自家不和合性や雄性不稔性の分子遺伝学的研究


アブラナは自家不和合性という興味深い性質を持っています。これは、自分の花粉で受粉(自家受粉)すると種子が出来ないが、別の個体の花粉で受粉(他家受粉)すると種子が出来るという性質で、近親交配を防ぐために植物が持っている機構です(Kitashiba and Nasrallah 2014 Breed Sci 64, 23-37)。野生の植物や園芸植物にこの性質を持つものが多く見られます。雌しべが自己花粉と非自己花粉を識別して、自己花粉の花粉管伸長を特異的に阻止することが分かっていますが、その分子機構の研究は、アブラナを材料とした研究が最も進んでいます。自家不和合性は、S遺伝子座にある花粉側自己認識分子の遺伝子SP11(SCR とも言う)と雌しべ側の受容体の遺伝子SRK によってもたらされ、これら遺伝子は多数の複対立遺伝子を持ちます。2 つの遺伝子間での組換えはほとんど起こらず、SP11 とSRK の1 つの対立遺伝子の組をSハプロタイプと呼びます。花粉と雌しべが同じSハプロタイプのSP11 とSRK によって作られるタンパク質を持っていると、自己花粉と認識され、花粉管伸長が阻害されます。