Spotifyの成功から言えるように、デジタル時代に適したビジネスに変革、または、ビジネスを創出するには "デジタルを前提" が必須となります。
Appleのデジタル変革
ちなみに、AppleはiTMSがSpotifyにデジタル破壊されたのを受けて、2015年に別の音楽配信サービス「Apple Music」をローンチ、大成功しています。これは、"デジタルを前提" に既存事業であるiTMSをデジタル変革したことに相当します。
事業変革 & 事業創出 × デジタルを前提
これまでの説明からお分かりの通り、いま我々日本企業が取り組むべきは、"デジタルを前提" に既存事業を変革する、あるいは、新規事業を創出することです。
"デジタルを前提にしたビジネス" をどう創り、回し、成長させるか?
では、その "デジタルを前提にしたビジネス" をどう創り、回し、成長させるか? これが、私たちが答えを出すべき問いとなります。
なぜ、DXの科学的実践方法論「DXの科学」?
やっと、「なぜ、私たちがDXの科学的実践方法論「DXの科学」を開発するに至ったか」の理由に辿り着きました。その理由は左図に示す通り、「デジタルを前提にしたビジネス、デジタル時代に適したビジネスをどう創り、回し、成長させるか」、この問いに答えを出すことです。
DXの科学的実践方法論「DXの科学」を構成する2つの問いと2つの理論
「DXの科学」は左図に示す通り、答えを出すべき2つの問い、および、その答えである2つの理論から成っています。左側の組みが記述的な問いとその答えである記述的理論、右側の組みが規範的な問いとその答えである規範的理論になります。
規範的な問いと規範的理論
右側の規範的な問いと規範的理論については、本章に続く第1章〜第3章で「どう創る?」、「どう回す?」、「どう成長させる?」を章を分けて詳述します。
第I部 学修編 プログラム構成
本編では上述の通り、第1章〜第3章で「どう創る?」、「どう回す?」、「どう成長させる?」を章毎に詳述します。さらに、第4章で「日本企業のための処方箋」を提案します。
記述的な問いと記述的理論
この第0章の残りで、記述的な問いと記述的理論を展開したいと思います。
記述的な問いと記述的理論
展開の仕方は次の通りです。まず、記述的な問いですが、「なぜデジタル時代のビジネスなのか? なぜアナログ時代のビジネスではダメなのか?」、「"デジタル時代に成功し成長するビジネス" の本質は何か?」に定めます。そして、"創る"、"回す"、"成長させる" の3つそれぞれに対して、「WHY: なぜデジタル時代のビジネス? 回し方? 成長のさせ方?」から始め、「HOW: それをどう実現した?」、「WHAT: 結果、何になった?」と3段階で答えを求めて行きます。
"デジタル時代のビジネス" 8人のロールモデル
上記の問い立てに対する答えを求める際に参考にしたのが、左図の8人の "デジタル時代のビジネス" ロールモデルです。いずれもデジタル破壊者、ないし、デジタル変革者になります。
得られた答え
結果として得た答えを左図に示します。「WHY: なぜデジタル時代のビジネス? 回し方? 成長のさせ方?」に対する答えが "8つの相違点"、「HOW: それをどう実現した?」に対する答えが "8つの変革ルール"、そして「WHAT: 結果、何になった?」に対する答えが、"3つの正体" となります。詳しくはこの後に述べます。
まとめ
本章「イントロダクション」のまとめです。
DXの科学的実践方法論「DXの科学」
「DXの科学」は、記述的理論と規範的理論から成っています。
DXの科学的実践方法論「DXの科学」: 記述的理論
本章では、これら2つの理論のうち、記述的理論について詳述しました。
「DXの科学」記述的理論の全体像
左図が、本章で展開した記述的理論の全体像になります。
「WHY: なぜデジタル時代のビジネス? 回し方? 成長のさせ方?」
まず、最初の問い「WHY: なぜデジタル時代のビジネス? 回し方? 成長のさせ方?」に対する答えが、"8つの相違点" です。
「WHY: なぜデジタル時代のビジネス? 回し方? 成長のさせ方?」に対する答え: 8つの相違点
相違点1: 顧客価値体系とエコノミーの違い
相違点2: 顧客価値交換・共創の場の違い
相違点3: ビジネスの像 (かたち) の違い
相違点4: ビジネスとデジタル技術&データとの関わり方の違い
相違点5: 顧客価値とビジネスの創り方の違い
相違点6: 稼ぎ方の違い
相違点7: ビジネスの回し方の違い
相違点8: ビジネスの成長のさせ方の違い
「HOW: それをどう実現した?」
2番目の問い「HOW: それをどう実現した?」に対する答えが、"8つの変革ルール" です。
「HOW: それをどう実現した?」に対する答え: 8つの変革ルール
変革ルール1: デジタル時代に適した顧客価値体系とエコノミーへの変革
変革ルール2: デジタル時代に適した顧客価値交換・共創の場への変革
変革ルール3: デジタル時代に適したビジネスの像 (かたち) への変革
変革ルール4: デジタル時代に適したビジネスとデジタル技術&データとの関わり方への変革
変革ルール5: デジタル時代に適した顧客価値とビジネスの創り方への変革
変革ルール6: デジタル時代に適した稼ぎ方への変革
変革ルール7: デジタル時代に適したビジネスの回し方への変革
変革ルール8: デジタル時代に適したビジネスの成長のさせ方への変革
「WHAT: 結果、何になった?」
最後の問い「WHAT: 結果、何になった?」に対する答えが、"3つの正体" です。
「WHAT: 結果、何になった?」
この問いは、「デジタル破壊者、デジタル変革者とは何者か?」とも言い換えることができます。
「WHAT: 結果、何になった?」に対する答え: 3つの正体
"3つの正体" とは、"創る: 顧客価値交換・共創の場の提供者"、"回す: アナログな〇〇も売るソフトウェア企業"、そして、"成長させる: ネットワーク効果の実践者" になります。
DXの科学的実践方法論「DXの科学」: 規範的理論
「DXの科学」を構成するもう1つの理論、規範的理論についてです。
「DXの科学」規範的理論の全体像
左図が、続く第1章〜第3章で展開する規範的理論の全体像となります。各章では以下の5つの理論を展開します。
第1章 "創る: 規範的理論": ① 場の創造理論、② 顧客価値創造理論
第2章 "回す: 規範的理論": ③ バリュースティック理論、④ CPSS (サイバーフィジカルソーシャルシステム) 理論
第3章 "成長させる: 規範的理論": ⑤ コールドスタート理論
第I部 学修編 プログラム構成: 第1章〜第3章
対応するプログラム構成を左図に示します。
第I部 学修編 プログラム構成: 第4章
残る第4章「日本企業への処方箋」の導入部を紹介して、本章のまとめとします。
なぜ日本では "デジタル破壊者" が出てこないのか?
私たちが「DXの科学」を開発した理由は、前述した通り「デジタルを前提にしたビジネス、デジタル時代に適したビジネスをどう創り、回し、成長させるか」、この問いに答えを出すことでした。これに加えて、もう1つ、「なぜ日本では "デジタル破壊者" が出てこないのか?」、これにも答えを出す必要を感じていました。
"デジタル破壊者" の先駆たち
本章で登場した8人の "デジタル時代のビジネス" ロールモデルをはじめとして、海外では多数のデジタル破壊者、デジタル変革者が誕生しているのに、なぜ日本には彼ら、彼女らに匹敵するようなデジタル破壊者、デジタル変革者が出てこないのでしょう。以下、8人のロールモデルを改めて見てみましょう。
"デジタル破壊者" ジェフ・ベゾス氏 vs. "デジタル変革者" ダグ・マクミラン氏
デジタル破壊者の筆頭格は、Amazon.com創業者のジェフ・ベゾス氏です。1994年の創業から僅か30年で、同社を売上規模50兆円超の世界第3位の企業の成長させました。ジェフ・ベゾス氏から学ぶべきことは多岐にわたり、この後登場するDBS Bank Ltd. CEOのピユシ・グプタ氏は、同行のDX実行に際し全行員に向けて「ジェフならどうする?」と考えることを推奨した程です。一方、デジタル変革者の代表格には、Amazon.comの挑戦を受けて立ち、DXを着実に成功させている、かつ、売上規模60兆円超の世界第1位の座を維持しているWalmart CEOのダグ・マクミラン氏を挙げたいと思います。両社はいま、"デジタル時代に適したリテールビジネス" の有り様を巡って、熾烈な戦いを繰り広げています。
"デジタル破壊者かつ変革者" スティーブ・ジョブ氏 vs. "デジタル破壊者" ダニエル・イク氏
Apple創業者のスティーブ・ジョブ氏とSpotify創業者のダニエル・イク氏の戦いについては、上記ならびに「成長させる: 記述的理論」で既に紹介した通りです。Appleはこれまでも様々な破壊的イノベーション、デジタル破壊を繰り出してきました。が、2003年にローンチしたiTunes Music Store (iTMS) は、2008年ローンチのSpotifyに逆にデジタル破壊されてしまいました。しかし、その後、しっかりとiTMSにデジタル変革を施し、2015年にApple Musicとして見事に再生・復活しています。
"デジタル変革者かつ破壊者" アマンシオ・オルテガ氏
ZARAブランドで知られるInditex創業者のアマンシオ・オルテガ氏は、まだデジタル時代が到来する遥か以前の1975年、それまでの下請け縫製事業を "事業変革" して自社ブランドZARAを立ち上げました。そのビジネスモデルの独自性については、既に「回す: 記述的理論」で紹介した通りですが、結果としてそれまでのトレンドファッション、ファストファッション業界にデジタル破壊を引き起こしました。同社は2009年にそれまでの売上世界1位だったGAPを抜き、それ以降、売上世界1位の座を保っています。
"デジタル変革者かつ破壊者" ピユシ・グプタ氏
「成長させる: 記述的理論」で紹介したシンガポールのDBS Bank Ltd. CEOのピユシ・グプタ氏も従来の銀行業、しかも、開発銀行 (同行の元々の名前はDevelopment Bank of Singapore / シンガポール開発銀行) というどちらかと言えば地味な存在の銀行業を2012年からデジタル変革、結果として銀行業界にデジタル破壊を引き起こしました。2016年から連続して「世界のベストデジタルバンク」各賞を総なめして受賞しています。
"デジタル破壊者" トラビス・カラニック氏とギャレット・キャンプ氏
トラビス・カラニック氏とギャレット・キャンプ氏が2009年に創業したUberがタクシー業界にどうデジタル破壊を引き起こしたかは、「創る: 記述的理論」で紹介した通りです。加えて、"ビジネスとデータとの関わり方" に関しても、"データを活かした顧客価値創造"、"データ創りに投資" の好事例と言えます。
"デジタル変革者かつ破壊者" リード・ヘイスティングス氏
8人目のロールモデルは、1997年設立のNetflix創業者のリード・ヘイスティングス氏です。当初は、(これも世界初でしたが) ウェブサイトでのDVDレンタルサービスから始め、2007年にこれをオンデマンド型の映像ストリーミング配信サービスへとデジタル変革しました。その後、オリジナル作品制作を開始、ストリーミング受信者の視聴行動データに基づく作品制作プロセスの最適化により、これまでのハリウッド主体の映画業界にデジタル破壊をもたらしています。
なぜ日本では "デジタル破壊者" が出てこないのか?
さて、上記で紹介したようなデジタル破壊者、デジタル変革者が日本でなかなか生まれないのはなぜでしょうか? ここで、1つの仮説を立ててみたいと思います。
ビジネスを "点"、"線"、"面" の3タイプに分類
まずは、ビジネスを "点" 的、"線" 的、"面" 的の3つのタイプに分類してみましょう。
"点" のビジネスとは、たとえば競争優位性に優れた製品/サービスで勝負するタイプ。
"線" のビジネスは、たとえばサプライチェーン等の製品/サービスの流れやビジネスの仕組みで稼ぐタイプ。
"面" のビジネスは、ビジネスに関与するステークホルダー間の様々な取引、トラフィックを増やすことで、"面" を大きくし収益を上げるタイプ。
デジタルに置換、デジタルを活用、デジタルを前提をこれにマッピングすると‥
次に、先に議論した "デジタルに置換"、"デジタルを活用"、"デジタルを前提" をこの "点-線-面" にマッピングしてみましょう。結果、"デジタルに置換" は点に、"デジタルを活用" は線に、そして、"デジタルを前提" は面にマッピングするのが適当なようです。たとえば、"デジタルに置換" は、経営資源の一部をアナログリソースからデジタルリソースに置換、すなわち、"点" を対象とした施策に相当します。"デジタルを活用" は、"線" に相当するビジネスプロセスの構築や再構築にデジタルを活用します。最後の "デジタルを前提" では、たとえば、人と人、組織と組織、機械と機械等が常時繋がっていることを前提にビジネス、特にビジネスを行う "場" = "面" を創ります。
日本企業が好むDX、および、苦手なDXから推論すると‥
ここで、先に見ました「日本企業の大部分が取り組んでいるDX、好んで取り組んでいるDXはどれか?」、「日本企業が本来取り組むべきDX、苦手としているDXはどれか?」を "点-線-面" にマッピングすると左図のようになります。これから、次の仮説が導かれます。
仮説その1 日本企業は "面" のビジネスが苦手
"面" のビジネスと同じ位置付けの "デジタルを前提" を苦手とする日本企業。このことから、「日本企業は、"面" のビジネス、つまり、自ら "場" を創って回すビジネスを構想するのが苦手、あるいは、その重要性そのものを認識していない」との仮説が導かれます。
反論 "面" のビジネスって重要?
この仮説に対する素直な反論として、「"面" のビジネス、自ら "場" を創って回すビジネス、そんなに重要ですか?」という声が聞こえてきそうです。
そこで再度問います。デジタル破壊者、デジタル変革者とは何者ですか?
そういった反論に対応するため、もう一度、本章で問うた「“デジタル時代に成功し成長するビジネス” の本質は何か?」に対する答えを確認したいと思います。
デジタル破壊者、デジタル変革者の3つの正体
その答えは、「創る: 顧客価値交換・共創の場の提供者」、「回す: アナログな〇〇も売るソフトウェア企業」、「成長させる: ネットワーク効果の実践者」。すなわち、「顧客価値交換・共創の "場" を自ら創り提供し、それをソフトウェア企業のように回し、そして、"場" のネットワーク効果を最大限に発揮させて成長する」ビジネスということになります。
"点" は基本中の基本
もちろん、"点" は基本中の基本です。たとえば、顧客はビジネスにおいては "点" 的な存在です。その顧客の重要については、ピーター・ドラッカー氏の名言「ビジネスの目的は顧客の創造である」で言い尽くされています。
「顧客の創造」とは‥
この「ビジネスの目的は顧客の創造である」により、製品/サービスという "点" のプロダクトアウトを主とするビジネスから、顧客という別の "点" を創造する "マーケットイン" のビジネスにシフトしたことは記憶に新しいと思います。しかしながら、このマーケットイン型の "点" のビジネスが有効だったのは、アナログ時代までだったのではないでしょうか?
デジタル時代は「場の創造」
では、デジタル時代のビジネスの目的は何でしょうか? それに対する1つの答えを当社シニアパートナーの村上和彰は、「顧客と場の創造である」としています。
「顧客と場の創造」とは‥
ドラッカー氏の「顧客の創造」がプロダクトアウト型の "点" のビジネスからマーケットイン型の "点" のビジネスへのシフトを促したとしたら、村上の「顧客と場の創造」は同じプロダクトアウト型の "点" のビジネスをマーケットイン型の "面" のビジネスにシフトすることを促すものです。
再掲 なぜ日本では "デジタル破壊者" が出てこないのか?
仮説その1が概ね支持されると仮定して、再度尋ねます。なぜ日本では "デジタル破壊者" が出てこないのでしょうか?
日本企業が好むDX、および、苦手なDXから再度推論すると‥
先ほど仮説その1を導き出した時に用いた左図を再度用います。この図から次のことが推論できます。
日本企業が好むDX、および、苦手なDXから再度推論すると‥
それは、"点" のビジネスや "デジタルに置換" のように「表層的で見えやすい」ものを好む傾向があるというものです。一方、"面" のビジネスや "デジタルを前提" のように「本質が見えにくい」ものは好まないのではないでしょうか? これから、次の仮説が導かれます。
仮説その2 日本企業は本質を探るのが苦手
導かれた仮説は、「モノ・コトの表面、表層しか見ていない。モノ・コトの本質を探るのが苦手である」というものです。
仮説その2 日本企業は本質を探るのが苦手
では、どうしましょう。
デジタル時代のビジネスの本質に迫る!
それには、常に "デジタル時代のビジネス" の本質に迫るよう訓練をするのが一番です。その効果的な方法は左図に示すように、(1) 抽象化、(2) 本質で考える、(3) 具象化の3つのプロセスから成ります。本編の第I部、および、第II部 実践編の役割も以下の通り、この3つのプロセスに従っています。
抽象化する: 第I部 学修編 第0章 "創る"、"回す"、"成長させる" の記述的理論を構築
本質で考える: 第I部 学修編 第1章〜第3章 "創る"、"回す"、"成長させる" の規範的理論を構築
具象化する: 第II部 実践編 "創る"、"回す"、"成長させる" を規範的理論に従って実践
振り返り
第I部 学修編 第0章はここまでです。上記を学んで得た気づきを言語化してみましょう。そして、それを周囲の方と共有しましょう。この "振り返り" により、学びをより深化させることが可能となります。
Thank you!
次は第1章で、"創る" の規範的理論、すなわち、「デジタル時代のビジネスをどう創るか?」について学びます。どうもお疲れ様でした。