イネやナタネの環境ストレス耐性遺伝子に関する研究


1. イネの耐冷性遺伝子の研究

 東北地方のイネ育種において、冷害に強い品種を作ることが最も重要な目標でした。温暖化したとはいえ、数年に一度は冷夏になり、花粉形成に障害が起こり、不稔籾が増加します。「ひとめぼれ」は冷害に強い品種として「ササニシキ」に取って代わりましたが、平成5 年よりも厳しい冷夏に見舞われると、「ひとめぼれ」であっても大きく減収する可能性があるため、更なる耐冷性の強化が求められます。

 中国雲南省のイネ品種「麗江新団黒谷」は、極めて強い穂ばらみ期耐冷性を持つことから、「ひとめぼれ」との戻し交雑後代で「ひとめぼれ」より強い耐冷性を持つ「羽系840」が東北農業研究センターで育成されています。耐冷性検定圃場を持つ東北農業研究センターと共同で研究を行い、「羽系840」と「ひとめぼれ」のF2 集団を用い、「麗江新団黒谷」と「ひとめぼれ」の間で多型を示すSNP マーカーを多数作成して遺伝分析し、第3 染色体の長腕末端近傍にQTL を検出しました。そのQTL を含む準同質遺伝子系統を多数作成して耐冷性の評価を行い、耐冷性遺伝子を800 kb の領域内に絞り込みました。その800 kb の塩基配列を決定して比較し、150 のSNP を見出し、耐冷性遺伝子の候補を4 つに絞り込みました(Shirasawa et al. 2012 Theor Apple Genet 124, 937-946)。これら4 つの遺伝子の間で組換わった系統を作成して耐冷性を評価し、どの遺伝子が耐冷性遺伝子であるかを見出そうとしています。また、これらの遺伝子を用いた形質転換体を作成して耐冷性評価を行おうとしていますが、遺伝子組換え植物となることから、耐冷性検定圃場を使った大規模な検定が行えず、遺伝子の解明に時間がかかっています。