アブラナのSハプロタイプの間には優劣関係があります。SP11 の優劣関係は劣性遺伝子側の転写の抑制によることが分かっています。しかし、優性側のSP11 遺伝子が転写されていなくても劣性側SP11 遺伝子の転写抑制が起こることや、優性側のSP11 遺伝子そのものが無くても劣性側SP11 遺伝子の転写抑制が起こること見出しました(Fujimoto et al. 2006 Plant Mol Biol 61, 577-587)。SRK 側の優劣性は転写制御によらないことが分かっていますが、その機構は不明であり、Sハプロタイプの優劣関係はまだまだ謎に満ちています。
U の三角形を構成する複二倍体種が全て自家和合性であり、その祖先ゲノムを単一で持つ種が全て自家和合性であることに着目し、今その原因を調べています。セイヨウナタネ(B. napus)はB. rapa が持つAゲノムとB. oleracea が持つCゲノムを併せ持ちますが、品種によりいくつかのS遺伝子型を持ちます。調べた3 種類のS遺伝子型の自家和合性は、いずれもAゲノム側の優性を示すSハプロタイプの突然変異により生じたことが明らかとなりました(Okamoto et al. 2007 Plant J 50, 391-400; Tochigi et al. 2011 Theor Appl Genet 123, 475-482)。
アブラナでは、1 つの種に約50~100 種類のSハプロタイプがあると推定されています。B. rapa のSハプロタイプの収集は、約40 年前に当研究室で開始され(Nishio and Hinata 1978 Jpn J Genet 53, 27-33)、その後も継続され(Nou et al. 1993 Sex Plant Reprod 6, 79-86)、現在では約40 種類保有しています。B. oleracea のSハプロタイプは、英国のOckendon 博士より提供を受け、日本の品種に利用されているものも収集して、約50 種類保有しています。ダイコンのSハプロタイプは、約20 種類保有しています。これらは世界で最も充実したSハプロタイプのコレクションであり、B. rapa、B. oleracea、ダイコンのSハプロタイプの増殖は、それぞれカネコ種苗、サカタのタネ、タキイ種苗の協力を得て行いました。
自家不和合性は、アブラナ科野菜の一代雑種品種の採種に利用されていますが、自家不和合性の強度や安定性はSハプロタイプによって異なることから、Sハプロタイプの同定技術が求められています。現在広く利用されているSハプロタイプ同定法は、SLG 遺伝子のPCR-RFLP分析法(Nishio et al. 1996 Theor Appl Genet 92, 388-394)ですが、SLG 遺伝子を持たないSハプロタイプもあることから(Sato et al. 2002)、直接自己認識に関わるSP11 遺伝子の分析による方法を開発しました(Fujimoto and Nishio 2003 Theor Appl Genet 106, 1433-1437)。しかしこの方法はやや高度な分析技術を必要とすることから、改良を加え、より簡易に分析できる方法にしました(Takuno et al. 2010 Theor Appl Genet 120, 1129-1138; Oikawa et al. 2011 Mol Breed 28, 1-12)。