Interview  高知県香美市教育委員会 教育長 白川 景子  

コロナ禍でも「子どもたちの学びを止めない」!

教育DXと連動した「キャリア教育の進化」へのチャレンジ!

香美市教育委員会では、キャリア教育推進の取組として、香美市の企業や団体とともに、2014年度から「キャリアチャレンジデイ」を継続して実施しておられましたが、コロナ禍において「キャリアチャレンジデイ」の中止が余儀なくされました。

しかし、コロナ禍でも「子どもたちの学びを止めいない」という思いのもと、教育DXと連動させ、2021年度にオンラインキャリア教育プログラム「キャリアチャレンジデイ On-Line Meets」を導入され、「キャリア教育の進化」にチャレンジをしておられます。

そこで今回は、香美市教育委員会教育長 白川景子氏にインタビューを実施しました。

インタビュアー:(株)キャリアリンク代表取締役 社長 若江 眞紀


高知県香美市教育委員会

教育長 白川 景子氏

【プロフィール】
高知県公立小学校教諭、中部教育事務所指導主事、高知県教育センター研修部長、高知県教育委員会小中学校課長等を経て、南国市立大篠小学校長を歴任。その後、平成26年4月から令和3年3月まで高知大学教育学部客員教授として「社会科」や「生活・総合的な学習の時間」の研究校への指導助言。令和3年5月26日より現職。

若江)
キャリアチャレンジデイOn-line Meetsは、コロナ禍で「子どもたちの学びを止めない」だけではなく、オンラインを活用した教育DXという「学びの進化」へのチャレンジでした。率直な感想をお聞かせください。

白川)
非常によかったと思います。実は、コロナ禍でなければ、3つの中学校が一同に集まって実施する予定でした。

それが、オンラインになったので、時間的な制約が少なく、自分たちがいつも学ぶ教室で、「3つの中学校が同時に」「同じ内容を」「しかもライブで親近感をもちながら」授業することができた。3つの中学校、企業のみなさん、そして私たち教育委員会などが『同時につながる』のは、これまでにない“わくわく”する不思議な感覚で、新たな時代に足を踏みいれたという実感をもちました。

若江)
香美市の「新しい学びの扉が開かれた」瞬間だったのではないかと思いますが、先生方や生徒たちの反応はいかがでしたか?

白川)
まず先生方の反応ですが、もちろん慣れないので、機器の取り扱いや教室環境整備など戸惑うことは少なくなかったです。教育委員会の事務局も一丸となってバックアップしましたが、当日までドキドキでした。

実際、オンライン授業が始まると、企業講師のお話のすばらしさに引き込まれました。シンプルで伝わりやすい、まさにオンライン時代のプレゼン内容で、働いている方のいきいきとした表情が、そのまま画面から溢れ出るよう伝わってきて、生徒たちはどんどん前のめりになって真剣に話を聞いていました。先生方とも、オンラインでもここまで実感できる学びができたことは、大きな宝物になっただろうとふりかえっています。生徒たちは「働くことって楽しそうだと思うようになった。努力しないといけないけれど、早く働くようになりたい。」と話していたと聞いています。

若江)
香美市教育委員会では、これまでも市の中学校が一同に集まってみんなで学ぶというリアルなキャリア教育を積み上げられてきています。
今、子どもたちの様子を見ておられて、どのような体験が必要だとお考えですか?

白川)
このキャリアチャレンジデイでも強く感じましたが、「柔軟に対応する力」が弱いということです。今回は、講師やコーディネーターの方が上手に対応してくださったので、双方向型のオンライン授業が成立しましたが、このように「突然現れた新しいことに、臨機応変に、素のままの自分で向かっていくこと」が非常に弱いと感じています。

これは、先生方にも申し上げたことです。むしろこれは今の小学生のほうが強いかもしれません。今回のような経験を積み重ねて、例えば、有名な企業の人たちに対しても、ひるまず意見を述べる子どもに育ってほしいと思います。

もう一つは、「郷土の未来を創る子どもたち」を育てたい、ということです。香美市は、全国よりも過疎化が進んでいます。だからこそ、キャリア教育では、地域をいかに生かすか、地域の中で自分が担う役割は何なのか、大人になって地域の中でどういう役割を果たしていくのか、を考える子どもを育てたいと考えています。このような視点でも、このキャリアチャレンジデイはすごく有意義で、さまざまな分野の方から刺激を受けながら自分の郷土を愛し、自分の郷土を拓く人になってほしいと思っています。

若江)
香美市教育委員会がこれまで実施してこられたキャリアチャレンジデイは、市の身近な企業や団体、高知県という地域がベースでした。
今回の
キャリアチャレンジデイOn-line Meetsはオンラインだからこそ、地域を超えたつながりが実現しました。こういう2本立てもいいかもしれませんね。

香美市の教育において、キャリアチャレンジデイをどのように位置づけておられるのかお聞かせください。

白川)
今回の中学2年生の取組は、15年間をかけた一連の学びの連続としてとらえています。

15年間というのは、就学前のキャリアの形成から始まります。そして、小学校では“キッズチャレンジデイ”という時間を設けており、その中で役割を果たしながら自分の思いや願いを形にする経験を積む。中学校に入ると、自分の進路を具体的に考える時期の、中学2年生でこのキャリアチャレンジデイを実施する。これを節目として、社会の中での生き方を考え、決めていく。このように15年間かけて築いていく全教育課程の中で、キャリアチャレンジデイは大きな「節目の時間」として大切にしています。すべての学びは続いています。ですから、先生方にとっても、15年かけてどの程度育ったのか、どの程度身に付いているのか、しっかりと評価する機会にしてほしいと思います。また、このように「節目」だと考えると、中学校の先生方には、この取組を通して子どもたちはどのように変わっていくのか、見通しと期待をもって、一年間をかけてしっかりと育ててもらうことが大切だと考えています。

若江)
今、先生方は目の前の現状にも対応しなければならないし、新しい教育への対応も同時にしなければならない。本当に大変だと思います。
そんな中でも新しいことにチャレンジしていただくことで、子どもたちの姿から、先生方が学びの変革につながる刺激やヒントを得るというそんな機会にもなっているのではないでしょうか。

白川)
はい。キャリアチャレンジデイ当日に、担任の先生が報告してくれたことがありました。

企業講師の話の後、作戦タイムとしてミーティングした場面の話です。非常に大事な視点が出てきたから、板書していたら、生徒のほうから「こんな質問をしたい」とか、「これが大切だと思った」とか、「これまで学んだこととつながったことは何だ」とか、本当に短い時間に次々に意見が出てきていて、私も嬉しく思いました。

若江)
これまでの先生方は生徒たちに知識・技能をインプットするのが中心でしたが、新しい指導要領で求められた資質・能力を育成する授業スタイル、子どもたちの中にあるものを引き出した瞬間だったといえますね。

白川)
この時の経験が、普段の授業の中にきっと還っていくという確信をもちました。これまでと同じ教科の授業をしていても、ここは「キャリア教育として押しどころだな」というところは、先生方の工夫が入っていくだろうなと実感しました。今回の取組は、本当に、この時間だけにとどまらない価値がある経験ができると思っています。

若江)
キャリアチャレンジデイOn-line Meetsが、これからも継続・発展していくにあたって、教育委員会、学校がどのような準備を必要とされるのか、また、私たちコーディネーターが準備すべきことなどをお聞かせください。

白川)
一つ目は、年間計画を工夫し、地域実施とオンライン実施のミックスはできないか、と考えています。地域には、その地域ならではの個性がある企業があります。そこからは、実物を持ってきてもらうなどのキャリア教育を行う。一方で、オンラインでは、全国展開している企業、例えばロケットを飛ばしている会社など、地域を超えた学びを、今年と同じように3つの中学校同時にみんなで学ぶ。これはきっと可能なやり方だと思います。

二つ目は、やはり、オンラインでの学習を充実させるためには、事前事後の学習が不可欠。「将来、自分がどのような姿を実現させたいのか」という自分のキャリア形成について、そこを充実させるのが、学校、私たちの課題です。


三つめは、単発の交流にとどまらない方法。事後学習など、生徒たちがまとめたものを、当日交流したみなさんにお伝えしたり、またメールでコメントを返してもらったりできたら、さらにありがたいですね。

若江)
ありがとうございます。私どもとしては「学びを止めない」だけではなく「学びを進化」させたいと思っています。そのためには、みなさんからのフィードバックが不可欠です。
今回、経験していただいた先生方の中にも「ティーチングからファシリテーションへ」という気づきがあったかもしれませんし、教育委員会さんも、それぞれの学校へのサポートを通した客観的な気づき、地域と全国の企業との比較を通した気づきなど、さまざまな、言わば学習機会があったと思います。
こういった、いろいろな気づきがもたらされるような、それぞれの人にとってもキャリアアップのチャレンジ機会となりますように、これからもご一緒させていただきますのでどうぞよろしくお願いいたします。