Rrsの周波数依存性に関しては、1960年代のGrimbyとTakishimaの報告(J Clin Invest. 47:1455-65, 1968.)が知られる。COPDや喫煙者の一部でオシレーション波の周波数が低いほどRrsが高くなる周波数依存性がみられるが、非喫煙健常者では周波数依存性が認められなかった。このようなCOPDおよび喫煙者の一部にみられる周波数依存性は広く知られることになり、MostGraphをはじめとする多くの機器で、R5-R20(5Hzと20HzのRrsの差)と表記されているものはRrsの周波数依存性の程度を表す指標として用いられる。なお、R5-R20は末梢気道抵抗と関連づけて論じられることがある。末梢気道抵抗の絶対値とみる見方は誤りであるが、オシロメトリー以外で得られる末梢気道に関連すると考えられている指標とは有意な関係を有する結果となる場合がある。また、中枢気道病変でもRrsの周波数依存性が明らかな、すなわちR5-R20が高値となる例もよく知られている。Rrsの周波数依存性は換気不均等や乱流などの流体力学的な要素に影響される。気道の末梢領域との関連を言及する場合には解釈に慎重を要する。
オシレーションの周波数の高低は、空気の振動の周波数を表す。すなわち、空気を速く動かすか(高周波数)ゆっくり動かすか(低周波数)を意味する。速く動かす場合には、慣性の影響が大きくなる。手で物体を振動させようとした場合、早いほど手にかかる慣性力が大きくなるのと同じである。一方、ばねの弾性体を動かそうとする場合、できるだけゆっくり動そうとするほど反発する力が強い。すなわち、周波数が低いほど弾性の影響が大きくなる。
これらを呼吸器系で同様に考えると、低周波数で弾性が優勢になり、高周波数では慣性が優勢になる。実際、生体で測定した場合、Xrsは低周波数で陰性、高周波数で陽性になるような周波数依存性を示す。途中、陰性から陽性に変化するXrs=0となる周波数があるので、その周波数を共振周波数(Fres)と呼ぶ。健常成人のFresは、MostGraphで測定した場合には6~8Hz前後であることが知られる。
Xrsは閉塞性換気障害および拘束性換気障害を示す両病態で高値となる。また、小児では気管支内腔の空気量が成人より少なく、慣性の影響が小さくなるためにFresが成人よりも生理的に高い。Fresの低値は、例えば、体格が大きく気管支内腔が広く空気量が多い健常成人などで見られる。空気の慣性の影響が強くなるためである。
図1 周波数特性の例
非喫煙健常成人では、Rrsの周波数依存性はそれほど見られない(R)。これに対して、Xrsには生理的に周波数依存性があり、低周波数帯で陰性、高周波数帯で陽性の曲線となる(X)。陰性方向は弾性、陽性方向は慣性を反映する。慣性は周波数が低い場合はあまり問題にならないが、周波数が高くなると無視できなくなるほど強くなるため、高周波数でXrsはプラスに転じている。X=0となる周波数は共振周波数(Fres: resonant frequency)と呼ばれる。COPD、一部の喫煙者、一定以上の重症度の喘息などではRrsに周波数依存性が見られる(R‘)。R5-R20は周波数依存性の程度の指標である。
健常成人では、呼気や吸気の呼吸周期で小さな変化にとどまるが、疾患肺では、呼吸周期内でもRrsおよびXrsが大きく変化する場合がある。COPD重症例の典型的な例では、吸気時には気道径が保たれるものの、呼気時に気道が周囲から圧迫され狭くなる動的気道狭窄(dynamic airway narrowing)が観察される。MostGraphによってこの変化は可視化され、RrsまたはXrsの呼吸周期依存性として示される(図2参照)。特に呼吸リアクタンスの呼吸周期依存性はCOPDの特徴と考えられることが多く、その指標としてはX5の吸気と呼気の差(ΔX5)が用いられる。なお、呼吸器周期依存性は、典型的にはCOPDでみられるものの、喘息や上気道疾患、小児など他の疾患や病態および生理的状況でもよく観察される現象である。
図2 参考図:COPDガイドライン第6版より引用
(原典はMori K, Shirai T, Mikamo M, Shishido Y, Akita T, Morita S, Asada K, Fujii M, Suda T, Chida K: Colored 3-dimensional analyses of respiratory resistance and reactance in COPD and asthma. COPD 2011; 8:456-463.※)
Rrsは気道径が狭小なほど高くなる。また、気道径が狭小であれば一秒量や一秒率は低値であるはずだ。したがって、Rrs(代表的にはR5が用いられることが多い)と一秒量あるいは一秒率は逆相関の関係にあることが予想される。ところが実際には、逆相関が認められるのだが、その相関はそれほど密なものではない。サンプル数が少なければ、統計的に有意な関係でもなくなることが多い。軽度の喘息では、気管支拡張剤吸入によってMostGraphでは明らかにRrsが低下しても一秒量はほとんど変化しないという事例もよく経験される。一秒量や一秒率は最大努力呼気で測定するのに対して、Rrsは安静換気で測定するため、両者は違った切り口での呼吸機能の評価になっているのかもしれない。両者の関係は、多数のサンプルで統計をとってようやく有意とわかるような、ゆるい逆相関の関係と考えておくべきだ。
一方、Fresと一秒量の関係は密接で、とくに喘息患者では顕著である(粒来崇博, 他. アレルギー 2012; 61: 184-93. 柴崎篤, 他. アレルギー 2013; 62: 566-73.)。Fresが高いほど一秒量は低い値となる関係が明らかとなっている。リアクタンス関連の指標と一秒量が密に関係することは興味深い知見で臨床でも役に立つのであるが、その理論的根拠については今後の課題である。
小児の呼吸器疾患の管理において、客観的な気道評価は成人よりも重要であるかもしれない。何故なら、小児では患児本人ではなく養育者が症状を評価し、病院を受診させるか否かを判断する。さらに、長期管理として毎日の在宅治療は、無症状期に行うため患児のみならず養育者のモチベーションの維持が必要であり、そのために、気道状態を客観的な数値や画像として示すことが大切である。この点からも小児におけるモストグラフの意義は大きい。
従来、臨床応用されている呼吸機能検査は、強制呼吸により測定する。モストグラフは、安静呼吸で計測ができる。小児特有の未熟さのために、強制呼吸は、年長児でさえ再現性の点からもかなりの修練が必要になることがある。従来、強制呼吸が不可能なために、客観的気道評価が困難であった就学前の幼児の検査が可能である。安静呼吸で計測することで、より生体の呼吸状態に近い気道状態が評価できると考えている。
吸気呼気の呼吸相別に気道部位別に気道評価ができるのは、モストグラフのみである。
呼吸相別や気道部位別に測定することで、疾患特異性の病態が敏感に反映されるため、より多くの気道情報が得られる装置である。測定値は、小児では身長など影響があるが、日本人小児の正常値の作成も進んでおり1)、 今後小児の喘息の診療での活用が望まれる。
現在、卓上型のモストグラフ(MostGraph-02)が販売されている。従来のものと比較し、より小型であるため外来の診療室に設置することが可能である。より簡便に検査ができるため、多忙な小児科医にはより身近にモストグラフを使用した呼吸機能検査が可能となった。さらに、呼吸抵抗センサー支持アームの可動域が広いため、座位の保持や体位変換が不可能な状態でもベットサイドで検査が可能となるため、呼吸状態が悪く、経時的に呼吸状態を迅速に評価し、診断や治療効果判定が必要なケースでは、非常に有用な検査機器となることは明らかである。今後、日常診療に広く普及しより多くの子どもに役立てる日が来ることを期待する。
①気道過敏性
呼気NOとモストグラフを用いて気道過敏性が予測可能かを検討した報告がある(福原ら. アレルギー2017; 66: 42-49)。 病状の安定した非増悪時の喘息患者115例を対象に呼気NO(CEIS法)とアセチルコリンを用いたアレルギー学会標準法を行ってROC解析した。その結果、logPC20と呼気NO、R5、R20、R5-R20、FEV1との間に有意な相関を認めた。ROC解析の結果、カットオフ値をR5=4.24 cmH2O/L/s、R20=2.77 cmH2O/L/s、呼気NO=37.8 ppbとした場合、気道過敏性陽性率はR5<4.24かつ呼気NO<37.8の場合は17.2%、R5>4.24かつ呼気NO>37.8の場合は65.7%、R20<2.77かつ呼気NO<37.8の場合は7.1%、R20>2.77かつ呼気NO>37.8の場合は66.6%であった。したがって、R5またはR20と呼気NOが高値の場合気道過敏性検査が陽性になると言えよう。
②呼気NO
好酸球性気道炎症を反映する呼気NOとモストグラフとの間には直接的な関連はない。末梢気道および肺胞領域の呼気NOとリアクタンスの吸気相と呼気相の差に中等度の相関を認めた報告がある(Shirai T et al. Clin Exp Allergy 2013; 43: 521-26)。呼気NOは喘息コントロール不良な場合には通常増加するが、増悪時の気道収縮に際してはかえって減少することがある。この報告は末梢気道および肺胞領域における同様の現象を捉えている可能性がある。
③アウトグロー
アウトグローとは、アレルギー疾患が薬物療法などに頼らず、成長に伴ってその症状が寛解または治癒している状態のことをいう。喘息でも、小児期の喘息が思春期に自然に症状が消失することは普通に観察され、喘息のアウトグローと考えられる。しかし、いったん治癒したと見えても、成人してしばらく経過後、喘息が再発することもある。
MostGraphで小児喘息であってアウトグローしたと思われる20代男性の測定をした際、Rrsが若干高値であった。周波数依存性などは認められなかった。症状もまったくない。しかし、気管支拡張薬を吸入させたところ、あきらかにRrsは低下し、MostGraphの3Dカラーグラフでみたところでは、黄色から緑色に変化した。
喘息がアウトグローしたと見えても、潜在的に気道の収縮がある可能性はないだろうか。スパイログラムでは知るべくもないが、MostGraphではこのような課題を解決できる可能性があると思われる。
④咳と咳喘息
日常診療の気道可逆性試験でスパイロメトリーとモストグラフを併用すると、FEV1 200 mLかつ前値の12%以上の増加(ATS/ERS 2005)の基準を満たさない場合でも、オシロメトリーが改善し、色の変化で気管支拡張反応を確認できることがしばしばある。最近の検討では、Fres −1.695 Hz、24.4%改善を閾値とするとROC解析でAUC 0.615の精度でコントロール不良な喘息をFEV1と同等に予測可能なことが判明している(Nakayasu H et al. Allergol Int 2023; 72:597-99)。この可逆性試験におけるオシロメトリーの指標のうち、ALXの気管支拡張反応前後の差(−0.41)がFEV1、MMF、拡張反応前の呼気NOよりも正確(AUC 0.720)に咳喘息を診断することが可能であったという報告がある(Watanabe H et al. Ann Allergy Asthma Immunol 2019; 122: 345-6)。
図3 白井敏博. Pharma Medica 37(3); 37-40, 2019
①さまざまな指標との関連
●COPD Assessment Test (CAT)
未治療のCOPD患者65例を対象に、モストグラフがCAT score 2点以上の改善を予測し得るか否かについて検討した報告がある(Takahashi S et al. Respir Physiol Neurobiol 2022; 296: 103809)。2か月間の気管支拡張薬治療の結果、CATと呼吸機能は有意に改善した。再帰分割法を用いて解析すると、R20、X5、ΔX5によって規定され、スパイロメトリーではされなかった。5つのクラスの中で3つのクラスが改善群として同定され、R20<1.86 cmH2O/L/s、R20≧2.24 cmH2O/L/sかつX5≧−0.51 cmH2O/L/s、R20≧2.24 cmH2O/L/sかつX5<−0.51 cmH2O/L/sかつΔX5≧0.34 cmH2O/L/sの条件下で71%から89%の改善率であった。
●3D-CT
COPD患者124例においてモストグラフとCT画像の関連について解析した報告がある(Karayama M et al. Sci Rep 2017; 7: 41709)。その結果、airway intraluminal area (Ai)は呼吸抵抗、リアクタンス、FEV1と、wall thickness (WT)はR5-R20、FEV1/FVCと、%low-attenuation area (LAA)はリアクタンス、FEV1/FVCとの関連を有することが判明した。
●6分間歩行試験
COPD患者57例を対象として6分間歩行距離350 m未満の運動耐用能低下をモストグラフが予測可能かを検討した報告がある(Yamamoto A et al. COPD; 2021; 17: 647-54)。その結果、カットオフ値R5 2.82 cmH2O/L/s、CAT score 17によりROC解析のAUCが0.78、0.76の精度で予測可能であった。さらに、R5とCATを組み合わせるとAUCは0.85まで上昇した。
②COPDと呼吸周期依存性
COPD患者では、吸気相に比較して呼気相で呼吸抵抗がより高値、呼吸リアクタンスがよりマイナスになる現象がみられ、呼吸周期依存性と呼ばれる。これは気道の支持組織の脆弱性による呼気相の相対的な気道狭窄を反映し、より重症な患者では呼気気流制限expiratory flow limitationとなり、動的肺過膨張の指標ともなる。喘息や健常者ではないか、あっても軽微な変化に留まる。
③将来のリスク
●5年間の長期変化
COPD患者24例における5年間のFEV1低下はモストグラフの呼吸リアクタンスの変化と相関していた(Akita T et al. Eur Respir J 2017; 49:1601534)。Z-scoreで表した各パラメータの5年間の推移(ベースライン、5年後)は、FEV1: -3.18、-3.56、X5:-1.06、-1.53、Fres:1.18、1.89、ALX:1、1.5であった。呼吸抵抗には有意な変化はみられなかった。
●増悪歴の有無による経年変化の相違
COPD患者51例の中央値57か月間のモストグラフを用いたfollow-upの報告がある(Kamada T et al. Int J COPD 2017; 12: 509-16)。FEV1と呼吸抵抗・リアクタンスの経年変化は増悪歴のある患者で有意に大きかった。