政治的リーダーシップの研究者や学生たちは、「政治的リーダーの信念、ひいては彼ら・彼女らの政治的反応に影響を与える要因は何か」という問いに長年頭を悩ませてきました。文献を読めば、さまざまな条件群が政治的リーダーの信念の変化に影響を与えるという点において一般的なコンセンサスが得られていることがわかります。それらの条件は、環境条件から個人的な性格まで多岐にわたります。いくつか例を挙げれば、「危機的状況」、「党のイデオロギー」、そして「リーダーの人格とモチベーション」などがあります(Swinkels, 2020b)。研究者たちの間では、さまざまな要因が政治的リーダーの信念の変化をうながす役割を果たすと認識されていますが、その過程における因果複雑性を実証した研究は皆無といってよいでしょう。
そこで私は、さまざまな要因の相互作用とそれらが政治的リーダーの信念の変化に及ぼす影響を分析する方法を探す冒険を始めたのです。「すべての道はローマに通ず (私の研究の文脈では「ブリュッセルに通ず」ですが・・・)」の通り、ある結果に至る複数の経路を導き出したいと願っていた私にとって、QCAまさに私が求めていたピッタリの方法だったわけです。
この研究(Swinkels, 2020a)のために、ユーロ圏危機の時期における経済ついての中核的な信念にまつわるデータを得ることのできた、EUの政治的リーダー12人を選択しました
(Van Esch et al., 2018)。これらのリーダーたちを選ぶ際に用いたのは、内需主導型と輸出主導型の成長モデルをもつ国のリーダーなど、「最も異なる (most different)」基準です。それぞれのリーダーの経済に関する信念がケインズ主義よりのものなのか、それともオルドリベラリズム(オルド自由主義)よりなのか、そしてユーロ圏の危機を通じてこれらの信念がどのように変化したかを分析しました。
これに続いて、どのような政治的・経済的条件の組み合わせが、リーダーたちの間で観察された信念のさまざまな変化という結果に影響を与えたかを知りたいと考えました。私の研究では異なるタイプの信念の変化を設定していましたが、QCAを用いることでそれらのそれぞれに至る異なる経路を系統的に分析することができました。これらの原因条件の設定にあたって、私は量的データと質的データの双方を使用しました。このように、異なるタイプのデータを用いて分析できる点もQCAの理想的な特徴といえます。
この研究を通じた私の発見は、EUの個々の政治的リーダーの直面する社会経済的状況が、それぞれの経済に関する信念に影響を与えるという考え方に根拠をもたらすことができた点です。ユーロ危機の期間を通して、それぞれの政治的リーダーたちが対峙していた一連の社会経済的状況は異質なものであり続けたため、リーダーたちの信念が収束する機会は制約され、ユーロ圏危機のもとでのリーダーたちによる共同意思決定をさらに複雑なものにする可能性もありました。
さらに、私の研究では、既存の学術文献(Culpepper, 2014; Schoeller, Guidi, and Karagiannis, 2017; Van Esch, 2014)でも共通して見つかっている逸脱事例に対する代替的な説明に踏み込むこともできました。それらの代替的な説明のひとつは、個々のリーダーの信念に対して、より広義なヨーロッパの政策言説が影響を与えているというものでした。私はこの発見をもとに、リーダーたちの信念の変化の起こる理由とそのタイミングに関する実証研究をのちに実施しました。
これは私の個人的見解ですが、私自身も含むEUの危機におけるリーダーシップを専門領域とする研究者の間では、QCAを採用することで、特定のリーダーシップという結果を生じさせるさまざまな要因の影響を体系的に追跡するための確固たる方法を手にできることになります。QCAを用いることで、一方では、この専門領域における従来の方法論のアプローチに因果複雑性の考え方がもたらされます。他方では、そのような因果関係のパターンを分析するための体系的な手法が提供されます。さらに、QCAは、過程追跡 (process tracing) やその他の高度な事例研究の手法を用いてさらに掘り下げる対象となる興味深いケースを特定するためにも力を発揮します。(マルチメソッドを用いたリサーチ・デザインについては、第2章を参照してください)。
Marji Swinkels: Utrecht School of Governance, Utrecht Univresity